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諦めの早い金融人の肉食異世界草食チャレンジ  作者: くぬぎりす


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商隊と公共サービス

ざりざり、ザリ、ざり。

砂と車輪が絡む音が旅情を感じさせてくれる。

私達の乗る半自動カートは、王国へ向かう道を、時にはずれながら、時に強引に戻りながら、進んでいく。


「豪華な布陣だな。空に何人いるんだ。離れたところにもいるんだろ。こんな規模で雇おうとしたら一体いくらかかるんだ」

カートに乗ったり、バルドーさんと一緒に歩いたりと忙しないリュートくんが言う。肩の上のヒューイくんもまん丸おめめで頷いている。

「たまたまたくさんの利害の一致がおこったんだよ。同じことはお金だけじゃできないと思う」

答える私の声もしみじみしたものになる。

「すごいですねぇ。強そうですねぇ。コリーさんは参加しなくて本当に良いんですかねぇ」

今日も枯れ枯れしたダイルさんが、私達の上を飛ぶワシミミズクを見上げて言う。


前方に、ギースさんをリーダーとした水牛の獣人達に牽かれたベビーカート数台が見えている。大所帯なので離れていても目立つ。

ギースさんはぐいっと伸びた角が立派な水牛の獣人で、角に相応しい巨体の持ち主である。

ベビーカート周りを、昼寝から起きて元気いっぱいな子トラや子ライオンが跳ね回る。

さらにその周りを大人の屈強な獣人達が囲んで進む。

上空にはワシやタカの獣人達がいる。

英雄達の街ベビーカート隊である。


大型肉食獣人の王国派遣計画を求められた私は、まずはと叩き台を作った。

式典用のユニフォームはフランクさん御用達店の特殊素材で全員分オーダーメイド、道中及び王国の宿は可能な限り獣人に好意的なところ、食費は妥協できない、等々費用を積み上げてケインくんに送った。


正直そのまま通るとは思っていなかった。

意外に参加者が多くなったので見積りが高額になったのだ。

何でも成人認定前の子ども達に、単独での狩り、群れでの狩り、多種族と連携しての狩り、素材の採集等々を実地訓練させようと目論む親が多かったらしい。

または、たまにはかっこいい姿を見せたい親や兄姉が多くいたらしい。

親子、兄弟姉妹、親戚単位でエントリーされ、十分過ぎる人数が集まった。

そこで、何隊かに分けて、街道周辺の不審物調査・排除、ならず者退治、害獣駆除をやりますよ、そこからも予算下さい、と書き送った。


すると強かな役人オオカミは、護衛サービスまでつけて大々的に広告したのである。

曰く、王国行事のため、この国から特別隊を編成する。

英雄達の街の獣人護衛達とこの日程、このルート、何名まで、同行可能。

後続便乗は完全な安全保障はないが、何名まで、可能。

前方の各種障害物は排除して進むため、前方の安全は確保される、云々。


細かく設定してちょっと高い公共サービス化したのである。

本隊は、王国に行きたい、または帰りたい商人や家族に売り込んだ。

後続は、護衛代を圧縮したい商人に枠として売り込んだ。

強力な護衛付き団体の後ろを堂々と付いて行けるとなれば、安心感が違う。

商人が何名枠と買い取り、自前の護衛団とセットで高額ツアーを企画したり、高額品の輸送を計画したりと賑わいをみせた。

かくして国の一大施策となった街の慰安旅行は、巨額の予算を獲得し、国の三か所から二回に分けて出発した。


一番護りが厚いのが一つだけあるベビーカート隊で、獣人の年少組と一般人家族を真ん中に、猛々しい獣人達を配置している。

この隊は道行きに、わかりやすく比較的安全な駆除だけを行う。他は遠巻きに配置した獣人達が引き受ける。

子ども達が疲れたり、怪我をしたりした場合はベビーカートに乗ることができる。人間達は自前の乗り物か、商人が別料金で用意する半自動カートを借りて乗ることもできる。


身軽な大人だけの隊は、各種駆除・採集をするグループと護衛をするグループに別れている。

好き勝手動かないとストレスになるタイプは人間達とは別にして、駆除、退治、調査した結果を最寄りの国の出張所に渡しながら進む。

そうすると大体みんな同じ位の時期にゴールするのではないかと思って構成した。


結構な売れ行きをみせた一般枠を見て、私とカイくんは、街のみんなとは別に王国を目指すことにした。

お客様が増えればみんなが使える予算が増える。

私達は、アレクサンドルさん達三人とバルドーさん、リュートくん、ヒューイくん、それからコリーちゃん、ダイルさんペアと一緒に進んでいる。

獣人達がやたらと絡んでくるものの、特別隊とは別の私的な道行きの体である。


「コー、これうまいんだぞ。食ってみろ。穫りたてじゃないとしぼんじまうから持って帰ってやれなかったんだ」

「カイ、向こうで暴れイノシンを追い込んでるんだ。行こうぜ」

好き勝手し隊筆頭チーター兄弟がよって来る。


開けっ放しの窓からぷっくりとした果実が差し出されたのでかじってみる。

果汁がはじけ、腕の内側と顔に飛んだ。

美味しいが、恥ずかしい。

カイくんが素早くタオルを濡らして渡してくれる。

大丈夫、行って良いよ、と言うとカイくんがチーター兄弟と街道を外れていく。


私達は独立採算の商隊だが、街の獣人としてカイくんも時折比較的安全な狩りに参加するのだ。

カイくんの狩りを見に行きたいが、足手纏いになることが確実なので、空気が読める大人の私は大人しく防弾強化ガラスの窓を閉めた。



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