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住人と待遇

カリカリ。かり、かり。

そろそろ手が限界だ。


中央から街に帰ってきて数日が経った。本日コーさんは、ガヤガヤしている寄合所の隅にいる。


我が街の孤児院は、種族的な未成年が私だけになったので閉鎖された。代わりに託児所が拡大された。

孤児院自体、私以外は親が他所で災害や犯罪に巻き込まれてしまった少数の子を受け入れていたくらいなので、臨時的なものだったのだ。

最近私は託児所兼寄合所の空き部屋を住みかにしている。

そして、日中は寄合所部分の机で計画を練っていることが増えた。


かりり。かり。ふう。

高級なシャープペンのような筆記具をフランクさん経由で貰った。私の知るシャープペンより硬い芯を擦り付けるようにして文字を綴るものだ。私はこれを訓練がてら愛用している。


持ち手部分は硬いことで有名な鉱物でできている。高度な技術で削り出してつくられたものだ。

端的には、獣人達が多少気遣いを忘れても壊れない筆記具である。

書き付ける先も薄い紙ではなく専用のものだ。特定の環境下でしか育たない植物の繊維を使っており、まず破れない。

最近獣人向けに開発された文房具シリーズの最新作である。

メーカーは、カイくんパパの出資先の一つである。

持ち手部分を自由に素材からデザインできるので、安価なものから高級なものまでみんな楽しめるのが良い。


メーカーからデザイン部門が独立して、シリーズの外装部分を専門に製作販売していくことになったとき。資金を欲しているがどうかとフランクさんが私に声を掛けてきたので、応じた。

私が出した金額は全体から見れば少額だったはずだ。

しかしながら親会社関係以外の資金を獲得できたことが嬉しいと、とても感謝された。


そうして現在一番硬い一式がフランクさんを通じて送られてきた。

英雄達の街在住ということから、私は屈強な大型肉食獣人だと思われたらしい。


ワクワクして使いはじめたのだが、私の手には大きく、固く、重い。それでも使うのは、贈り主の気持ちが嬉しかったのと、デザインにある。

持ち手部分にかわいいオオカミがいるのだ。

駆けたり、吠えたり、おすわりしているオオカミがデフォルメされて彫刻されている。一番硬いシリーズのマスコットがオオカミだという。


今度ケインくん用に買ってプレゼントしようかな。

疲れた手を休めながらおすわりするオオカミを眺めていると、本物のオオカミがやって来た。

「計画はどうだい。どういう構成にするのかな」

カイくんパパである。




この国から正式にカイくんパパを団長として、王国への派遣要請が来た。

かつての獣人部隊の構成は流動的だったので、国から詳細な指定はされていない。

まずは、気まぐれな街の獣人達のなかから参加可能なメンバーを選出してたたき台をつくり提出するよう言われている。

言われているのだ、黒オオカミの秘書のコーさんが。


「派遣団長としてはどうなんですか。これは外せないとか、決戦の時の隊形とか、掛け声とか」

「ないなあ。あったのかも知れないけれど、まあ、代々イロイロやりやすいように変えて来ちゃっているからね。よく、前見た動きや聞いた話と違うと言われるよ」

カイくんパパだから笑い話にできるのだ。

真面目な人なら胃を痛める。


「メインは小さい子たちのアクロバティック演技でどうですか。あと、よく打診の来る近衛の話、一日近衛隊長として受けてみては。大人たちは揃いの隊服で最初だけ空と陸で隊形を組んで、女王に敬礼後さあっと掃けて行くのはどうですか。正式な振るまいとしてはよろしくないかと思いますが、幻っぽく消えていってみては」

ボロがでないように作戦である。

伝説は伝説だから良いのだ。


「近衛隊長と会うとしょうもない話をしたくなるんだよ。彼は真面目だからついからかいたくなる。王国のセレモニーでは近衛隊長が女王の最も近くにいるからなあ。二人で立っていたら耐えられなくなりそうだ」

「一日近衛は再考します」


「長老方をできるだけ連れていきたいんだ。昔馴染みも多いし、晩餐会に耐えられるのは彼らくらいだからね。あと各方面に配る記念品を考えろとケインが言うんだけれど、それ、良いね」

私のオオカミペンを見て言う。


「獣人用でなにもかも硬いですよ。私は好きですけれど」

「あの国はね、隠れ獣人好きがいるんだ。獣人なんて、と言いながら獣人の姿絵や写真を家で眺めたり、私の出席するイベントに来たりする。王族関係者は友好的だしね。獣人仕様のグッズも喜ばれるんだ。今回のためにオリジナルデザインで作れば、装飾品として喜ぶんじゃないかな」


面白いことを聞いた。

私もいくらか持って行って、配ったり販路を探ったりしてみようか。




「なあなあ、コー。王国行きメンバーは決まったのか。俺も行きたいし、こいつも行きたいってさ」

「私も行きたい」

「僕も」

託児所の子ども達がわらわらやって来た。

「じゃあ、お家の人にこの説明書を渡して、本当に良いと言ってもらったらこの同意書に必要事項を書いてもらって来てね。お家の人も参加できるから、それも相談してきてね」

好奇心旺盛なちびっこたち(といっても大概の子のサイズは私より大きい)だ。

獣人の子達が転げ回って寄って来る姿はたまらなくかわいい。


今回は安全な旅なので、この機会に経験を積むと良いと、大人たちも賛成で大々的に老若男女参加者募集中である。

極端な話、最低限の護りを残して大移動しても良いらしい。


強くて、気ままで、自主自立。この国で、英雄達の街だからこそ出来て、許されることであろう。

よほど代々好き勝手してきたことと思われる。

ケインくんやその先輩達の苦労が偲ばれる待遇である。

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