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諦めの早い金融人の肉食異世界草食チャレンジ  作者: くぬぎりす


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はぐれ個体とコミュニケーション

タッ、ス、スー。コリーちゃんが狭い部屋で静かに翼を広げて枯れ枯れお兄さんに飛びついた。

予測していた獣人達は素早く部屋の壁に寄った。

私は頼れるライオンの胸元で、ワイルドな草原を幻視した。

猛禽類のスピードに対応できる可能性ゼロな私を、ラスコーさんはきちんとソファから回収してくれた。


コリーちゃんの大きな翼は、ソファに座っていたダイルさんの身体をすっぽり包んで閉じた。

「ああ、あなたいろいろ足りてないわね。まずどうしようかしら。毛並みも整えたいけど、お食事かしら。太陽に当たるのも大事なのよ。あら、お肌が乾いているわ。人とのお話しは徐々に増やしましょうね」

顔を近づけ、目を近づけ、ハンカチを巻き付けた手でダイルさんを撫で繰り回しながらしゃべり続けている。


コリーちゃんは優しいワシミミズクだ。

弱った人を放っておけない。ときにそれが度を超えるので、手を焼くシチュエーションになる。



ダイルさんは獣人達に謝罪した。会議の場では自分の発言の指す意味がわからなかったが、更迭された後、この国の公開図書館で調べたという。

獣人達はダイルさん個人に恨みがあるわけではないと、謝罪を受け入れた。ダイルさんはもう、気負いも気合いも警戒心もなにもなく、誰が何を聞いてもすらすらと答えてくれる。


私は生まれが半分王国でして。年齢ですか、35ですよ。

そうです会議のころは白髪は目立たなかったですよねえ、ここのところで髪がごっそり抜けて、白いものが生えてきているんですよ。不思議ですねえ。みなさんがおっしゃる通り、何だかしわしわしてきましたので、バランスがとれて来ているかとも思うのですが。

そうです、共和国と王国、長じてどちらの国籍で生きるかというときに、共和国を選んだのですよ。

共和国の教育機関では、君達は税金のおかげでこうして素晴らしい学びができる、だから君達はこの国に恩返しをしなければならないんだ、と言われ続けるんです。

半分他国の人間なのでより一層貢献すべきと気負って、後ろ指さされることない立派な共和国人たろうとしたんです。

そうです、そのおかげか、明るく輝く共和国の公的役割を担わせてもらえたんですねえ。


獣人のみなさまには大変失礼なことながら、共和国の獣人の方々は、自然体なのだと疑うこともなかったんですねえ。いやあ、本当に、更迭されて、アカウントを取り上げられて、共和国の人間が周りに誰もいなくなって、ようやくこの国の獣人のみなさんの様子が認識できたんですよ。


ああ、アカウントは会議後すぐさま没収されました。公的身分が証明されていますからね。まあ、もう返してもらえませんよ。他の機能だけでも、とはいきません。

こちらの激しいやり取りを遠目で見ていた事務局の方に立ち去り際、これまでの経緯を正しくご存知ですか、この国では公開されていますよ、ご自分でご覧になっては、とお言葉をいただきました。


ホテルですか。国から、宿泊代も共和国の公費だ、すぐさま出て行くように、と言われましたのでねえ、街中で獣人の方々の流れに着いていって今のホテルを見つけました。

その日の夜は一睡も出来ませんでした。全てを失ったことが、ベッドでじわじわ来ましてねえ。でも国が私を切り捨てたことはよくわかりましたが、理由がわからなかった。本当に、何故みなさんがご不快な思いをされたのかわからなかったんですよ。国からは、怒らせたことを責められましたが、発言の内容についてはノータッチでしてねえ。

翌朝図書館に行きました。この国は良いですねえ、誰でも利用できる図書館があって、閲覧だけなら他国人でも使えるんですねえ。そうです、共和国では、獣人や他国人は使えません。


過去の新聞や公文書を見て、本当に私が生きてきた時代と同じ時代のことかと疑いましたよ。報道の記憶が全く噛み合いませんでねえ、そちらの団長さんの奥様のお話など、もう、自分が共和国人と胸を張っていたことが恥ずかしくなりましたし、自分の会議の時の発言は思い出すにつけ吐きましてねえ。トイレと閲覧室を行ったり来たりするので、心配した方に医務室に案内されました。


それからは、やるべきことも、やらせてもらえることもないので、最後に事務局の方の言葉に従って、獣人の方々の自然な様子を見て過ごそうと思いましてね。いや、もう自分の最後の役割は、綺麗に表舞台から消え去ることだとわかっていますから。自分がこれまでやってきた側ですからね、そりゃあわかりますよ。何を求められているか。


部屋のベッドを窓に寄せて、ずっと獣人のみなさんのイキイキとしたお姿を拝見しているんですよ。自分のことを振り返ると吐いて部屋を汚してしまうので、できるだけ獣人のみなさんの動きとか表情に集中しましてねえ。みなさん鋭くて、私の視線に気付かれるんですよ。やあ、どうしたね、って声をかけてくれるんですよ。ああ優しいなあ、と思って、そうしてまた胃液を吐くんですが。

今朝からはそれもなくなったのですよ。そうしたら迎えに来てくださった。嬉しかったですねえ、お詫びする機会を与えてくださって。久々に起き上がったんですよ。

あれ。でも連絡先をお伝えしたのは想像のなかでは。あれ、でもそうするとどうやって、あのホテルを?

不思議ですねえ。でも団長さんが王国の方と談笑されていたのを見たような。いつ外に出ましたかねえ。


あれ、どうでしたっけ。

出された紅茶をちびちび飲みながら、潤んだような膜越しのような目で、問われるままポロポロと喋り続けたダイルさんが、時系列の矛盾に自分で気づいた。

私たちは目線を交わし合い、頷いた。

「コリーちゃん、もういいよ」

私の言葉に、ワシミミズクは獲物に飛び付いた。



今回私は街の皆に、コリーちゃんが必要かもしれない、しばらく帰ってこないかも、と伝えた。

みんなは、それは仕方がない、あとは任せておけ、と答えた。

詳細は何も伝えていないのに、どれが仕方がないのか。何を任せたのか。

コリーちゃんの普段の扱いが察するに余りある。

ちなみに、うむ、で終わったのがワシミミズクお父さんで、あらあら大変こちらは私一人で大丈夫よ、と送り出したのがお母さんだ。


「まずは胃に優しいものでも食べにいくのかしら。細切れな焼き肉でもどうかしら。人間には重いのかしら。でもお粥とか歯ごたえもないものは力が湧かないと思うのよね。でもコーちゃんはダメらしいのよねえ。あなたの体格なら大丈夫じゃない?」

大丈夫じゃないと思う。


コリーちゃんの勢いにダイルさんはぽやーんとしている。

「あの時は声の低い男性かと思いましたが女性だったのですね。失礼しました。やはり獣人の方々の能力は深いですね」

しみじみ言っているが、それは違う。

コリーちゃんと間違えられたら、さすがのワシミミズクお父さんもセンテンスで抗議すると思う。


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