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コーと時間

かきかき、かきかき、ぴとぺた。

書いて、付けて、押す。

フランクさんに用意してもらった書類とテンプレートを見合わせながら、ひたすら書いて、書いて、拇印を押している。


会話や文字を読むことまでは、自動翻訳が仕事をしてくれるのだが、文字を書くことまでは手助けしてくれない。

まだ書き仕事は勉強中なのだ。

今回はフランクさんとカイくんパパに意向を伝え、適切な書き言葉の言い回しでテンプレートを作ってもらった。

大して自筆すべき量はないのだが、良い機会なのでベーシックな言い回しを書きながら覚えようとしている。そのために時間がかかっているのだ。勝手に翻訳されて頭に入ってくる言葉を振り切り、奥の文字をすかし見て、書き留める。何度か書いていると正しい文字になり、私が書いた文字が自動翻訳にかかり、頭に意味が入ってくる。こうなれば成功だ。


ぴと。ぺた。獣人の種族や個体の確認のために、正式な契約書類には人間も獣人も拇印または肉球印だという。印鑑証明書を取らなくていいのはよいけれど、それで識別できるのか。フランクさんに聞いてみたところ、専門職があるらしい。まだまだ知らないことがいっぱいだ。


中央に戻ってきた初日である今日は、時間も半端なので私は外出せずフランクさん邸にいることにした。

カイくんパパを送り出してから、私は机にかじりついている。

ここは巣穴のひとつ扱いなので、客室に一人である。

カイくんも気を休めたり、遊び回ったりする時間が必要だろう。

遊びに行く時はフランクさんのところの警備スタッフが付いてくれることになっているので安心だ。



興が乗って、外からの光が感じられなくなるまで書き取り練習をしてしまった。集中を切ると頭がぐるぐる煮立った感じがする。

お子様ボディが疲労を訴えている。

疲れやすいが、骨が椅子にあたって痛いということがないのは素晴らしい。


とっくに書き終わっていた本命の契約書類を片手に、ついつい精神年齢相応の筋の伸ばし方をしながらガチャリと扉を開ける。気づいてしまうと目もしょぼしょぼする。腰も回したくなってくる。人のいないことを良いことに歩きながらいろんなところを回していたら、角を回ったところでカーライルさんと出くわした。


「おお、嬢ちゃんに死んだ親父がダブって見えた。親父もそうやって変な体の回し方してたぞ」

「アレクサンドルさんのお師匠様なんておこがましい」

「首が痛い、肩が痛い、骨が当たって痛いってな。腕が上がらなくなった親父のために、会長がものの上げ下げをやってやってな。嬢ちゃんと会長、どっちが先に親父に追いつくだろうな」

「ふふふ」

一度経験していれば二度目は慣れるのだ。

今世も諦める覚悟は出来ている。

「不気味だな」


アレクサンドルさんも来ているというので、カーライルさんと応接室に行く。応接室にはフランクさんもいて、二人で私を待っていたらしい。

「おや、一人ですか」

「ああ、カイ坊ちゃんは中庭でバルドーさんとリュートくん達と一緒だよ。行商の予行練習だと楽しそうだった。ちょっとずつ買ってきて梱包して、走り回って、昼は何か焼いて食べていた。暗くなる前に切り上げてシャワーを浴びて、一眠りしたはずだ」

何だその健康的な過ごし方は。

「フランクさん、出来ました。見本をありがとうございました」

手に持っていた書類を渡す。

大人三人が気の毒そうな顔で私を見た。


「ハッシュさん達の威光は大したものですよ。即金という魅力はあるのでしょうが、想像以上に楽です。多分後ろめたさもあるんでしょうね。ハッシュさん達との取引になるなら浄化されると思うのかもしれません」

アレクサンドルさんは満足そうに言う。債権を割安に買い取れたのだろう。

「貸金債権はありませんでしたか」

「ありましたよ。貸金業者も送り込んでいました。住人が思ったより殺気だっていると根を上げています。件の商人の関係者が買い叩こうとしていましたので、懇意のサービサーを通じて阻止しました」

ファクタリングは正常債権を対象とする。支払期日を過ぎたものは対象とならない。

早めに次の段階の手を打ちたいと思っていたが、アレクサンドルさんはわかっていてくれたようだ。


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