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ゾウガメと休息

ごそ、ゴソゴソ、ゴソ。落ち着きの良い場所を探る。

つかまって良いところがわからないので、乾いた大きな甲羅にペタリと両手の平をつけている。

あまり負担をかけないように片足を地面につけていたら、エリーさんが長い首を伸ばして、ダイジョーブ、と言って自らの手足をニュッと伸ばした。

微妙に折り曲げていた足が甲羅を挟む形で宙に浮いた。

カイくんが隣でハラハラ手をさ迷わせている。


しょげていた私を見かねたワニガメのトールさんが、ゾウガメのエリーさんに話をつけてくれた。

ご高齢のご婦人に乗るというのは気が引けると言った私に、あの人はこの街の誰よりタフだ、とトールさんは笑った。そうしてわたしは街でゾウガメのエリーさんの甲羅に乗っている。



代表者会議の事務局が、とてもあっさりしていたので私達は街に戻ってきた。

本来なら会議二日目だった日の朝に、中央を出発した。

チーター兄弟が巡回がてら帰るというので、私は言った。乗せて、乗せて、と。

兄弟が私を見て、んん、ギリギリいけるか? と言ったところでカイくんが猛反対した。


曰く、上からついばまれたらどうする、横から攻撃されたらどうする、障害物を避けたあとコーがバランスをとれるわけがない、そもそもチーターの速度で振り落とされる、乾燥地帯に耐えられない、等など。

チーター兄弟は、じゃあちょっとだけ乗り物に並走してやるからその時だけどうだと言ってくれたが、保護者の許可は出なかった。

あまり身体的成長が見られないちびっ子コーさんと言っても、そろそろみんなに乗せてもらえる重量は限界に近づいていると思うのだ。

今回のような長距離は気持ち良いだろうなあと思ったのだ。

しかし、お兄ちゃんストップがかかれば諦めざるを得ない。

大人な私は聞き分けがいいのだ。


中央土産の繊細な半生菓子を配り歩きながら私が、無理かな、イケる、うーんギリギリ、とみんなの体格を眺め回していたら、とげとげした体を揺らしながら近寄ってきたトールさんが声をかけてくれた。

トールさんは甲羅も顔の造りもトゲトゲしているが、性格も気の使いかたも優しく丸い。

「いつも以上に視線がヤバいな。どうした」

「すこしはバランスが取れるようになったから乗せてもらえないかなと思って。ほらもっと小さい頃は転げ落ちそうだからって言われていたから」

もう自分で体を支えられるよ。両手両足を広げてアピールする私を、トールさんはギザギザまぶたに縁取られたつぶらな目で怪しげに見る。

「カイはなんと言っているんだ」

「チーター兄弟はダメだって。速いからかなあ」

「本当にそんな理由か?」

いぶかしむトールさんであったが、最終的に、じゃあエリーさんならいいんじゃないか、あの人甲羅に乗せるの好きだしな、と結論づけた。


エリーさんはこの街最高齢にして最大のカメの獣人である。

手足を伸ばしきると三メートルを超えるのではないかというゾウガメで、二足歩行すると壁のようになってしまうのでみんなに気を使って四足歩行している。

よくいろいろな獣人の子ども達を乗せて街中を歩いている。

以前、いいなあと思ったことがあるが、推定年齢を聞いて、乗せてとは言えなくなった。

そのエリーさんに、トールさんが、コーも乗せてやってくれ、カイもエリーさんなら良いだろう、と交渉してくれたのだ。

そのあとに、コーの目つきがそろそろヤバいぞ、なんとかしないと、と言っていたのはいただけないが。


「重くないですか。もう降りましょう」

私の言葉にエリーさんが元気にかえす。

「ダイジョウブ。それよりも爪を立ててつかまってよいのよ。トールさんと違って凹凸がないから不安定でしょ。もうちょっと速くもできるのよ」

「十分速いからこのままお願いします」

私が答える前にカイくんが即応じた。


夢がまた一つ叶った。

想像していたより不安定だったが、幸せだなあ、と思っていたら油断した。

ぐらりと揺れて、手が滑る。

落ちる、と思うか思わないかの内に白い腕が私の胴をさらった。

はあ、というオオカミのため息が聞こえた。



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