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少年と試用期間

ちちっ、チッ、チチチッ。小鳥の声を聞きながらまどろみから浮上する。

穏やかな日差しと、整えられた庭と、白銀の毛並みの感触。幸せな目覚めだ。


魅惑の二度寝から昼前に起きた私達は、フランクさんと無謀少年リュートくんと昼食をとることにした。

フクロモモンガのヒューイくんは朝食の後またぐったり眠っているらしい。

リュートくんが部屋から出てきたところをつかまえて、恐縮する少年をフランクさんが待つダイニングに連れて来た。

アレクサンドルさんと共に、フランクさんへの挨拶は昨夜のうちに済ませてあるようだ。そしてこの邸宅のことを知っており、フランクさんに敬いの姿勢を見せている。

お父さんから、この地の名士の本邸であると聞いていたと言う。


全員そんなに量を食べないからと品数を絞った昼食を、落ち着いた感じのメイドさんがお世話してくれる。

リュートくんは危なげなく食事をしている。

私の本来の幼少期より大分まともである。

「いまさらだけれど、リュートくんはいくつ? 私は、六歳、かな?」

「それこそいまさらです。アレクサンドルさんから聞きました。人生のセンパイだと。アレクサンドルさん達より人生経験があるんですよね。僕は五歳です」

すっかりよい子風味をまとったリュートくんの視線が一度、フランクさんと私の間を往き来した。

アレクサンドルさん達が仕掛ける、この微妙なツッコミ待ち感はどう受け止めれば良いのだろうか。とうとう遠隔攻撃までしてきた。

年齢を聞いたことはないがフランクさん、アレクサンドルさん、カーライルさんよりも通算年齢は若い、と思う。


「五歳。しっかりしているね」

「父や店のみんなが、跡取りなんだからといろいろ教えてくれました」

最初のワイルドボーイのイメージがある私には違和感が凄い。

「話しやすい感じで良いよ。私もこんな姿だしね」


「カーライルさんからアドバイスをもらいました。出来ることをアピールした方がよいと」

ルーフェスさんの例がある。後進をからかうのはやめてほしい。

「出来るだけ正確に、再現してくれるかな。再現性の高さによっては、良いお仕事があるよ」

フランクさんとカイくんの視線が怖いので、視線はリュートくんに固定だ。


「嬢ちゃんは怖いぞ~。このルーフェスなんか嬢ちゃんのスピードに付いていけなくて一日でへこたれたぞ~。自信がなかったところに実践、実践、実践で失敗、失敗、失敗だ。使える人間だってアピールしとけよー。ぼーっとしてるとぶら下げられていたチャンスを引き上げられるぞ~。このルーフェスみたいに」

ナカナカのものである。柔軟性が良い。


「リュートくん。ヒューイくんが一緒に動けるようになるまで、ここで連絡係をしてくれるかな。書き付けのやり取りだったり、伝言だったり、出入りする人達とやり取りするお仕事だよ。この三日間ちょっと慌ただしいかもしれないけれど危なくはないよ。対価は、衣食住」

「そんなことで良いのですか」

「試用期間と思ってくれて良いよ。正式採用となった時に備えて出入りする人達の、人となりと関係性を掴んでおいてね」

言い回しが固かったかと思ったが、リュートくんは、わかりました、頑張りますと言った。


「フランクさん、いろいろとご手配いただいてありがとうございます。そして大事なお屋敷を好き勝手してしまって申し訳ありません」

リュートくんがヒューイくん用の軽食を持っていく、とダイニングを出て行った。

フランクさんとカイくんと三人になった場で、改めて私は感謝と謝罪をした。遅すぎる気がする。

「気にしないで良いよ。もともと代表者会議中はここをホテルがわりに使ってもらって良いと言っているからね。ホテルのロビーや会議室を使うのと同じと思ってくれていい」

それにしても、と微笑む。

「商売柄、縁と言うものはよく感じるところだが、今回はよくつながったねえ」

「縁ですか」

昨日の話は続くらしい。

カイくんがちょっと心配だ。


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