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息の長い基金

と、と、とっ。

軽い足音が近寄ってくる。すくすく成長中のリュートくんだ。少年はあっという間に青年の気配を漂わせているが、相変わらず肩にはヒューイくんがいる。フクロモモンガは自分の身長の数倍の高さにいるわけだが、あれが慣れというものだろうか。

離れたところにトラのお姉さん、ランさんがいる。


私達は今日、中央のプチリゾートにいた。ボノボのアミュさん母子を一日専属指名して、エスニック料理を満喫していた。たまに料理教室になる。


穏やかなボノボ獣人がドミーくんやシロくん、ナッジくんと穏やかに料理する様を眺めたかっただけである。穏やかに、穏やかに。


楽しそうなクロサイと、力加減に不安なドールとカラカル。


きゃっきゃっ。あわあわ。どきどき。

そんな擬態語が聞こえる料理教室である。見ていて大変に和む。


たまに運ばれてくる完成品に舌鼓を打つ。

そんな午後だった。


要はちょっと身を隠していた。もちろん街の獣人から隠れることはできない。するつもりもない。目端のきく人間から隠れて、時間稼ぎをしていたのだ。


「こんにちはー。ほーら、ヒューイくん、こっちにおいで~」

カイくんの隣から、私は立ち上がって両手を広げた。


フクロモモンガが小さな足で立ち上がる。防御力抜群の衣服に包まれた身体がいっぱいに広がった。リュートくんの髪をちょんと摘まんでいるのが大変キュートだ。


出会った当初から、小型獣人の警戒心が継続中のヒューイくん。悲しいかな、非力な私はなぜかフクロモモンガの本能に拒まれている。


私とフクロモモンガ獣人のいつものやり取りを流して、リュートくんが料理の並ぶテーブルセットに落ち着いた。ピリッとするチキンナゲットを摘まみながら言う。

「コー。王立学校が寄附金ほしいって」


「抜け目がないね」

王立学校の事務局長は、うまく私を使う。私とはっきり認識していないかもしれないが、バルドーさん一家を通じて、我が国や英雄達の街からうまく資金を引き出す。


こちらとしても、我が国や英雄達の街から学生や研究生を受け入れてくれるので、まあ、Win-Win というものである。


「今度は何がやりたいのかな」

前回は手違いで半壊した実験室の修理費用だった。その前は何かのセレモニー棟新設費用だった。


「幼年期の見学が増えてきたから、専用施設をつくりたいんだって。今回は見学希望地域から広く長く寄附してほしいから、うまく先陣をきってくれって」

リュートくんがそっとフクロモモンガを肩から下ろしながら説明してくれる。


ヒューイくんは料理の並ぶテーブルに着地すると、小さな両手でナッツをスパイスで煎ったものを掴む。キュートすぎる。


カイくんが懐からハンカチを出した。ピッチリ折り畳まれていたハンカチを一旦広げて、すすすっと折っていく。ほどなく、ヒューイくんサイズのソファーが出来た。テーブルの上、ヒューイくんの隣にそっと置く。


「ほら」

「ん。ありがとう」

大きな白オオカミと小さなフクロモモンガの交流が尊すぎる。


凝視する私をうるさそうに見上げたヒューイくんが言う。

「バルドーさん、収入が激減したからさ。まず、コーに言いにきた」


バルドーさんは護衛職を一応引退した。ドンと稼いだり、ドドンと働いたり、ドドドンと臨時収入を得る生活から一応引退したことになっている。これまでの貯蓄に加え、豊富な資産を抱えての引退である。また、私や英雄達の街に絡む投資、これまでの駆け出し事業者達への投資、リスク分散を狙った商人達に巻き込まれた出資等、様々に収入源はある。


バルドーさんは日がな一日寝て過ごしても全く問題はない。が、名前だけのつもりで中央の護衛仲介組織の長をお願いしたところ、細々動き回るようになってしまった。私の想定以上に活動的で、バルドーさん引退を残念がっていた商人達が「なんだ、建前か」と判断したほどに。


つまりはバルドーさんは相変わらず商人達に巻き込まれ、私はそこに口出ししている。中央の護衛仲介組織は、人間のちゃっかりした商人達の窓口になっていた。


リュートくんとヒューイくんはそれを大変心配している。バルドーさんが、身体的に無理をするのではないか、夢追い人に戻って資産をどぶに捨てるのではないか、等々。そうして、原因たる私を怨みがましい目で見るのである。


「そうだねぇ。王立学園で基金を設立すれば良いんじゃないかな。名前を出して、そこに街や街関係のいくつかからお金をだそうか。大々的に広告して。卒業生や卒業生の関係するところからもお金を集めやすくなるんじゃないかな。基金が安定的に分配金をだす金融商品にそのお金を投資する。そうすれば息の長い話になるんじゃないかな。こんな形はどうかな」

いわゆる運用型の基金である。集めた資金を取り崩さず、元手として、その運用益でことを成していくのだ。


どんな目で見られようと、ヒューイくん達から私のところに来てくれるのなら大歓迎である。

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