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灰色オオカミにバトンタッチ

ずら、ずら、ずらり。

開いた眼に、身体にぴったりした強化素材の服を着たケインくんと、武装した人々の姿が飛び込んできた。


ケインくんの左右と後ろに控えるのは、獣人と、少数の人間だ。総勢三、四十人はいるだろうか。半数を占める中型の獣人と人間には緊張感が見て取れる。


残りの、ケインくんと中央在住の街出身者、つまり大型肉食獣人達は平然としている。「よっ」と片翼を上げるコンドルのオジサマに、私は大きく手を振って応えた。


視線を動かすと、オリーブの店のハゲタカやハイエナのお兄さんもいた。ルカさんと元軍人達を王国からナップルさんと一緒に護衛してきたのだろう。他にも王国の獣人達が複数いた。それぞれ挨拶してくれていた。


タスマニアデビルのなりきりセットを着用していようがイヌ科用のマスクをしていようが、馴染みの獣人達にとってちびっこコーは間違えようがないのだ。


闘技場内は騒ぎの音が収まり、不気味なほど静かになっていた。ナッジくんが「もう良いだろ」と私の頭と身体からコートを取り除いたら、そこはもう、闘技場の外で、ケインくん達の前だった。


ハッシュさんが私をナッジくんに手渡す。ナッジくんは私を受けとると、ケインくんに向けて言う。

「俺達は帰る」


ケインくんは軽く顎を引いた。すいっと、ウルフアイが人々の後方を指した。そこには広く空けられており、一台の馬車が止まっていた。手間がかかり所有に税もかかる馬車は贅沢品であるが、獣人周辺ではよく見掛ける。他の動力より獣人と相性がよいために。


あの馬車はフランクさん邸のものだ。カイくんと仲の良い黒毛馬がいるから、中にはきっと白オオカミがいる。


私を抱え込んだナッジくんは馬車に向けて歩き出す。アレクサンドルさんとフランクさんは私達に付いてきた。ブルドッグ達は私達に続こうとして、灰色オオカミに捕まった。


ケインくんの横を過ぎ、獣人と人間の間を抜けようとしたところでふと、黒カラカルの足が止まった。

「話すか?」

ナッジくんは言って、流れる動きで振り返った。


ト、トン。ト、トトン。

身軽に闘技場から駆け出してきたのは、マニュくんとコニュちゃんだった。いつの間に中に入っていたのだろう。


二人のチーター獣人は私の視線にすぐに気付いた。会釈してくれたので手を振る。その二人に、肩に大きな鳥を乗せた人間が近付き紙の束を渡した。次いで、人間はケインくんに一言、二言話し掛け、頷くと別れた。こちらを向いてキラリと笑う。


あれ。


周りを嬉しそうにキョロキョロしながら近付いてきたきらきら人間はナリスさんだ。肩に乗るのは大きなオナガクロムクドリモドキ。


あの大きな身体。え、え。


「みなさん、こんばんは。私もご一緒してよいですか」

きらきらお兄さんは、自分の顔の2倍以上ある大きな鳥を愛おしげに撫でながら近付いてくる。いや、あれはバランスをとっているのだろうか。口を開こうとしたら、ふっと気配が引き締まったのを感じて思い止まった。



「行くぞ。無力化されているはずだが、無理だと感じたら大声を上げてくれ。駆けつける」

ケインくんの声がして、集団が闘技場に入って行った。


大半の顔には緊張感があった。が、一部は大変に軽い空気だった。「泣いても良いぞ。泣き声でも駆けつけてやる」と、街出身者達がブルドッグ達をからかっていた。



ざわめきが去ったところで、私は返事をした。

「こんばんは。ナリスさん、こんな物騒な場にいて大丈夫ですか」


言いながら、私の眼は鳥に釘付けである。筋肉質な大きな身体に、やたら鋭く固そうなくちばし。


「オナガが帰って来てくれたのです。ケインさんが、オナガがいるなら入り口まで来て良いとおっしゃいましたので。それに、頼もしい皆さんがアルバイトに来て下さいましたから大丈夫です」


オナガはカラスより身体がギラついている。頭に浮かんだイメージはオイルテカテカのボディビルダーだ。小首を傾げて可愛かったオナガの面影はどこに行ったのか。


うーん。私に向けた目が若干柔らかい、ような気もする。


強化素材スーツを纏ったナリスさんの後ろには、銃器とナイフ類で軽武装したヒッグスくんが付いていた。表情で語ってくれる彼は、気持ちはわかる、とばかりに私に頷いた。とりあえずナリスさんに伝えておく。

「良かったですね」



「あぁん?」

声に反応して見上げると、ナッジくんがオナガにメンチを切っていた。

「ケキョ」

オナガが冷静に鳴いた。

「ふっ」

ナッジくんが表情をやわらげた。

「ケキョケキョ」


ナリスさんが嬉しそうに笑う。

「ああ、オナガ、仲良くなれて良かったですね」

え、何それ。


「フランクさん、アレクサンドルさん。今、何があったと思いますか」

人間を見上げると、二人から首を振られてしまった。



有言、無言のコミュニケーションの後、ナリスさんが仕切り直した。

「ところで、中の話ですが。みなさん、欲しい懸賞首はいましたか」


「いません」

「いませんね」

アレクサンドルさんとフランクさんが即答した。


「では、予定通り各国地域の希望者へ引き渡します。王国の賞金首はマニュさんとコニュさんへお任せしましょう」


なるほど、なるほど。中に入った見慣れない人間達は、各国地域の駐在員関係者か。我が国の中央に派遣されている、大使のような立場の人間もいたのかもしれない。何しろ我が国への派遣は、ハクをつけたいと「猛者」が希望するか、「閑職」に飛ばされているかのどちらかが多いらしいから。


各国地域で指名手配されている賞金首達が、複数雇われて私達を攻撃してきていたのか。それをライオン達や後から合流したメンバー達が無力化したということなのだろう。


そもそも、我が国には結構な数の賞金首がいる。誰が聞いても犯罪者な者、地域によっては罪人ではない者、諸事情で「そういうこと」にされている者等々。害を撒き散らすタイプは獣人達が間引くが、そうではないタイプはふらふらしていたりする。たまにこうして、我が国的に明らかにアウトなことをすると我が国からも追放されるのだが。


「今回、移送はどうするのですか」

我が国は他から見れば不便な地だ。移送は結構コストがかかる。


「希望があれば、街の皆さんか王国から来た皆さんに護送を依頼する予定です」

ナリスさんが答えてくれた。そのまま首をひねり、でもどうでしょうねぇ、と笑う。


「この中央で、強襲隊と一緒にいるフランクさんとアレクサンドルさんを襲うのですからねぇ。向こう見ずというか、甘いというか。その程度の力量差もわからないなら、大した賞金額ではないような気もします。護衛を雇い入れれば費用倒れではないでしょうか。よほど・・・。ああ、いや、報酬額が大きかったのでしょうか」


それにしても、とナリスさんは続ける。

「ここの所有者はこの惨状をどうするのでしょう。ケインさんと私は、皆さんを襲わせた側と闘技場の所有者は近い関係にあるとみています。自業自得だと思います。ただ、共和国関係のお客さんが多くいるわけですから、対外的な決着は作らないと不味いのではないでしょうか」

「ケキョ」


ナリスさんに釣られて見上げた闘技場からは、夜空に向かって煙がゆるゆる上がっていた。

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