覇気の強いただの観光客
ジャ、ジャラ。じゃらじゃら。ジャラン。
「はい。気をつけて帰ってね。できれば、穏やかにね。何かあったら、ここに連絡だよ」
この国の最高額硬貨を詰め込んだ小袋と、フランクさんの事務所の連絡先を街の大型獣人達に渡していく。
「おう。コーも、何かあったら呼ぶんだぞ」
「ありがとう」
合間に、ちらりと横に注意を向ける。
「フローと、あの彼とそれぞれ一緒に。それぞれエスコートつきで。せっかく中央に出てきたなら、それぞれショッピングを楽しむと良い」
私の隣でカイくんが、オオワシのお姉さんとオオタカのお姉さんを何とか別行動させようとしている。それぞれ、と繰り返し過ぎてちょっと笑える。しかし、大切なミッションだ。街でも有数の血気盛んな猛禽類二人。この二人が一緒にいては、穏やかな展開は期待できない。
「いいよ。二人で挨拶したいヤツがいるだけだから」
オオワシのお姉さんがぶっきらぼうに返す。
うわ、それ、絶対穏やかじゃない。ラスコーさんがいたら、力ずくで止めそうだ。そう言えば、ラスコーさんはどこに行ったのだろう。
オオタカのお姉さんは食後の満足感もそこそこに、鋭い目付きだ。あ、いつもか。
オオワシのお姉さんもオオタカのお姉さんも、お小遣いに全く興味がなさそうだ。
「そう言わずに」
食い下がるカイくん。がんばれ。
今私達は、ブランチをした中庭にいる。街の大型肉食獣人達にお小遣いを渡して、無事に英雄達の街に帰ってもらおうとしている。無事に、とは騒ぎをこれ以上大きくせずに、という意味である。
今も同じテーブルで寛ぐフランクさんから聞いたところによると、今回の事態は短時間のうちに大事になっていたらしい。
私は街のみんなに、ルーフェスさんを始めとした「王国人の保護」をお願いして出てきた。街のみんなは快諾してくれた。忠実に街にいた全ての王国人を、街から出さないことにした。さらに、コーの群れが大変だ、と何があっても対応できるように備えてくれたらしい。具体的には、街の外からの仕事を断りだした。一番分かりやすく街の外に影響を与えたのは、カイくんパパだった。「傭兵」の仕事を、「プライベートがどう転ぶかわからないからどこの依頼も受けない」と言って断ったらしい。
カイくんパパは傭兵である。実戦経験のない傭兵である。最近は専らセレモニーで見映えよく振る舞うお仕事が多い。若い頃には哨戒業務等も受けていたらしい。が、そのときから今まで、公式な戦闘は行っていないことになっている。
実戦経験がない、とは狭義の意味だ。カイくんパパが雇われていれば、実戦に発展しないか、発展させない。
いつかの大捕物に助力したときのような武力行使は「プライベート」なのだ。
つまり、黒オオカミが依頼を受けない、しかも、「プライベートがどう転ぶかわからないからどこの依頼も受けない」と言ったということは・・・。
という話が、短時間で駆け巡ったらしい。獣人、我が国、英雄達の街等に対する行いを振り返って、身に覚えのある人間がたくさんいたらしい。
ピリピリしだした街の外を察した英雄達の街の少なくない獣人達が「よしコーの様子を見てくるか」と中央入りしだしたからさらに一層周りがピリピリする。そんなこんなで、街やカイくんパパと話ができる数少ない「話が分かる」人間であるフランクさんは大人気なのだという。
フランクさんが昨晩不在だったのも、うまく問い合わせを取り回ししてくれていたためのようだった。
実に申し訳ないことである。
人間達と街の外の獣人達の平穏のために、フランクさんは街の大型肉食獣人達をできるだけまとめておこうと、私達の群れと食事をこの中庭に止めているものと思われた。そこで私はフランクさんにお願いして、コインいっぱいのお小遣い袋をたくさん用意してもらった。集まってきた大型肉食獣人達を、ただの「遊びにきた大型肉食獣人」にして、街に帰って貰おうとしているのだ。
アレクサンドルさん達は少し前に「やりやすくなりました」と笑って去って行った。特に打ち合わせもしていないが、私達も街に帰ろうかと思っている。
「ごめんなさい、コロンさん、皆さん。お忙しいなか、お仕事を増やしてしまって」
私はキュートなマツテン獣人を見て、その後、人間と中型の犬獣人のペアを見た。この三人がフランクさんの指示でお小遣い袋を作ってここへ運んできてくれたのだ。
「お安い御用です。むしろ逃げ出せた感があります」
にっ、と笑って見せるコロンくんが頼もしい。いつぞやの自信無げな様子からは別人のようだ。
コロンくん、鍛えられたなぁ。
やっぱりこれも、申し訳ない気がするなぁ。




