仲良しの理由
とん、とん。とととん。ぴょーい。
軽い足音がした。
準備運動のような動きの後に、跳んで来たのはナッジくんである。
「ナッジくん、おはよう。よく眠れたかな」
私の挨拶に、黒カラカルが小さな顔をこくりと動かした。
「眠った。寝過ぎた。悪かったな、シロ」
ナッジくんはそう言って、ぐいん、と身体を伸ばす。キッチンカートの中にいるシロくんを覗きこんだ。
「いい」
私チョイスのつなぎをちょいちょい捲り上げて着こなしたドールは、器具を磨く手を止めずに呟く。
「ありがとうね、シロくん。朝食が終わったら、ブラッシングしようね」
私も覗き込んで言う。
「ふん」
固めの生地を使ったつなぎの、しっぽを押し込んだ辺りがもぞもぞしている。ぎゅっとした口元を隠すように俯くシロくん。
かわいいなあ。
「ところで、ナップルさんはどうしちゃったのかな」
太陽が出てきて良い感じになった草地に寝転んでいるナップルさんを見ながら口にしてみる。
「何だかとてもネガティブになっていたよね。思い返せば、到着したときからそうだったかな」
寝不足ナップルさんは、うたた寝用グッズを貸し出したらすぐ寝入った。
そこらじゅうでごろごろする自由人達のために下手な寝具より心地よく整えてある草地である。すやぁ、は当然だ。
私も、もふぁな草地に座ろうかな。
キッチンカートのベンチから滑り下りようとしたら、カイくんに素早く膝裏に腕を通される。流れに従って、一旦白オオカミの腕にお座りする。
身体を戻したナッジくんがこともなげに答えをくれた。
「ナップルの様子がおかしいのは、あの、混ざった人間のせいだろう」
黒カラカルはそのままカウンターに寄りかかって食材を物色し出す。
カイくんが片手で草地を丁寧に撫で、どこかから出した薄手の布を敷く。私はその上に置かれた。
「混ざった人間って、ひょっとして、元王国軍人のなかにいるの」
指輪を使って豪快に開栓し、炭酸水を飲み出した黒カラカル。その無表情を見上げて聞く。
「ああ。ありゃ、コーみたいなタイプだ。物理的な力じゃない」
「私みたいなタイプってどういうことかな」
「詳しくはまだわからない。コーは近付かないほうが良い。カイもだな。どうしても必要なら俺か、レイか、街の奴ら何人かと一緒だ。感覚だからうまく言えないが、俺達みたいなのには効かないだろう」
修羅場慣れした元はぐれの感性は、実にありがたい。
「了解。あ、昨日、日中からずっと一緒にいてくれたのはそのせいかな」
バルドーさん一家のスキンシップもこのためかな。
パリパリと作りおきのラスクをかじるナッジくんが頷いた。
カイくんが横に座った。再び指輪を使って栓を飛ばしたカラカルは、白オオカミにも炭酸水の瓶を渡した。
カイくんが鼻の上にしわを寄せた。
「コーが上に座ったらどうするんだ。ぼーっとして、ミントと一緒に口にしたら大変だろう」
それはさすがに気付くよ。




