フクロモモンガと環境変化
すたすた、スタスタ、すたたっ。言葉少なに獣人組がひたすら歩く。
もはや私の全力疾走レベルだ。
空気が重くてさすがのコーさんも口が開けない。
しばらくして、ようやくフランクさん邸が見えてきた。
ルーフェスさんに迎えられて応接間に入る。
アレクサンドルさん達もすぐ近くに住まいがあるらしく、遅い時間まで待っていてくれたという。
風呂に入ってくる。
異口同音にそう言って、獣人三人がすぐ出て行った。
「どうしたんです。コーさんとカイさんがばらばらって初めてお会いしたとき以来ですね。ものすごい違和感です」
ルーフェスさんが言う。
街でなら一人歩きもままあるが、一歩巣から出たらカイくんと一緒は必須で、プラス護衛または街の誰か、が絶対条件である。
しかしフランクさん邸はカイくんパパのなわばりだからセーフなのだ。
だからなのか、もともとの性格故か、チーター兄弟の振る舞いが自由だ。
最近獣人達の認識が分かってきた。
ルーフェスさんにこの感覚はないだろう。
「見たことのない様子の獣人に会いました。私は認識されないほうが良いと三人がかばってくれて、あの風呂敷の隙間から横目で見ただけですが。複数の人間と、ハースさんという中央の商人が一緒でした」
うわー。
ルーフェスさんが額を押さえて天井を見上げた。
「俺役立たずじゃん。何も出来てない。全て手遅れ、出遅れ、立ち遅れ」
「もう、お前はぴったり嬢ちゃんに付いとけ。会長と俺も用がないときは同行する。人間の商人がいれば少しは、まあ、お前でも少しは、魔除けになる、かもしれない」
カーライルさんが入って来た。
もちろんネタだったサングラスはしていない。
褪せた銀髪と灰色の目、人間にしてはがっちりした体つき。
前世の映画に冷徹なエージェントとして出てきそうだ。
会長とはアレクサンドルさんのことで、商会として商売をしていてその長だから商会長、略して会長である。見た目エージェントなカーライルさんが口にしたからと言って、怪しげなものではない。
そして私はいつの間に嬢ちゃん呼びになったのか。
顔を合わせるのはまだ三度目のはずなのに。
「こんばんは、カーライルさん。トレードマークのサングラスがありませんよ」
「そこはそっとしといてくれよ。自分で言い出して何だが、ちっと恥ずかしかったんだ」
だったらやめれば良かったのに。
自分を犠牲に他人をいじるとはなかなかなオチャメな人だ。
ほかほかした獣人組が帰ってきて、アレクサンドルさんもやって来た。
ブラッシングはしばしお預けで、ドリンクを用意して話し合う。
まずはフクロモモンガ、ヒューイくんの診察結果だ。
極度のストレスで体の各所が弱り、消化もできなくなり、かなり危険な状態だったらしい。
しばらく面会はリュートくんだけとして、回復を待つ方針という。
夜も遅いので二人はもう眠っているそうだ。
久しぶりの安全で清潔な寝床だろう。
まだこちらを信用できないと思うが、気を休めてぐっすり眠ってほしい。




