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アップル、ナップル、パイナップル

ぴりっ。ぴりり。ぴりりっ。


黒オオカミとハイイロオオカミ、少し遅れてカラスの獣人が寄合所に入って来た。

人間六人の纏う気配が変わった。


王国の気配を察して誰かが伝えてくれたのだろう。

この三人は街のなかでもとりわけ王国軍に馴染みがある。


「やあ。はるばるようこそ。久しぶりだね」

カイくんパパはゆったりと人間達に声を掛けた。

六人はカイくんパパに向かって、無言で王国軍式敬礼をした。黒オオカミは返礼らしきものをしたうえで「ここでは不要だよ。郷に入っては郷に従えというだろう」と言った。



ルカさんを連れて街を出て行きたそうだったお客人達は、とりあえずマニュくんとコニュちゃんによって寄合所に戻されていた。

私達の呆気にとられた様をガラス越しに見て、すぐさま人間達を押し戻したマニュくんとコニュちゃんは実に優秀であった。厳つい人間達を押し戻せる、または一応の納得をさせられる点からも大変に心強かった。

ほお、ほお、と傍観していたナップルさんとは大違いであった。

お客人達がネコ科のライオン獣人ルカさんに慣れているからだろうか。ネコ科のチーター獣人となんちゃって猫の違いがでたのだろうか。



しょうもないことを考えていたら、カイくんママが口を開いた。

「この人間達タイプ、止めて良いと思うのよね。不用心ではないかしら」

ハイイロオオカミが、顎を上げてから、首をかしげた。

その目は立ち位置を変えた元軍人達を眺め回した後、寄合所奥に避難した私達を確認していた。

ナッジくんが「もう良いだろ」と私達を元軍人達から離れた場所に移動させたのだ。


カイくんママの肩に無理やり長老カラスが止まった。重そうだ。

「手を出してはいかんぞ。王国だからな。王国軍と、わしらに友好的な家の使いだからな」

長老カラスはカイくんママの肩を押さえつけているのだろう。ついでのように、翼で人間達の胸元を指した。


六人の胸元には、同じ何かがあるようだ。

今世も順調に近視を極めつつあるコーさんにはまったくわからないが、みんなには見えているはずである。


「ここにいるつもりなら、隠し持っている飛び道具をなんとかしてほしいわ」

カイくんママは不満気だ。

一つ頷いたカイくんパパが両手を広げた。

「我が家で話をしようじゃないか。お二人も、それでどうかな」

黒オオカミは、人間達と人間達に囲まれたままのルカさん、それからラスコーさんを見た。

「ご面倒をおかけして申し訳ない。こちらにいては皆さんをお騒がせしてしまうようだ。お言葉に甘えさせていただきたい」

ルカさんが答える。ルカさん以外は言葉を惜しむのか。シャイなのか。全員が無言で頷いていた。


かくして、王国からやって来た人間六人とライオン獣人二人は、カイくんパパとママ、長老カラスが連れ出した。

騒動の元である一団を誘導しながら黒オオカミは肩越しにぱちん、と私達にウインクした。


カイくんパパや長老達には、ルカさんの話は通してあった。

ライオン達の駐在所や寄合所で寝泊まりしているルカさん自身もこまめに挨拶回りをしていた。

面倒そうな王国事情はカイくんパパ達に任せておけば良いだろう。

私達は私達の話をしよう。


やれやれ。

「人間的なお話合いはお任せだね」

私達はようやくナップルさんやマニュくん、コニュちゃんとお久しぶりの挨拶をした。


私の前に座っていたナップルさんが、ふう、と大きくため息をつく。

「王国のご立派な方々のいざこざらしいですよ。御当主はまさかルカさんが英雄達の街に身を寄せるとは思っていなかったようで、知っていて隠していたというかわざと報告から外していた面々は御当主の様子を見て真っ青だとか。御当主はルカさんを心配して心配して、あのおっかない方々を派遣したらしいです。いやー、店にヴァイルチェン家経由で依頼がきまして。往路六人、復路七人の護衛依頼ですよ。さすがに一分隊を動かすといろいろ怪しまれるらしいので半分の六人ですが。往路は最速、復路は安全と体調第一。大事にされてますよねー。なんでも、本気で出て行ったきりになるとは思っていなかったらしいですよ。今さらライオン獣人達の中でやっていけるはずがないから、行けて中央、それもすぐ諦めて帰って来ると思っていたとか」

思い付くまましゃべくる猫である。


「まさかコーさんみたいなダークホースかいるとは思いませんよ、わかりますよ」

目の前にいる顔見知りより、会ったこともないだろう御当主に同情的なのはなぜだろう。


シロくんがナップルさんを、初めて見る不思議な生き物のように観察している。


あ、そうか。一応初対面かもしれない。

獣人達は言葉を交わさなくてもコミュニケーションを終えてしまうので、私は時々彼らの関係性を見失ってまう。

あれ、ナップルさんは人間か。だけど、ネコのようなハムスターだから通じあっているんだろうな。


「アップルミントとパイナップルミント、どうぞなのだ~」

「前も思いましたけど、それ、狙ってます?」

喉が乾いていそうなナップルさんの前に、二種類のアイスティーを置いたドミーくんはニコニコしている。

ナップルさんは笑うべきかどうすべきかわからないという変な顔をしている。


両側に座るマニュくんとコニュちゃんはお行儀よくパックの麦茶を飲んでいる。

二人とも少し大きくなったかな。

大きくなっても、全くチーター兄弟の雰囲気には似つかないなぁ。

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