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魅力とは

ぽー。ぽやん。ぽやぁ。

ついつい、意識を持っていかれる。

私は夕食の席で、分厚いライオンの手が器用にカトラリーを操る、その魅力的な動きに見惚れていた。


カイくんの上品な扱いとは少し違う。

カイくんパパの力強さを感じる扱いとも違う。

近い雰囲気は、ルーフェスさんやナリスさん、それからフローリッシュの一行だ。

食べる、という本来の目的の前に「見られながら」とつくことが常態化している動きだ。

目の前のルカさんの動きは、さらにそこに「魅せながら」とつく。


ワニのマダムにお店を貸し切りにしてもらって、更に無理を言ってドミーくんとディナーコースもどきを作ってもらっているのだが、私はルカさんがそれらを食す動きに目を奪われっぱなしである。


見惚れつつ、胸を締め付けられている。

前世私が接した、しがらみだらけだったいくつかの顔が思い出されていた。


この域に至るまでに、このライオン獣人はどれだけのことをしてきたのだろう。


私と同じテーブルには、カイくん、ルカさんとラスコーさんがいる。別のテーブルには、強面人間護衛職のバルドーさん一家やライオンのお兄さん達、レイくん、ナッジくん、シロくんがいる。

家族の食卓風、若者の飲み会風、大食い自慢の腕試し風と、テーブルによって全く雰囲気が異なる。私達のテーブルは、ルカさんのお陰で別世界になっている。


「コー、大丈夫か」

ぱくぱくしながら隣のテーブルからナッジくんが聞く。こちらは気持ち良い食べっぷりである。

ナッジくんはカイくん指導のもと、いつの間にか無難な食事風景に溶け込めるようになっていた。


「ごめん、ごめん。ドミーくんもごめんね」

こちらの様子をうかがいながら調理を進めるドミーくんにも聞こえるよう声を上げる。


私の無作法な声に、ルカさんが動揺を押し隠している。その気配を感じ、想像以上にルカさんも緊張しているのかもしれないと思う。

これほどの人なら、通常は同席者にそれと悟らせないはずだ。



さて。

「色々と失礼しました。話を戻します」

これまでラスコーさんやルカさんから聞いた話について、私は私の理解を確認することにした。

「ルカさんとしては、今すぐ資金が必要ではないものの、万が一、幼なじみの皆さんが資金不足で困る事態になったときに助力できるようにしておきたい。また、共和国内で経済的妨害を受けた際の切り札になりたい。ただ、いざというときがくるまで、幼なじみの皆さんの共和国内の立場を悪くしないために今のルカさんの状態を可能な限り目立たせたくない。こんなところで良いですか」


ルカさんが、獣人としては大袈裟に表情筋を動かす。

「都合の良いことを言ってばかりで申し訳ない。この国の皆さんにとって気分の良い話ではないことは承知している。ましてやこの街やコーさんにとってはなんのメリットもないことも。見返りにもならないが、私に出来ることは少ないが、出来ることはさせてもらうつもりだよ」

「いえいえ。ご希望をすっきりさっぱり教えていただいた方がこちらも助かります。こと金融において、最終的に目指すところをはっきりさせておくことは大切です」


多くの場合、金融というのは、あくまでも手段である。

事業をおこしたり、拡大したり、縮小あるいは廃業したい。分配金、配当や利息を得て、生活をちょっと楽にしたい、将来の不安を少し軽減したい、はたまた大きなリターンを得て早期リタイアをしたい。

そういった目的のために、金融という手段を選択するのだ。

しかしときに金融の魔力に惑わされることがある。目的がすりかわってしまうことがある。


「ご遠慮せずに。どうぞ目的ははっきりさせておいてください」


「金に色はない」と言われる。

シチュエーションによりネガティブな意味になりやすいが、私が肝に銘じるフレーズの一つだ。

無限の可能性とそれ故の恐ろしさを指すと解釈している。


そのものに色はなく、色をつけるのは扱う人である。

だからこそ、その人をよく映す。状態を知らしめてしまう。


技術や従業員を守るために事業資金を借りたはずが、その借金返済のために技術を切り売りし、従業員を解雇することになっていたり。

気のおけない仲間とのんびり生活するために短期間で蓄財に励んだはずが、蓄財そのものが目的になり、気づいたときには仲間ものんびりする心もなくなっていたり。

少し余裕のある生活を目指し節約をし投資をしていたはずが、投資損益に振り回され疲労していたり。

大事な目的のために集めたはずが、現金や額面を目にして、ちょっとだけ、あるいは、これは仕方のない支出だから、と摘まみ始めたり。


最初の目的を思い出せば、なぜこの色に、という事態を迎えてしまうことがある。

本来色のなかったそれに、最初の色を付け、ときに上塗りし、さらに色を加えるのは関わる人なのだ。



「目的は忘れないでください。ただ、その目的を伝えるなら、相手は口の固い、本当に信頼出来る相手だけにしてくださいね」

「なぜかな」

「営業トークに利用されたり、弱味になるからです。例えば、お父様に終の棲家をプレゼントしたいと資金を貯めているとします」


ラスコーさんが、あの人にそんな殊勝なもの要るか、と首を傾げるのを横目に話を繋げる。


「早くお元気なうちにプレゼントしましょうと、ハイリスクな金融商品を勧められたり、借り入れを起こして収益(賃貸)物件を建ててペントハウスをプレゼントしましょうと勧められるかもしれません。親孝行の営業トーク集ができますよ。または、ルカさんはまとまった資金を持っていると記録されて、ひょっとしたらそのリストが悪質な業者に流出するかもしれません。資産情報が差し出されてしまうこともあります」


私の前世が終わった理由も、まとまった額を持っているとの情報が流出したからだ。

そうそう、マッチョさんの資産情報も筒抜けだった。

まあ、それはさておき。

当然のことながら、資金の出し手と受け手では、見える色、見たい色は異なる。


ほう、と言ったルカさんを見て、話を戻す。

「資金調達を急がないのであれば選択肢が増えます。どこから、どのように、どのような名目で、どれだけ調達するか吟味できます」


外から見た色も違う。

調達ができたと喜んでも、金利が高かったり、業界内で、あの業者から「出資を受けている」または「借りている」から、「危ない」とみなされることになったりするのだ。

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