オナガクロムクドリモドキの正体
けきょ。けきょけきょ、けきょけきょきょ!
青黒い鳥が力強く鳴いている。
ナイトクルーズの翌朝。
私は大きな町のホテルで目覚め、眠気と仲良くしながらぼんやり窓辺に座っていた。
「カイとコーは、ここはやめとくんだぞ」と言うバシンさんに、「分かった。周囲五ブロックは離れて移動する」と答えたカイくんが、「それじゃ港にいけないだろ」とトールさんに呆れられているのを聞き流していた。
あわせて「あの人間、うさんくさいにおいだ」「あの店、変なにおいだ」等と自由人達が教えてくれるのを、アレクサンドルさん用に半無意識にメモしていた。
そんないつもの日中、けきょきょと鳴く声と姿で一気に覚醒した。
え、もしかして。
「オナガじゃないか」
カイくんが言うから間違いない。
窓の外、私達のいるホテルの、上空を飛んだり、近くの建物の屋根を駆けたりするオナガクロムクドリモドキ。
「ナリスさんに何かあったのかな」
「いや、そんな切迫感はない」
久々にみるオナガは、なんだか存在感が増していた。
艶やかな羽は衰えを感じさせないし、全体的にがっしりしている。
遠目だが、普通のオナガクロムクドリモドキの倍近くにみえる。
さらに後ろに何匹もの鳥を従えている。
この町にいるいろいろな種類の鳥達のようだ。ズキンカラスもいる。少し前にカイくんと観察していた鳥達が数匹、オナガに付いて動きまわっている。
「カイくん、なにあれ。ナリスさん、いつかオナガのこと、おじいちゃんって言ってなかったっけ。私が覚えているオナガの姿から、マッチョに進化しているよ」
カイくんが答える前に、黒カラカルがぴょいと跳んできて言った。
「あれは強いぞ。鳥達は俺に近付かなかったのに、あれをボスと慕って付いて回っている。これだけ近くても怯えていない」
あれは、強い。
もう一度繰り返したナッジくんの意図が分からなかった。
とりあえず紹介しようと息を吸う。
窓を開けて身を乗り出す。
すかさずカイくんの腕が私のお腹を抱えた。
落下防止の心強い腕に身を任せ、叫ぶ。
「オーナガー!」
けきょきょ、けきょきょ。
答えるように大きく鳴いたオナガは、私の斜め上の空をぐるりぐるりと旋回した。
「隣はナッジくんだよー。よろしくねー。あと、ナリスさんに逢ってあげてねー!」
けきょ!
一声上げた青黒い鳥は、鳥の一団を引き連れて港の方へ行ってしまった。
去り際、少し離れた道の方を気にしているようだった。
何かあるのだろうか。
「コーが言っていた特殊個体があれか。あれはしぶといぞ。コーのように混ざっている。味方で良かったな」
ナッジくんがしみじみとした口調で言う。
「混ざっているってどういうこと」
「俺が勝手に言っているだけだ。いろいろあるんだ。うまく言えないが、純粋な見た目通りの生き物じゃないし、大概はあんなにまともじゃない」
「まともじゃないってどういうこと。前世の記憶があるってことかな」
「いや。それだけじゃない」
感覚だ。
そう言って、ナッジくんはうまく言葉では説明できないと首をふった。
「飼い主の前ではとぼけた鳥の振りをしていたんだろ。何か考えがあったのか。それとも振りじゃなくて、あとから混ざったか。前と様子が違うなら、徐々に混ざったのかもしれない。身体にも、影響が徐々にでたのかもな。だから姿をくらませたのかもしれない。まあ、奴らは計り知れないから、想像でしかない。ただ、言えることは、味方で良かったってことだ」
少しすると、自由人達がざわめきだした。
「お、お出ましだ」
「羨ましがっていたからな」
「ふへへっ。自慢して来ちゃったしな」
なんだろう。
「ん?」
「父さんと母さんだ」
カイくんが目を細めて港に続く方向を見ていた。
「もしかしてオナガ、カイくんパパ達に私達の居場所を知らせるために、鳥達を集めてぐるぐるして、鳴いていたの」
「かもしれない。父さんも母さんも細かい特定は苦手だ」
あの人達はブルドーザーだから。
それにしても、二人はここまでどうやって来たんだ。
騒ぎを起こして来ていないといいが。
「面倒そうだったら、他人のふりをするぞ」
つらつらとカイくんが真顔で言う。
「それはさすがに無理じゃないかな」
オオカミフェイスを眺めながら、一応言っておいた。




