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厳ついなみだ

ぷんぷん。ぷんすこ。ぷん。

「認めない。俺はこれを船とは認めない」

腰に両手を当てた人間の青年が、港で私達の船を睨み付けている。

筋骨隆々とした体を反らせて一人で盛り上がっている。


「やんちゃで、手間がかかって、だからこそ愛着が湧くんだ。わがままで、気分屋で、気位の高いやつだって、可愛げがみえてくるってもんだ。それに比べて、こいつはどうだ。単なるあんたらの動くすみかじゃないか。俺は何をすりゃ良いんだ」

なんだよ。

エンジンがないってどういうことだ。

燃料要らずか。

あ?

生活のための燃料は使っている?

そりゃそうだろうよ。

ご立派な生活用の発電設備と水道設備があるな、見りゃわかる。

贅沢な設備だな。

動く豪邸か。


「だかな、俺は船の整備屋なんだ。その分割高なんだ。これなら、ふつうの料金でやる業者がいるだろう。俺は悪徳業者じゃない」

アレクサンドルさんのところのクセが強いスタッフが手配してくれた船のメンテナンス業者は、クセが強かった。



相変わらず円滑に手続きされて、スタッフにさあどうぞと案内された港すぐ近くの店舗。そこで引き合わされたのが、フーヴォと名乗ったこの青年だった。

スタッフ曰く、この辺りでは一番「柔軟」で、一番「私達に適している」らしい。

アレクサンドルさん一行とはこの地域での商売のため早々に別行動となったため、意味は分からなかった。


自由人達をしかるべき案内人とセットにして自由にさせたあと。

カイくんの体調が戻っていたので、私達の群れは珍しい船のメンテナンス作業を見せてもらおうと居残った。


フーヴォさんは沈黙を是としない人らしい。

一緒にお店から船の近くに移動してから、船に駆け上ったり設備をなで回したり睨み付けたりしながらしゃべり続けている。


「クジラとかシャチとかに周囲を守られてりゃ大したキズもないだろうよ」

あ?

かすり傷があるだと?

話に夢中になってクジラに近付きすぎただ?

おう、おう、丁寧に直してやるよ。

他にやることもないからな。

俺じゃなくて普通の大工を呼んで室内リフォームでもすりゃ良いんだ。

あ?

点検整備?

んなもん、当然だろうが。



「コー。パイナップルさんと似た感じがするのだ~」

「やっぱりか。俺もうっすらとだが、感じるぞ」

ドミーくんとナッジくんが顔を見合わせた。


「ん~。この感じ、ナップルさんを思い出すよね。ナップルさんみたいな猫じゃないし、茶髪でもないけど」

私の頭の中でも招き子猫がナー、ナーと鳴いている。


「お。あんたらナップルって言ったか。猫みたいな茶髪のナップル。ひょっとして、王国か。直接会ったのか」

太い首が筋肉を波立たせてぐいんと動いた。

これ見よがしに肩の刀傷のような古傷を目立たせているが、首回り以外はきっちり強化素材の服で体を覆っている。


何となく私はこの青年に、トールさん染みた気配も感じている。

きっとこの人は、見かけは厳ついが、よい人だ。

見た目で損する気遣いの人だ。

さらに、強化素材のあまり出回らないこの辺りで、強化素材の服をこなれた感じで着ている時点で一般人ではない。


「元気にしてますよ。王国の都で護衛仲介のお店を経営しています。ハゲタカやハイエナのお兄さんの愚痴をきいたり、英雄達の街の自由人達のお世話をしてくれています」

私の言葉に、フーヴォさんは破顔一笑した。

「そうか、そうか」

実に嬉しそうだ。

不器用なブルドックみたいだ。

思いの外若いのかも。


ひょっとしたら。

思い付いた私はカイくんの背負い袋をがさがさして、最近送られてきたナップルさんからの手紙を取り出した。

その封書には月次試算表と雑談染みた手紙に添えて、写真が入っていたのだ。

オリーブの店の中で、立派に育っているオリーブと、ナップルさん、スースさんとポーカさん、強面獣人達が写っている。ナップルさん以外はひきつった笑顔なのがポイントだ。

相変わらずクローゼット屋の面々はスースさん達を避けているようで姿がないが、カウンター上の植物達は大きくなっていた。

封書ごとゴツゴツした手に渡す。


「どうぞ。数日前に撮られたものです。お店専属のタカのお兄さんが船に届けてくれたのです」

「あいつ、こんなに立派になったのか。隣の制服は王国軍人か。まさか、あいつ、軍人とうまくやっているのか」

「王国の仕組みが良くわからないのですが、現場ではまあまあ力のある軍人さんらしいですよ。お店を見回りポイントに加えてくれていて、安心なのです」

「手紙がコーオーナー宛になっている。店の持ち主はあんたか」

「そのうち、ナップルさんが望めばナップルさんのものになります」

場所にしても、関係者の多さにしても、今はまだ心配だ。

対外的に、私を通じて街やルーフェスさんが正当に口を出せる形を残しておきたい。


「そうかぁ。そうかぁ。あのナップルがなあ。あいつ、今はまともなものを食えてるのか。食えてるよな、こんなに立派になったんだ」

なんと、お兄さんの目に涙が浮かんでいた。


「食生活は怪しかったですが、獣人達が一緒になってからは大丈夫です。ところで、ユッスーンさんともお知り合いですか。群れのメンバーもご存じですか。こちらのカイくんはユッスーンさんの群れのリーダーの実の弟です。私はオオカミ一族公認のカイくんの妹です」

我ながら変な説明だ。

「今回、ユッスーンさんが話を付けてくれたので私達、こちらに来ることができたのです」


「そうか。あんたらリーダーの身内か。さらにナップルの関係者か。ならこいつは俺が請け負わないといけないな。俺はな、今は離れているが、ユッスーン達と同じ群れの人間だ。ユッスーンがボロボロだったナップルを連れてきて、群れで面倒を見たんだ」

あいつ、食生活と金の使い方が刹那的でなぁ。

食と金には生き方が出る。

何度胸を痛めたか。

リーダーがもう大丈夫だと言ったが、心配でなぁ。

良かったなぁ。


アレクサンドルさんのスタッフが言っていたのはこういうことか。

ひと展開設けて見せるあたり、本当にクセが強い。

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