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カチャカチャカチャカチャ。

「ところで副長さん。この町や元警備隊に未練はありますか」

「未練?」


どれにしようか悩んでいたら、白い大きな手によってオイルの瓶が渡された。

なるほど、なるほど。

ぬりぬりぬり。


「もしどちらにも未練がないのなら、いくつかご紹介したい群れがあります。みな喜んで副長さんをお迎えすると思います」


瓶を返すと次は柔らかなブラシだ。

するりん。するりん。


人間よりのこのオジサマなら、ナップルさんのところでも、フルウィアさんのところでも、プチリゾートでも大丈夫だろう。


「私など」

「未練、ありますね、やっぱり」


する、するりん。

「いや」

「あるのなら、この町にご用意しますよ」

「用意とは」

「副長さんが堂々と座っていられる場所です」


する、する。

おお、オイルが良い感じに馴染んでいる。


「仮にそんなことが可能として。群れやはぐれ達に申し訳が立たない。もうシオドキというものだと、」

「この物件、良いと思いませんか。実はこの物件を絡めると数少ない私の人間の知り合いがうまく絡み合いそうでして」

爽やかな朝にふさわしくない発言は、失礼ながらカットである。


今の持ち主はこの不動産をもて余しているらしいのです。

別の資産家は、立場の難しい大切な学友達のため、常に万が一の選択肢をかき集めています。

別の知人は、主のために護衛仲介業務やら治安維持業務やらを抱える事業体を動かしています。

別の知り合いは、獣人びいきを隠さない王国人でして。彼の家は、横のつながりが結構ありましてね。

それから、商人に顔がきく人間がいます。彼は「家族」の経験や知己を作ることに労を惜しまないのです。

あと残り少ない知人達は、利益の匂いに敏い商人達だったりするわけです。


「ということで、副長さん。ブレーンの面目躍如といきましょう」

胆力はこのキツネ獣人が町一番だ。


私達のところに乗り込んできたのはこのおじさまだけである。

少なく見積もってもこの町の三割は獣人のはずで、武力自慢もいるはずなのに。

それだけ力の差が圧倒的だったとも言えるわけだが、危機察知はできるのに、何故共和国に倣おうとしたのだろうか。口車に乗せられたのだろうか。


共和国の人間達が乗り込んでくるくらいだから、費用もそれなりに払わされているだろう。サンクコスト効果だろうか。

そもそも視察と競争入札導入の経緯からして、かけた費用の回収を焦ったようにみえる。結果から見ればコンコルドの誤りも良いところだ。


この町は、共和国の枠に無理やりはまろうと無理をしすぎている。

お手本が極端過ぎる。


「共和国そのものになりたいなら別ですが、この町にはこの町のやり方があったのでしょう?」

文化、風俗、風土。なんと表現してもよい。

ところ変われば法も慣習も習俗も違うのだ。


「大丈夫です。我が国をみてください。それこそ英雄達の街と国との関係を。共和国とは正反対ですよ。国は堂々街にぶら下がっています。外からみると無法者を野放しにしているように見えるらしいですが、中にいると行儀の悪いのはむしろ他国からくる人間です。そこも含めてラスコーさんたちがうまくやってくれていますし」


私だってある種のはぐれだったが、こうやって好きにしている。ラスコーさんは群れを離れすぎてはぐれと間違われるレベルだが気にしていない。うちのナッジくんも胸を張って生き抜いた。


「人間の理屈に合わせる必要はないのですよ。私達は共和国人でも、人間でもないのですから」


まあ、人間の理屈に合わせるなら今度は共和国以外のやり方を試してもらうということで。

ちょうどこの手の交渉を得意とする知り合いがいますから、丸投げすればなんとかしてくれますよ。

彼にとってもその方が儲かりますから。

自信満々に言い切る。


私の人間の知り合いは数少ないが、そこが良い。意思決定がはやく、迷いがない。こういう局面で、情報が漏れる心配もない。


「なあ」

「あれって、また俺達のところに指示がくるやつだよな」

「ああ。ライオン達に迷惑を掛けない範囲なら手段を問わないからなんとかしておくように、ってやつだ」

「あと、クリーンに、だ」

「確かに人間のゴロツキ相手だからなんとかできないこともないんだが、大変なんだよな」

「儲かるからいいんだけどな」

「俺達知り合い以下か」

リックさん達、起きていたんだ。


「それから、頼りになる小悪党達がいます。人間相手の小競り合いは全部お任せです」

付け加えると、三人の青年はあからさまに嬉しそうな顔をした。

いつの間にこんなに懐かれたのだろう。


オジサマが眼をぱちくりした。

「人間ではなかったのか」

「コーは人間だ。ほら、人間に囲まれて育つと自分が人間だと思う動物の話あるだろう。あれだ。あれの逆バージョンだ」

「そうか。気をつけなきゃな」

トールさんの声に、ナッジくんが真面目に頷いた。

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