チーターと縁
そわ、ソワソワ、ソワワ。
フランクさんの事務所で獣人の医者についてたずねたところ、フランクさん邸で待つように言われた。
その間に無謀少年リュート君をお風呂にいれ、清潔な服に着替えさせた。フランクさん邸の一室を看病用の部屋とさせてもらって、フクロモモンガのヒューイくんを診てくれる医者を待っているところである。
その間にリュートくんの話を聞いた。
彼は人間の商人の息子だったそうだ。
リュートくんは母親を早くに亡くし、商人の父親と従業員に育てられた。
人間と獣人が共に働いており、ヒューイくんは元々は従業員の子だった。
従業員のフクロモモンガが中央の環境に馴染みきれず病気で亡くなり、母親も後を追うようにして亡くなった。
生まれたときから知っている子だとリュートくんの父親が遺されたヒューイくんを引き取り、二人は兄弟のように育った。
ところが今度はリュートくんの父親の商売がうまくいかなくなり、立て直しに力を尽くすなか過労で亡くなってしまったという。
リュートくんは人間の孤児院に連れていかれたが、調子が悪いヒューイくんを助けてもらおうと孤児院のスタッフに見せたところ、ここではヒューイくんを預かれないし医者にも診せてやれないと言われ、飛び出して来たという。
医者代と生活費を稼ごうとしたが、知り合いに見つかると連れ戻されてしまうため、生家から離れたところで小銭を稼いでいたら、仕事を追ってどんどん治安の悪い地域に入っていくことになった。
ヒューイくんの容態は悪化する一方だし、お金は食べ物を買うので精一杯だしで、切羽詰まっていた。
そこへ高そうな商品っぽいものを抱えた隙がありそうな白オオカミ(注 他の大型肉食獣人にくらべて 但し、後ろ暗そうな体格の良い団体談)がきたので、狙ってみた。こんな顛末だった。
話を一緒に聞いていたルーフェスさんが確認に出て行き、いま室内には、リュートくん、カイくん、私と意識のないヒューイくんがいる。
ルーフェスさんが心配だが、さすがに商売の基本、信用調査は大丈夫と信じたい。
「いるのに出迎え無しとは冷たいなあ」
勝手知ったる他人の家、他人の部屋。案内もノックもなしにチーター獣人が二人入ってきた。
昼間巡回を終えたチーター兄弟である。彼らはやんちゃな男の子がそのまま大きくなった感じで、カイくんとは違った面で、私のこの世界での保護者である。爪がしまえないので私にはめったに触らないが、木登りや自然の歩き方を教えてくれる。木登りが得意なのはヒョウじゃなかったっけ、と思うのだが、大概彼らと一緒にいるとすぐさまカイくんに回収されるので生態は追究出来ていない。
「すぐに汗を流せるのは良いよなあ。嫌がられずに街歩きが出来る。コーも獣人の店に行くか。中央は街とは違うぞ」
「お疲れ様。うれしいけれど病人がいるの。心配だから側にいたいんだ」
「んん、知り合いか。街で見たことないが」
「こっちで具合が悪そうだからって頼まれたの。こちらのリュートくんに」
「多分このタイプは、知らない奴がいない方が良いぞ。ストレスに弱い。フランクさんに話が通してあるなら、最初は知り合いだけにしてやれ」
「前にどこかで飛んでいたよな。競走するか、と思ったらパタリと落ちてビビった。たくさんの仲間がこっちを凝視しててなあ。獣人を食べるはずないだろうに」
兄弟が次々喋る。
「あのときたしか、俺達がいなくなるまで出て来なかったよな。落ちた奴も震えてて。気まずかった」
「ということでカイ、コー、行くぞ。俺達は明日から好きに飯も食えなくなるんだ。今日くらいうまいものを腹一杯食いたい」
「どうぞ、こちらは任せてください。リュートくんとも話がしたいですし、ちゃんと夕飯も食べてもらいますよ」
戸口にアレクサンドルさんとルーフェスさん、カーライルさんがいた。
「リュートくんのお父さんとは以前お会いしたことがあります。大丈夫ですよ。悪いようにはしません」
カタコトではないから、任せることにした。




