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オオカミ達の夕べ

はぁ、はぁ、はぁ。はあぁ。

灰色のオオカミ獣人二人が、上機嫌に息を切らせている。

海から縄ばしごで甲板に上ってきた、そのびしょ濡れの姿で、笑っている。


「よう。久しぶりだなぁ」

「変わらないなあ、二人とも」

「いや、コーは縮んだか?」

そんなことを言いながら、オオカミ二人はダイバースーツと水着の中間のような着衣の水を払っている。


「ようやく思いっきり走れた」

「全力疾走からの水泳だ。すっきりした」

「身体に血が巡ったぞ」

「カイとコーもどうだ」

ぶるるっ。ぶるるっ。

盛大に身震いして、水をきる。


大きなタオルを自分と私の前に広げていたカイくんのお陰で、海水の洗礼を受けずにすんだ。

しかし、爽やか過ぎてまぶしい。目に痛い。にじみ出した視界を閉じる。


「落ち着かないか」

カイくんがタオルを二人にバサリとかけた。

「私達は見ているだけで息切れしているから、ムリ。そんなことより二人とも早くシャワー、シャワー。大事な毛並みと肌が荒れちゃうよ」


おう。おう。

コーは相変わらず毛並みか。

はっはっはっ。



顔全体で笑うオオカミ二人はよく似た体格である。

カイくんパパよりカイくんに近いが、カイくんより細く固そうな、細マッチョ。

締まった体つきの二人は、カイくんのすぐ上の兄アナハくんと、すぐ下の弟ヘルマンくんだ。

もちろん私が勝手に縮めた呼び名だ。

数年前一度だけ聞いた本名は忘れてしまった。


「よく追い付いたね。船だと直線だけど、陸で走るとだいぶ蛇行でしょ」

「大した違いじゃない」


二人は私達の乗船より先に下船していた。

入れ違いだった。

そわそわしていた二人は、乗って来た船を落ち着ける浮きドックの操作時間も惜しんだという。

私達が乗る船がいつ頃どの辺りまで行くか聞き、じゃあ夕方この辺りで戻る、と言い置いて、跳んで跳ねて駆け去ったらしい。


そうして薄闇に包まれようとする今、予定通り陸から少し離れたこの特殊な船に泳ぎ着いた。







「初日の今日は、海で夜を明かすのだろう。もっと陸から離れたらどうだ」

「せっかくだ。まわりに海しかない環境を味わっていくと良い」

派手なアロマシャツを羽織ったアナハくんと、紬に似た装いのヘルマンくんが言う。


私とカイくんは彼らと一緒に瞬き始めた星を見上げる。

手すりに凭れて、最近のカイくんのお気に入りである微炭酸ハーブティーを飲んでいる。


「まだ初日だからね。あまり陸から離れるのは不安かと思って」

海を愛する二人にはいまいち通じない。

きょとんとする様子が不意打ちにかわいい。


陸の明かりが影響して、まだまだ本当の「海の星空」ではない、と二人は不満らしい。

宝物を自慢したい子どものようだ。


実際、この辺りの海は彼らにとって大切な宝物なのだ。

この船は力ある海の仲間達が動かしてくれている。

万が一のために最低限の動力は積んでいるが、基本使わない。

最近とても平穏だからと、さらにその回りを仲間達が守ってくれている。今は海賊も危険生物も出現しておらず、余裕があるらしい。

その体制のなか、何が不安なのか彼らにはわからないようだ。


外の人間からみれば危険きわまりない海域だ。

共和国の過激派は街から海域の支配を取り上げて一帯を殲滅すべきと言うらしい。

もちろん実現することはないが、特異な生態系の維持は街の獣人達なしには成り立たない。


カイくんではないが、この辺りの海は街以外にとっては危険がいっぱいなのだ。


海の守護者達は、絶妙なバランス感覚で、この海域を人間達からも、守っている。


「まさかこの船に人間が乗るとはなあ。コーはまだしも、今回六人もいるのだろう。俺達はしばらく自由だからな。船内ツアーも、船外の見所ツアーもやってやるぞ」


二人はすでに、船内や海の様子や船から感じ取れる全てのものを、誇らしげに私達に教えてくれている。

何やら打ち合わせをしだしたアレクサンドルさん一行と三人の青年達にも伝えたいことがたくさんあるのだろう。


「そうだねぇ。あの六人は何だか忙しそうだから、どうかなあ。とりあえず明日は六人が船を降りるらしいから、万が一のための護衛を頼めるかな」

「コー達はどうするんだ」

「私はもう少し船に慣れて、それからちょっと寝たいかな。カイくんはドミーくん達と港町を楽しんでくると良いよ。レイくんとナッジくん、トールさんとラスコーさんも一緒にね」

「俺も残ろう」

「せっかくだから、カイくんも遊んでくると良いよ。明日のところは自由な気風で、みんな過ごしやすいらしいよ。私は寝たいだけだから大丈夫。あ、みんなに現地通貨のお小遣いをあげてね」


カイくんが黒々とした眼でこちらを見ている。

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