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老夫婦と治安

ぶーら、ぶーら、ぶーら。

カイくんの左腕に座って、力を抜いた足を慣性に任せる。


ゆったりと歩くカイくんの右側には落ち着いたたたずまいの商店が並んでいる。カイくんの前にはシェーヴェさん、左にはフランクさんとルーフェスさん、後ろにはハッシュさんがいる。


私達は今、中央の石だたみの道を歩いていた。

そんなに混んでいないので、横に広がっても問題はない。


代表者会議間近とあって、昨日歩いたメインストリートは大変な混雑だった。

砂地なので転んでもいないのに裾や靴に砂埃がついた。

フランクさんの邸宅に入る前に一生懸命はたいて笑われた。

一方、一日早くフランクさん御用達のお店に連れて行ってもらうことになり案内された今日の道ゆきは、まだまだ余裕のある人通りだ。


「この辺りは顧客の元に出向く形態が主だからね。一見さんお断りという訳ではないが、紹介なしに入るには度胸がいるだろう」

ちゃんと連絡してあるから主だったスタッフは店にいるよ、とフランクさんが言う。


それなりのお買い上げをしなければいけないパターンだ。

うーん、これは必要経費かなあ。



立派な石造りの店に着くと、カイくんが私を降ろした。

ライオン二人はガラス越しに店内を見回した後、扉の両脇に立った。

カイくんも店内を凝視したあと、私をルーフェスさんに預けてハッシュさんの横に付いた。


ルーフェスさんが私の服を優しく払う仕草をする。

「ここは大丈夫だと思うが、まあ初回だからね。次からはうちに来てもらおう。今日はコーお嬢さんに店ごと紹介したかったんだ」

フランクさんが説明してくれる。


横からハッシュさんが付け加える。

「こういった店は我々を好まないことが多い。商品に毛や傷がつくからだ」


「逆もあるんだ。頑丈だから良いだろうと獣人向けの素材を乱暴に扱った人間もいてね」

フランクさんの言葉に周りを見回す。

確かに獣人だけ、人間だけのグループが多い。


つまらない。

すぐ戻って来るよ、とカイくんに言う。

「いや、店内もそれなりに安全だ。ゆっくり見ると良い」

お兄ちゃんオオカミに頓着する気配はない。



店内では上品な老夫婦の歓待を受けた。

若いスタッフも奥から出て来てくれた。

店先でごたごたしていたからか、老夫婦は外の三人に気付いていた。

嬉しいことに、外の三人の入店は問題ないと言ってくれた。


フランクさんが肯くので三人を迎えに行く。

「我々が商売の邪魔をするわけにはいかない。人目もある」

ハッシュさんが頑固だった。

「あらあら、隊長さんにお店の前で立たれていたら、摘発されているみたいだわ。夜にライオン隊長が店先に立っていたら、その店はお終いだと言われたもの。忘れていないわよ」

ハッシュさんは仕事終わりの一杯もできないらしい。


そして、なかなかに有名人だ。

やって来たことにくらべて怖がられていないところがすごい。

最終的に、お堅いライオンも老婦人の物騒な思い出話に屈して入店した。



「カイくん、カイくん、このデザイン似合うよ。丈夫だし」

獣人たちが、傷つけるから生地には触れない、というので私がはしゃいでみせる役割だ。


肌に触れる部分が柔らかで外側は衝撃に強そうなもの、内側に衝撃吸収機能のある素材を使い外側は柔らかにみせるもの、などこの世界独特の仕立てがある。もちろん、見た目通りの服もある。


私はカイくんに、街では見かけないなめらかな織りのガウンコートを選んだ。見た目は上品だが中に軽量化した防刃素材を編み込んだ部分があり、持つと厚さと重さに違和感がある。一部の威力の弱い銃弾も防げるらしい。


説明に感心していたが、改めて考えると実に物騒だ。

とりあえず私チョイスのこのコートはとても鮮やかで、白銀の毛並みに映えるのだ。


「手入れはどうすれば?」

触らないが、カイくんが乗り気だ。

早く羽織って欲しい。


「英雄達の街でしょう。水が合わないと思うわ。洗剤の泡も立たないでしょう」

老夫婦が顔を見合わせている。

「お品を預けていただけたら補修も込みでやらせていただきますよ」

ありがたい申し出だ。

硬い水を使うために洗剤もタフなものを使う悪循環から抜け出せる。

コートだったら季節の変わり目に中央に着て来て、預けて街へ帰っても良い。次のシーズンに次の羽織ものを着て来て、前に預けたものを着て帰る。適切な処置をされた安全装備を維持できる。これは必要経費だ。


ご夫妻は、若い頃、素材を求めて各地を渡り歩いたらしい。

その地に適した生地や仕立て、特産の素材、手入れ方法等を実地で試行錯誤したという。

なんとクロコダイルのガロンさんと知り合いだった。ガロンさんの手でも気楽に扱える生地を研究する過程で、ヒット商品の元が生まれたというからすごい。


「こちらで買えばクリーニングもメンテナンスも受けてもらえるのですか」

シェーヴェさんが突然食いついてきた。

「激しい損傷の場合は買い替えをご提案しますけれど、ほつれ程度なら定額で対応可能ですよ。そちら左手の生地は見た目に反して衝撃にとても強いんです。生地の痛みも緩和されます。お嬢さんの持つ生地と比べますと固めですがお身体に合わせて作りますから動きやすい仕上がりになりますよ」

「隊長のスーツとバランスのよい感じには出来ますか」

実は気にしていたらしい。アンバランスであるが、そういうペアなのだと思っていた。


コートをベースにすればお仕事中の激しい動きにもついて行けるのではないかしら。

袖を切ってみてはどう。

老夫婦の創作意欲に火が付いた。

シェーヴェさんはイメチェンするらしい。

そして、老夫婦の言葉からのぞきみえるライオン二人が恐いが、事実に基づくのだろうか。


フランクさんはフランクさんで新しい生地を前に若いスタッフと盛り上がっている。


ルーフェスさんが、小さなサイズの仕立て上がり見本を着たトルソーの前でじっとしている。怪しい。


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