オリーブの店
ザクザク。さらさら。さらさらさら。
「コー。こっちはいくつ蒔くのだ~?」
ドミーくんが両手で土をほぐしながら声を上げた。
「うーん。適当数?」
小さなスコップで苗木を植えようとしていた私は、根と土をどこまでほぐすべきか分からず、隣のカイくんを見上げた。
「種のほうは芽が出てから間引きもできる。指二本くらい離して置けば良い。コーの方は、・・・俺がやろう」
頼もしいオオカミは種まきのアドバイスをし、私と場所を代わった。
カイくんはテカテカした葉を持つコーヒーの木を選んでいた。
大きな鉢に植え、その鉢にオシャレな麻袋を被せて完成させていた。
水やりまで終わって、完璧である。
やることがなくなってしまった。
手を拭いて、くつろぎスペースのそこここで行われている土いじりを見回す。
ヴァイルチェン家から分けてもらった良質な土が所々で零れている。
ナッジくんが種を食べながら、時々思い出したようにプランターに落としている。あれはカボチャの種かなにかか。
レイくんが、実付きのレモンの苗木を階段のうえに置いている。
自分の定位置の近くに置きたいのは分かるが、蹴飛ばされそうだ。後で下ろさなきゃ。
ナップルさんとコニュちゃんはパキラ、マニュくんはテーブルヤシの植木鉢を抱えている。
受付組はカウンターに置けるものにしたようだ。
クローゼット屋の一家も、大小の観葉植物の鉢を完成させていた。
あ、お父さんと青年は、柑橘類かな。
細かい作業の得意なオオカミは、私のオリーブも無事処理し、すでにドミーくんとキッチンハーブのプランター作りに移行している。
うんうん。
良い記念になりそうだ。
そろそろ街へ帰ろう。
その前に、開業記念にシンボルツリーを植えていこう。
拠点の建物とともに時を過ごす木。
このあたりは自然がないから、植木鉢に植えて室内で育てよう。
ちょうど高い天井もあるし。
そうだ、みんなでそれぞれお気に入りを植えていこう。
ナップルさん達がお世話してくれるって。
そんな話を経て、今日は手の空いた希望者で適宜土いじりをしている。
種や苗木の手配はルーフェスさんがしてくれた。
「ラストル雑貨店で、苗木や種を扱っていますよ。状態の良いものがまだまだありますから、運んで来ましょう」
そう言って、ギースさんと雑貨店の店員さんと一緒にゴロゴロと屋台車を牽いてきてくれた。
せっかくたくさん持ってきてくれたからと、商品は全てバルドーさんが買い取った。
そうして、一日屋台車だけ貸して欲しいと言った。
ルーフェスさんは最初、そんなそんな、と遠慮した。
持ち帰りますから、大丈夫ですよと。
しかし、最後は折れた。
バルドーさんがとてもワクワクした顔をしていたからだ。
「遅くなったが、開店祝いだ。拠点用に好きなものを持っていくと良い。残りはここらで売ってみる」
バルドーさん一家はそれぞれの苗木を植えた後、私達の選別が終わると移動販売に行ってしまった。
恐面の草花売りが誕生してしまった。
バルドーさんはとてもウキウキしていた。
リュートくんとヒューイくんがついているので、なんとかなるだろうと私は黙って見送った。
シンボルツリーは大きく育つオリーブの若木だ。
くつろぎスペースの真ん中に、大きめ深めの鉢で鎮座している。
小さな楕円の葉が、空調の風にさわさわと揺れている。
この拠点、オリーブの店とでも名付けようかな。
一仕事終えた気分で葉っぱを見ていたら眠くなってしまった。
「嬢ちゃんの身長、来年にはこの木に越されるんじゃないか」
カーライルさんの声に反論する気も起きなかったのは、眠かったからで、認めたからではない。




