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そろばんと盾

スタスタ。すたすたすた。とんとんとん。

がたり。がたり。かたん。

「今日も間に合ったか。三人分よろしく」

「はいなのだ~」

アレクサンドルさん一行が裏口から入って厨房を抜け、私達のいるくつろぎスペースまでやってきた。

テーブルセットに座ったカーライルさんが昼食を要求すると、ドミーくんが快く応じた。


「お仕事はどうしました。ここにいて良いのですか。前はどこかの事務所か連絡所に詰めてましたよね」

ハイスツールから声をかける。


最近アレクサンドルさん一行はやたらとここにやって来る。

王国にいるとカーライルさんは独自の付き合い、ルーフェスさんも実家やラストル雑貨店関係で忙しい。

アレクサンドルさんの安全が確保できないと、専属護衛と護衛もどきは大事な会長をここに預けていくのだ。

ついでに食事をしながら打ち合わせをしていく。


「代理店契約をした店にいたのですが、こちらが出来ましたからね。もともと大した数字の上がらない店でしたから、契約解除したのです。こちらで時々私が直接やり取りした方が利益がでます。こちらの方が広くて、安全で、何かと便利ですしね」

「勝手にここを事務所扱いしないでくださいよ」


カイくんがクルミのキャラメルがけを運んできてくれた。

ささやかな示威行動としてがりがりかみ砕いてみる。

アレクサンドルさんはキャラメルの光沢に気をとられて、私のたてる音になど注意が向いていない。


飲み物の仕入れ先である老婦人が、時折マニュくんにクルミをたくさんくれる。

ドミーくんとギースさんが楽々殻を割ってくれるので、おやつやデザートによくでてくるようになった。


「まあまあ。それくらい小さなことでしょう」

クルミの小皿を見つめながらナンを口に運ぶアレクサンドルさんはそう言って、強引に話題を変えた。

「感覚ですが、なんだかんだコーさんは今回かなり利益をとってますね。見えにくいところで。コーさんが私達に説明した流れだけでは、立場からみて違和感が残るのですよ」


甘いナンがお気に召したらしい。

くすんだ金髪の商人は、これ、チーズをのせて焼けませんか、とドミーくんに注文をだした。

ドミーくんは再び、はいなのだ~、と受けた。


「アッシュリードさんとアレクサンドルさんへの借りを返して、腕と相性の良い職人さん達を引き込んで、この国の金融機関との実績をつくる。私にとっての大筋はこれだけです」

アレクサンドルさんが疑わしそうに見るので、せっかくだからと、この場を借りて念押ししておくことにした。

「そうですね。違和感ありますよね。解消のため、アレクサンドルさんの三階のお部屋と、カーライルさんとルーフェスさんの二階のお部屋、相場の家賃をもらいますからね。もちろんマッチョさんからももらっていますよ」


確かに、細々とした契約は色々交わした。

色々なところで契約当事者として私がでてくる。


例えば、クローゼット屋の利用料。

制服を希望した四人のクローゼット屋の利用料は、拠点の固定賃料等と実質相殺だ。

ただこの取引の契約当事者は一家のお母さんと私であって、法人ではない。

当然私は法人へクローゼット屋利用料相当額を請求する。


スースさんの言葉ではないが、ピンはね商売である法人でのメイン業務は、軌道に乗れば儲かる。

さらに賞金稼ぎやら他の店の後始末的な特別業務も儲かる。

そこで経営者であるナップルさんと相談して、実質定額の衣類メンテナンスは私服も含めて福利厚生扱いとした。

こうして獣人たちのおかげで早期に資金繰りに余裕がでてきた法人から、定額利用料が私に支払われる仕組みがてきた。マッチョさんの分も含めて。


例えば、不動産賃貸。

マッチョさんは事業本部の人間なので本来クローゼット屋の利用はマニュくん達とは別会計だ。

しかし一家の清算が面倒になるので、一家の手間を考えて、まとめることにした。

マッチョさんがなんだか悪いなと言い出したので、私はマッチョさんが住み着いている二階の一室について、正式に契約を交わして家賃をもらうことにした。

かつてマッチョさんがクローゼット屋に支払っていた金額と同程度とした。

マッチョさんとしては衣食住全てを拠点で済ませることができる仕組みとなり、トータルではお得だ。

マッチョさんに否やはなかった。

ドミーくんが身内認定している人間は、私達といれば基本的に食事はセットである。

仕事とプライベートの別がないマッチョさんは、拠点が仕事場で、自宅で、三食の場でも平気らしい。


「食事もついて、事務所利用もおまけしてくれるなら、払いますよ。ついでに私の不在時の伝言もやってもらえると嬉しいですね」

飄々というアレクサンドルさんに、受付で帳簿仕事をしているナップルさんを目で指す。

「人手が必要な部分はナップルさんと金額交渉してください。私は法人の株主であって、経営者ではありませんからね。順調なうちは、口をだしませんよ」


「これだけあれこれしておいて、それを言うのか」

カーライルさんがツッコミを入れるが、気にしないのだ。

「今回私はお金が上手く巡っていく仕組みを作っただけです。たまたま、歯車として私が入ることで解決する問題が多かった、それだけですよ。まあ、仕組みにしても、歯車にしても、動かし続けるには燃料や潤滑油がいるじゃないですか」


付け加えるならば、クローゼット屋の売上が一定額を越えたら、私は越えた額の五パーセントを歩合賃料としてもらうことになっている。


最近護衛職達が、身綺麗にすると依頼者の好感度が上がり、契約成約率があがると気づいた。

この辺りを活動エリアとする護衛職達は、あまり身なりを気にしていないことが多い。

私は無垢な少女の外見を利用して、ごわごわぼろぼろした護衛職達に、やんわりと、時にバッサリと身なりのダメ出しをした。そうして彼らの収支が合う程度で、クローゼット屋の利用を促した。

クローゼット屋の一家も心得たもので、初回割引やリピーター割引をしてくれる。

仲介業務とクローゼット屋の相乗効果がでている。

そのうち歩合が恒常化するだろう。


もっと根本を掘り下げると、一家の自宅底地の購入額がこの組み立てのポイントだ。

一家の足元を見て地代を高くしていた共和国商人であったが、今度はこちらが足元をみさせてもらったのだ。


半端な場所の半端な面積の土地。

借り主一家は共和国商人にとっては信用力がない。

モデル事業の話は大きな話になっていないし、地価にマイナスこそあれプラスの材料はない。

地代を延滞気味な借り主付き。管理コストが大きくなりそうな土地。

交渉人を立て適切なもっていきかたをすれば、買い叩けた。



フルちゃんと距離をとりながら見つめあって動かなくなっている一家のお父さんを見る。

物静かなお兄さんが、困ったように固まっている。

元気なお姉さんが半笑いで見守っている。

やんちゃな弟さんはナッジくんのシャツを着替えさせようと追いかけっこして、少女を微笑ませている。


「今回はでしゃばり過ぎた自覚があります。ただ、これで、何かあったときは私が口をだせます。各段階で私が絡んでいるのでなんだかんだ身内を庇うことができます。連絡がきます。街から離れているので心配なのですよ。今後はもうこんなに絡みません」

私の言葉に、半信半疑な様子のアレクサンドルさんである。

しかしながら、キャラメル増し増しのくるみとチーズがけナンが運ばれてきたところで、自然とお開きになった。

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