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ライオンと役割分担

チクタク、チクタク、チクタク。

時計の針の音が聞こえる。

沈黙が痛い。この世界のマナー的には、ここで私が行動を起こしてよいのだろうか。


「では、座らせていただく」

無表情ライオン、ハッシュさんがシェーヴェさんを促して座った。

ちょっとほっとした。


カイくんに隠されるようにして座った私は、身を乗り出して存在をアピールする。

「単刀直入に申し上げます。私はコロンくんの街の不自然な取引をなくしたいと考えています。そのための仕組みはフランクさんから先ほどご説明いただいた通りです」


二人のライオンに軽く視線を投げる。

種族によってはまっすぐ目を合わせると敵対行動と誤認される。

注意が必要なのだ。


「そちらに不都合があればおっしゃってください。この場のみなさんに不都合なことはやりません。もし私のやろうとしていることが望ましくないのであれば、白紙撤回します」


全員を見回す。

フランクさんが苦笑した。

「頼むよ、ハッシュさん。私まで警戒されてしまった」


カイくんパパがエッという顔をした。

カイくんは変わらず私を隠そうとしている。

ライオン達も変わらない。


とりあえず、ライオン達以外は問題なさそうだ。


「礼を失した態度で申し訳ない。シェーヴェはちょっと獣人に肩入れしすぎてしまっている。我々のボスがフランクさんに任せると言った。フランクさんがコーさんのやり方でいくというなら、我々は従うまでだ」

事態の収束までコーさんの指揮下に入ろう。

獣人のもつ売掛債権の買取はこちらで話を通しておく。

商人との交渉には同行しよう。

無表情ライオンは平坦に言った。


「コーお嬢さんには説明が足りなかったね。彼らは今回のプロジェクトの実働部隊にと派遣されて来たんだ。コロンくん達の街は、非公式に彼らのボスに相談していたんだよ」


フランクさんが言うには、ライオン獣人は、いろいろなところに転がっている人間と獣人間の歪みを是正しようと動いているらしい。

人間から獣人への不利益な扱いも、その逆も。

そのために中央を拠点にして、公平性を保とうとしている。

現在のボスが取っている手法は、正面から正々堂々と、だ。

関係者と客観的に議論を尽くす。

関係者周辺と客観的に議論を尽くす。

客観的に世論を動かす。

難点は、わかりやすい被害がなければ動けないことだ。


案件によっては適切なパートナーと組んで解決を目指すことがあって、今回はそのタイプらしい。


NPO的存在なのか。正義のヒーロー集団なのか。

そしてなぜ銀行家のフランクさんが間に入るのだろう。

フランクさんに疑いの視線を向ける。


「コーお嬢さんの疑問もわかるよ。彼らの方針はボスによって変わるんだ。前のボスは今と比べて、何と言うか、コワモテな方法を選択していたんだ。非人道的な扱いを受けているひとたちがいるとわかれば強襲して保護したり、後ろ暗い集団のアジトを闇討ちしたり。私の投資先や取引先、最終的には私自身をターゲットにした危ない計画にも対処してくれたんだよ」


この世界は前世の概念でいう国が組織する警察機能がない。

街単位、個人単位で自衛する。

裁判機能はあるが、種族や地域によってルールが違う。

法はかなり大枠的で、細かいところは街ごとに決められている。

街の決まりも慣習法に近い。

つまりは法も条例も大雑把で、逸脱への予防機能は街による。


だから人は、自分の価値観に近い街を拠点にするのだ。

知らずにルールを逸脱しないように。

カイくんがホームタウンを出てからいっそう過保護なのもそのせいだ。


「前のボスはもうこの方法は古いと引退した。そして今のボスが今の路線を走り出した。今回の件は、前のボスの時代のにおいがする。だから我々二人が派遣されてきたのだ」

ハッシュさんが言う。

フランクさんとハッシュさんは前のボスの時代に知り合ったらしい。

「シェーヴェは元強襲隊の副長だ。まだまだ後ろ暗い連中には効果がある。腕も、全盛期程ではないにしても、仲間内で一、二を争う」


「私は後ろ暗いところはないつもりですが」

なぜ、好感度が低いんでしょうね。言外に問う。

私はとても仲良くしたい。ふわっとした首毛もふさふさのたてがみも魅力的だ。


「今回コロンさん達の街を踏み荒らした商人達は、人間で、若くて、話術巧みに獣人達の生活に入り込んだ。そして示唆しているのは『  』だ。先入観が目を曇らせているんだ。最近小規模な対人間案件が多い。コーさんには全く関係ない理由だ。申し訳ない」

ハッシュさんが再び頭を下げる。


「隊長を落としめたのも人間の『  』だった」

シェーヴェさんが低い声でいう。


「もう私は隊長ではない。そして騙された私が未熟だった。それだけでこの件に関係はない」

ハッシュさんがフラットな声音で言う。


シリアスだ。意味深だ。聞いて良いのだろうか。

そしてちょっとご同類たち、やらかし過ぎだ。


「すぐに信じてもらえないと思いますが、私はオオカミやワシミミズクやアリゲーター達街のみんなに育てられました。今もカイくんと一緒でなければろくに活動出来ません。私はあと、商人のアレクサンドルさんとルーフェスさん、カーライルさんと護衛のバルドーさんしか人間の知り合いはいません。心は獣人です」

アカウントを懐から出して示す。


フランクさんの手続き待ちなので、街での機能しかないものだ。

恐らくこの状態のアカウントを持つ人間はいまい。


案の定ハッシュさんもシェーヴェさんも絶句した。

大型肉食獣人の街でしか生きていけないようなものだからだ。

シリアス展開が吹っ飛ぶ驚き顔になっている。


ライオンのびっくり顔、いただきました。


「コーはうちの子だよ。街の子だ。何かあったら街がサポートする」

黒オオカミが穏やかに言う。


「あなたたちの街にも、コロンさんの街は使者を出しました。代表者会議の前に助けを得られないか相談したいと思っていたようですが、昨日になっても中央では見受けられなかったので」

気を取り直したのか、毒気の抜けたシェーヴェさんが言う。


まさか前々日の陽も落ちようというときに第一陣が来て、全員揃うのが当日会場で、とは思うまい。


「今回はちょっといろいろあってね」

意味深に黒オオカミが言うが、本当だろうか。

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