オオカミとモーニングティー
もっふ、もふ。ちっく、ちく。ぽふぽふぽふ。
一日ぶりのカイくんしっぽをいじり倒す。
カイくんは嫌そうな顔をしているが、私の疲れたオーラを察知して、何も言わずにじっと座っていてくれる。
「もうね、アレクサンドルさんひどいんだよ。ルーフェスさんもバルドーさんもグルなんだよ。私のいないときにこそこそと。マニュくんとコニュちゃんに紹介したあとだったから、困っちゃって。まわりも盛り上げちゃっていたし、今更強く止めて良いか分からなくなっちゃって」
縦に横にしっぽの毛並みをいじりながらしゃべり続ける。
昨日のカイくん不在時に起こったことを共有する。
朝陽に緑が映える我が家の庭。
ドミーくんが来る前に、カイくんが来てくれた。
ふかふかにしてある芝生のうえに二人で座ってモーニングティーを飲んでいる。ところどころに生えたミントを摘んで口に運ぶ。
朝が早すぎて、ナッジくんは寄合所のベッドでまだ夢のなかだ。
「今日はここで過ごす。騒がしくなるまで寝ていると良い」
カイくんが私の顔に手の甲で触れる。
目の下の隈に気付かれたらしい。
「なんだかどんどん眠れなくなって。カイくんがいないと生活のリズムもダメダメになっちゃったよ」
こんなに恵まれた今世なのに、前世の慢性的な偏頭痛が復活しそうな気配がする。
「私も身体を鍛えようかな。健全な精神は健全な肉体に宿るんだって」
カーライルさんに言われたなあ。
私やアレクサンドルさんは、自分の歪みを自覚して、活かしているんだって。
どれだけ身体を鍛えたら、歪みはなくなるのかな。
今日も肌触り抜群のカイくんの衣服に懐きながら思い付くまましゃべっている。
「きっと俺達は二人とも、ずっと不健全な精神だ。まわりがあれだからな。鍛えたところで、この街の住民達のレベルにはどうやったって及ばない」
健全のレベルが高すぎる。
あのレベルになると、大概のことには動揺しなくなる。
基準のタチが悪過ぎる。
一種の、コーが言うところの、「感覚が麻痺する」というものだ。
街も、俺達も。
カイくんの言葉と真顔を見ていたら、笑いと穏やかな眠気がやってきた。
そういえば、かの格言は、もとの解釈が違うんじゃなかったっけ。
宿ると良いね、願わしいね、という風刺だったような。
どっちにしろ、私には無理かも。
ぽそぽそ話す私に、カイくんはそうか、そうなのか、と相づちを打ってくれる。
言葉に合わせてカイくんが、子守歌のように背中をぽふぽふ叩いてくる。
私は笑いながらまぶたを閉じた。




