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オオカミ不在の弊害

すか、すかっ。すか、すか、すか。

私の片手がカイくんのしっぽを探すが、見つからない。行き場をなくす。腕にあわせて椅子の上で身体が揺れる。

なんだなんだ、という顔をしたナッジくんが、私の身体にあわせて揺れ出した。


揺れる私達を不思議そうに見ながら、ナップルさんが説明してくれる。

「事業本部が請けた試験的業務です。最終形として事業本部が目論んでいるのは各地の統治者や有力者達からの、定期定額自動更新の受注です。各地の軍や自治組織と、治安維持で協力する構想ですね。いまは公的なモデル事業段階とか。とりあえず今は、うちだけで小さく試していると聞いています。なので、お試しですからね、僕はいろいろ跳ね返しましたよ。面倒や責任は全部事業本部です」

アッシュリードさんの主が共和国寄りの支部にお怒りだったのはこの構想があったからかも知れない。公平性を保てなければ土台が崩れる。

我らが支部に大盤振る舞いだったのは、初期費用にこれだけかかりましたよ実績で、と後に活用する肚があったからかも。


「アレクサンドルさんが言っていました。人間相手の仕組みでコーさんは興味がないだろうからこのモデル事業については自分が面倒をみよう、と」

アレクサンドルさんめ。マージンを抜く気だな。

獣人達が人間のしがらみにとらわれることのないよう、私が注意していることをわかっていながらやったな。気の良い私達のウワマエをはねる気だ。

「治安維持の範囲はどこまでで、具体的裁量はどれだけありますか」

なんだか腹が立ってきたぞ。


私が気分を害していることを察したらしいナップルさんが言い繕う。

「大丈夫ですよ。コーさんに叩き込まれましたからね。契約案は一文一文、各条項、目を皿のようにして、舐めるように確認しました。治安維持として契約したのは事業本部です。僕が代表者として契約したのは、捕まえたら引き渡す、引き渡したら懸賞金をもらう、事業本部に報告書を提出する、これだけで、相手は事業本部です。ある意味完全歩合です。やらなければ収入はないわけですが、やらなければいけないわけでもありません。曖昧な努力義務も削除してもらいました」

ふふん、と胸を張るナップルさんである。

ふう。思ったよりひどくはないかな。


「実務面で言えば、軍の中には快く思っていない人間もいるわけですが、どんな仕事でも現場同士はそんなものでしょう」

つらつら喋るナップルさんに、チーター二人が力強く頷く。

「そうですよね。お仕事はそんなものですよね」

「覚悟しています」


いやいやいや。最初の仕事は大事だよ。

最初の仕事は引きずるよ。

感覚ができちゃうよ。

麻痺しちゃうよ。

人間のしがらみはこわいよ。


私が言う前に、ナップルさんがぐるんぐるんと首を振った。

「いやいやいや。ノルマがあるわけでもないですし、成果ゼロでも怒られませんからね。僕にじゃないですよ。事業本部にですよ。今回は手に余るお客ばかりだったとか、お客が来ませんでしたとか報告するだけです。ガンガン無理して数字を挙げても、どんどん自分がキツくなるだけですからね。僕自身、余程の自信がなければ手をだしません。暇な獣人のみなさんがいないときは、まずやりませんよ。本業は仲介です。無理はしないんです。よくご存知でしょう」

はっ、はっ、はっ。変な笑いが入った。


手伝ってくれるのは獣人かつ護衛職を選ぶような方々ですし。問題ないですよ。

あ、ただ支部長には内緒らしいです。

変に突き詰めて変な動きをしだすと面倒だから、とアッシュリードさんが言ってました。報告書はアッシュリードさんへ直接送るよう言われています。


ナップルさんのつれづれな説明を聞きつつ、マニュくんコニュちゃんの顔を見る。私の勧誘で護衛依頼を受けてくれるようになった各地の獣人達を思い返す。

判断がつかない。

とりあえずマニュくん達だけでも保留にしようか、引き止めようか、と考える。

それを察したのか、ライオンの青年が声を掛けてきた。

「この二人なら大丈夫だろう。引き際を知っている。俺達もたまには顔を出しているし、王国なら懸賞首の情報交換もしている。軍の様子も分かる」

爽やかライオンは近くでチーズと格闘していたが、話も聞いていたようだ。


「何かあったらすぐ助けに行ってやる。街に来てしまえば良いんだ」

後ろに座っていたチーズ塗れのワシミミズク、フローくんも言う。


むむむ。教えてカイくん。平均的な、中間的な視点が欲しいよ。

全力で止めなくて良いかなあ。

脳内招き子猫がナァナァと、カイくんを呼んでいる。


あんなに喜んでいた二人だ。

一度王国に行かせてやりたいじゃないか。なあ。

こそこそみんなが囁いている。

いざとなれば、別に、なあ。

なあ。

ところで、いざってなんだ。

虎とアリゲーターが顔を見合わせる。

圧倒的強者達は脅威に感じるものがない。



ふう。

まあ、そうだよね。事業本部の追加業務を受けたのは法人だ。

いざとなれば中身の人を入れ替えてしまえばよい。

ちょっと惜しいけど、早めに私の持株もウルススさんかフルウィアさん、フルウィアさんがだめならカロリスさんに、売却しようかな。

あの三人の持ち物ならば、王国人は無体をしないだろう。

私はあそこの不動産を賃貸するだけにしようかな。


仕方がない。

マニュくんとコニュちゃん、それからナップルさんが深みにはまらないようにだけ、手を尽くそう。

それにしてもアレクサンドルさんはまた、儲けているんだろうな。

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