宴の朝
にまにま。ニマ。にまにまにま。
「その顔、いいのか」
とげとげした身体の気遣いワニガメ、トールさんがカイくんに聞く。
「仕方がない」
腕に乗った私をちらりと見たカイくんが答える。
私はにまにまが止まらない。
寄合所前の広場では、住民達がダレていたり、寝転んでいたり、いまだ元気に動いていたり、朝食バーベキューをしていたりする。意識の有無の違いはあるが、昼行性の獣人達と夜行性の獣人達が入り混じっている。もふもふ。つるつる。とげとげ。テカテカ。眼福、眼福。
参加者が入れ代わり立ち代わりしながら、火を止めずに夜が明けた、バーベキューパーティーの朝である。一旦寝に帰って、戻って来た住民もいる。食材が無くなるまで続くのだろう。
カイくんとドミーくんと私も家で睡眠を取ってから再び来たクチだ。
我が家には、夜中楽しそうな雰囲気が伝わって来ていた。
マニュくんとコニュちゃんは、結局珍しいパーティーを去りがたくなったらしい。
出入りし放題の我が家に寝に来ることはなかった。
本当に立ち去りたくなかったのか、まわりに気を遣ったのかは不明だが、後者のような気がしている。
レイくんやナッジくんは適当に、食べて寝て食べて寝てを繰り返したらしい。
私達と違って、それでも平気という。
もともと彼らは昼間に好きに寝るので、良いのかもしれない。
「ねえ、カイくん。体調は大丈夫?」
「動けない程ではない」
私達が送って行くのは無理そうだ。
獣人達は下手な嘘をつかない。カイくんも変な見栄を張らないので、私は率直に確認できる。
「トールさん。誰かに、マニュくんとコニュちゃんを王国に送り届けてもらうのと、王国へ猫のような人間を迎えに行ってもらうの、どちらが良いかな」
「猫のような、というのは、俺達基準でか」
「そうだね。街の猫科じゃなくて、中央で人間達と生活している猫の獣人達くらい。ギースさんやチーター兄弟とも顔見知りだよ」
警戒心と危機察知は中央以上かな。
私がそう言うと、トールさんはほう、と顎を撫でた。
幻のあごひげが見える。
「コーが時々話題にする、面白い人間だな。ちょうど良い。俺達も会いたいと話していたんだ。ギースさんに迎えに行ってもらったらどうだ」
「カイくん。あっちの建物、いつ竣工予定だっけ」
王国の拠点の工事はそろそろ完成しないだろうか。
マッチョさんとナップルさんは竣工式までは、臨時カウンターで営業してくれているのだ。
「王国と街を往復していれば完成しているだろう。行きたいんだろ。行くぞ」
確かそろそろバルドーさんが長期仕事を終えて、リュートくんとヒューイくんを迎えに王国に着く頃だ。
人気護衛はいまだ私に次々利益の元を与えてくれる。少しは家族だんらんの時間を作ってあげよう。
ナップルさんに旅をしてもらう間、臨時店舗の運営はバルドーさんに任せよう。
きっと張りきって空回りするだろうけれど、リュートくんとヒューイくんがいればなんとかなるだろう。
ナップルさんに気分転換がてら街に来てもらって、マニュくんとコニュちゃんとの相性を確認。その頃にはカイくんの調子も整うだろうから、結果がどうあれ、ナップルさんと一緒に私達も王国に行く。そうして、完成した拠点を確認しよう。
差し当たって、ギースさんとフルちゃんの旅か。まだ少し寒いよね。
「フルちゃんにマフラーを作ってあげたいな」
カイくんとトールさんがじっと私を見る。
「そこだけ諦めが悪いのはなぜだ」
「悪いことは言わない。カイに作ってもらうんだ」
「カイくんは編み物難しいって言っていたよ」
「コーが作るよりはマシにできる」
真顔のオオカミに見下ろされた。
ふん。




