ミズカキヤモリと税金
ヒュールリ、パサリ、パサリ。
軽やかに二人のワシミミズク獣人が夜明けのフランクさん邸の中庭に降り立った。
徐々に広がる朝日に照らされて神々しい。
彼らの羽は、広げると本当に大きい。
私を横にしてもまだ翼が余る。
ちびっこコーさん一人くらい運んでくれないだろうか。前に「乗せて乗せて」と言っていたらカイくんに拘束されたので実験出来ていないのだ。
ワシミミズクお母さんのパートナーと長男な二人は、大型肉食獣人の管理エリアの夜間巡回を終えたところである。代表者会議出席のため、通常の経路を変えて、終着点を街ではなく中央にしたのだ。
長男は私が今世発生(?)したときに隣にもふっとしていたベビーの一人、フローくんである。私を置き去りにすくすくと大人になってしまった。
「人間はまだ寝ている時間だろう」
フローくんが鋭い眼差しで私を見下ろす。
「昨日の夜早かったんだよ。快適なお部屋で7時間も眠ったんだから」
心残りは白黒オオカミに挟まれて眠れなかったことだ。さすがに窮屈だった。カイくんも「ここまで大きくなって父親と一緒に寝るとか何の冗談だ」と嫌がった。
じゃあどちらかともふ寝したいと画策していたら、二人に激しく拒まれた。
うっかり潰したり、手が当たったり、引っ掛かったりしたら大変だ。とてもではないが心配で眠るどころか身動きも取れなくなると言われ、引き下がった。
ふかふかのベッドで寂しくおとなしく眠った。
この時期中央のホテルは大方早くから満員御礼なので、私達の中央での拠点はフランクさんの邸宅である。
大豪邸ではないが、オオカミ親子も満足の大きさで、客室も十分な広さと数がある。通いのメイドさん達が常に綺麗にしてくれていて快適だ。
ただフローくん親子や、後で来るチーター兄弟は獣人専用の宿が良いとフランクさん邸を中継地点としてのみ使う予定である。
専用の宿は、藁ベッドや樹の上、砂地等、結構選べるらしい。
これらの宿は人間の需要がないために十分な空きがあるという。
経営は大丈夫かと思ったが、実は獣人用の宿は公的資金が入っているらしい。
獣人の住む地域に環境整備のための課税がされていて、その税金が維持に使われているという。
「異常はなかった?」
巡回業務について聞く。
「人間のエリアに向かっているさそりをいくつか捕まえたから、フランクさんに渡してくれ。あと別に欲しいと頼まれていたミズカキヤモリがこの中にいる。間違えないように気をつけて渡すんだぞ」
「ミズカキヤモリ見たい!」
二つのケースを渡されたので、言ってみる。ミズカキヤモリは小さくて、目がおおきくて、体が透き通って見えて、足の付き方もかわいい爬虫類だ。砂漠に棲み、日中は砂に潜っているのであまり見かけることはない。夜には出てくるため、フローくん達に見つかったのだろう。
ちょっとだけフタを開けて覗き込むとキョロッとした目と目があった。
「フェネックが街に向けて走っていたが何かあったか」
ワシミミズクお父さんが言う。
「私は知らないけれど、異常事態なの?」
「電話を使わない事態が想像できなかったんだ」
それもそうだ。小型獣人が駆けるより、電話や夜明けを待って公共交通を使った方が安全だし早い。
捕まえておくべきだったか、と呟くが、リアル捕食の図になるのでやめてほしい。
報告しておくよ、と言っておく。すると二人は「では宿に行ってひと眠りする」と言う。
獣人の宿は夜行性にも対応しているのだ。
ばさりばさりと飛び立つワシミミズクを見送っていると、カイくんが近寄ってきた。
「そろそろ父さんを起こすけれど来るか」
「行く」
野生を失った黒オオカミの寝起きを目撃するのだ。




