チーターの親族
ちまちま。ちま、ちまっ。
小さな編み目に、編み針を一生懸命に通す。
力加減に気を付けて、ひと編みひと編みのバランスを見て。
「コー。やっぱり歪んでいるのだ~」
邪気のない、事実を告げる声がする。
「難しい」
編み針とマフラーになり損なった毛糸の塊を机に投げ出す。
長い長い長方形になるよう編んでいたはずだ。
なぜ、ドーナツ状になっているのだろう。
暇な住民達がのんびりしている街の寄合所では、私がまた失敗したと、笑いが起こっている。
もう三回目だ。
「諦めて買えば良いだろう」
カイくんがあっさり最適解を言う。
「カイくんが手袋を手作りしたから、私はマフラーを作ってあげたかったんだよ」
目の前にある、小さな五本指手袋をしみじみとみる。五セットもある。
チーター兄弟の甥姪たちが、このたび独り立ちするらしい。
慣らしがてら、今までお母さんと過ごしていたところから、順次街へ遊びにやって来るという。
チーターの獣人は群れを作らないが、一度にたくさんの子ども達が生まれる。今回独り立ちするのは五人だという。
ちっちゃいチーター、もっふもふ。
私がはしゃいでいたら、まだ爪の扱いがなってないだろうからコーが思うような接触は危ないと、チーター兄弟が言った。
そんなことないよと言い張っていたら、カイくんが野球グローブのような手袋を作ったのだ。
「防寒と言うより、爪対策だ。目的が違う」
「ううぅ」
器用な白オオカミは、硬い革を縫い合わせて、小さな手袋を仕上げた。
どうやら以前、私が手袋を編もうとして諦めたときからひそかに試行錯誤していたらしい。
編むことは出来ないが、強い生地を使って縫い合わせればよいと結論したという。
革を扱うには丁寧さも、根気も、力もない私である。
種族的には器用さで頑張ってみるべきかなと、久しぶりに編み針を持ったのが大きな間違いだった。
私はこれまで一つとして編みもの作品を完成させたことがない。
「やっぱり、お小遣いをあげて、好きなものを買って食べてもらおう。チーター的にお小遣いはオーケーかな」
輪になった毛糸の塊をいじって遊び出したチーター兄弟に聞く。
「別に何の問題もないぞ」
「とはいえ、計算できるのか」
「俺達は知らなかったな」
「俺達もカイに教わったもんな」
うーん。一緒に食事したいけれど、まだ早いよね。
馴れ馴れしいと嫌われたら悲しい。
ガブルさんのお店に案内して、これで好きなものを買って食べてね、と言うくらいかなぁ。
おいおい。まあまあ。
ざわめきが起きた。
「なになに」
私にはまだ分からないが、みんなが反応している。
チーター兄弟が入口に行く。
ナッジくんが首を傾げながら近くに来た。
「こんにちは。皆さま初めまして。僕はマニュです」
「私はコニュです」
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
レイくんくらいの身長のチーター二人がぴしりと入って来た。
大きな声で挨拶し、頭を下げる。
身につけているのは、体にピッタリした襟付きシャツとチェスターコート。四角い肩掛け鞄を斜めにかけている。
きっちりボタンを留めた衣服を歪めずに、正しい姿勢で動いている。
「いつもおじ達がお世話になっています」
「皆さまこれからお仕事ですよね。こんな形ですみません。突然ですが、こちらよろしければご笑納ください」
「お仕事の合間にどうぞ」
手土産まで配っている。
お疲れ様です、今日も頑張ってください。
言われてだらだらしていられなくなった住民達である。
おう。
行ってくる。
今日も頑張って来る。
しどろもどろに言って、立ち去って行く。
どこに行くのだろう。
きっちりチーター二人組は、こちらに向かってくる。
おじさん達、服はきちんと手入れして、ちゃんと着なきゃ。
ほら、きちんと立って。
姿勢が悪いよ。
お母さんに言われたよ。
街の皆さまにご迷惑をおかけしているだろうから、よく確認して糾して来るようにって。
後ろについているチーター兄弟にダメ出ししながら近付いて来る。
お、おう。
あ、ああ。
チーター兄弟が気まずそうにタジタジしている。
チーター兄弟、私達に嘘をついたな。
「どうしようカイくん。もっふもふできなさそう」
「それ以前の問題だな」
私はハキハキキビキビしたコミュニケーションはできないし、きっちりしっかりなんて振る舞えない。
街のみんなも同じだろう。
あっという間に寄合所には、私、カイくん、ナッジくん、ドミーくんとレイくん、チーター四人だけになってしまった。




