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風呂敷の中身

うじうじ。うじ、うじ。

「そんなことをさせるためにプレゼントしたんじゃないんですよ」

ルーフェスさんがグチグチ言っている。


「超小型の麻酔銃だからといっても当たりどころが悪ければ後遺症が残るかもしれないんですよ。まあ、カイさんにかかれば簡単に弾けるんですよね。そうですよね。未開の森と比べたら生ぬるいんですよね。わかってますよ」

でも対獣人用に作られた麻酔ですから成分もきついんですよ。

万が一、万が一当たっていたらどうするんですか。

カイさんサイズだと全弾撃ち込まれたでしょう。

うんぬんかんぬん。


マッチョさんが帰ってこないので暇潰しがてら相手をする。

「わかっているじゃないですか。いや、プレゼントについては申し訳ないと思って、前のものを上に、新しくいただいたものを下にして、二重にしましたよ。さすがルーフェスさんの見立てです。上の方だけ傷がつきましたが、これなら直してもらえます」

シェーヴェさんが散々持ち込んでいるらしいから、きっと大丈夫だ。


「そうじゃなくてですね。弾にしろ針にしろ危ないでしょう」

「あれ、ルーフェスさん。知りませんでしたっけ」

最近は常に巻いている首巻き部分を解いて素敵風呂敷を外す。


「その首のギラギラしたのはまさか」

以前王国の式典に着た制服じみた特殊素材の服。

立ち衿の内側に隠し切れていない細かい貴石が見えたらしい。

ジャケットを脱いでみせる。

「これはこれは」

アレクサンドルさんが驚き半分、呆れ半分の声をあげる。

カーライルさんが口笛を吹いた。


首から肩、上腕にかけて連なる悪趣味な程の貴石。

砕かれてちりばめられた輝き。

重さを軽減するために軽くて固い素材を繋ぎに使ってある。

なめらかなカーブをつけることで、アクセサリーと言い張れば十人中一人くらいは頷いてくれるような代物があらわになった。


そのしたで上半身全体を覆うのは、カイくんとお揃いの素材。

動く金庫開発過程で生まれた副産物、固くて通気性の悪いアンダーウエアだ。

もうボディアーマーのうえにくさび帷子をつけている気分である。


これはもう良いか。

喉輪なのか襟回しなのかわからない部分からはずし、アームレットになり損ねた肩当てもどきまでを取り去る。


「大門のところの係員の方がまだ軽装だな」

「どれだけ備えているんですか。というか、それ要りますか。重いし動きにくいでしょう」


一応衝撃に強いらしいこの世界特有の貴石を集めて仕上げられたこの装身具に、私はもう慣れてしまった。

エキゾチックという整理をした。

最初は精神的にも身体的にきつかった。




私は「シンプルで軽いアームレットをお願いします」とオーダーしたのだ。

ロキュさんの妹さんは上品な装飾品を作っていた。

「いざという時の品」をオーダーした時、私は妹さんのセンスに任せた。

このとき、私の「いざという時」と妹さんの「いざという時」のイメージは同じだったと思う。

私はプロに任せたつもりだった。

だからとくにその後、過程をたずねたりはしなかった。

素人が口を出して価値が下がったら元も子もない。

欲しいのはデザインではなく、いつ切り売りしてもその場をしのげる素材だ。


ところが、場所が悪かった。

街には愉快な獣人達がいっぱいだった。

妹さんはギャラリーと化した私の家や庭で製作していたが、気ままに出入りする獣人達が、気ままにコメントしていった。

そのちまっとしたのはなんだ、何の役に立つんだ。

そんなに大きく石を残したらすぐ壊れるぞ、これはこの角度に弱いんだ、等々。

最後は悪ノリしたチーター兄弟に唆されたらしい。

こうして妹さん混迷の逸品が出来上がった。

腕だけではなく肩も覆って、首までぐるりである。

原型は素肌に付けたりもするアクセサリーだったはずだが、こうなってくると衝撃が身体に伝わりすぎるし、余計怪我をする。

衝撃吸収型のアンダーウェア必須である。

もうどちらの「いざという時」にもコストに見合う効果は見込めない。


完成品を見て絶句した私だったが、本能が理性を押しやった。

作ってしまってから正気に戻ったアライグマの落ち込み様が愛おしくて、私の「大のお気に入り」ということになっている。

繊細なアライグマの洗脳がようやく効いてきたところなので街では外せない。

一応メリットがちょっとだけあって、姿勢が矯正される。

正しい姿勢でいないと肩凝り筋肉痛がひどくなるからだ。

 


銀髪オジサンが気軽に口にするのは正論だ。

「それで寝ていたら痛いだろう。服もそうだ」

いろいろ痛いのはそのせいもある。


「その過剰な備えは分かるとしても・・・」

くどくどくど。


未だに恨めしげな黒髪に説明を加える。

「私が撃たれなければ有利な交渉ができないでしょう」

相棒の人間に危害を与えられそうだった。だから獣人が警告した。それに対して、有無を言わさず護衛仲介組織が攻撃した。

守りに徹した人間と獣人だったが無抵抗な人間が集中攻撃された。人間は重体になった。

人間は実は大きな商いの話に来ていた中央の商人で、意識不明の間の逸失利益は相当額にのぼる。

さあどうしてくれる。


「こんなストーリーですから」


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