グリーンイグアナの決意
ギュッ、ギュッギュッ。ぎゅ。
ギースさんは今日も動く金庫を牽いてくれるらしく、強化ロープを結んでいる。
その光景には慣れたが、見上げるほどの水牛の背中に、引っ付いている緑のうろこが見慣れない。
朝日もだいぶ穏やかになって、気温もすこしは上がってきた。
みんなで朝食をとって、出発の準備ができ次第宿の表に集合である。
ギースさんの背中、肩から腰の辺りまでさらしのようにぐるぐる巻かれた分厚い布。そこからイグアナ獣人らしき頭と手だけが出ている。
どう見ても胴体と足は身動きできないはずだ。
ギースさんは厚手のシャツを着ているが、そのうえにイグアナがいて、イグアナのうえを分厚い布が覆っている。ものすごく変だ。
さらって来たわけではないらしく、イグアナ獣人はとても静かだ。
ギースさんの太い首にペタリと両手をつけている。
顔がこちらをむかないので、挨拶のタイミングも掴めない。
「ギースさん。背中の子はどうしたの」
「面倒は見る」
「・・・」
え、続きは。
寡黙といっても、もうちょっと喋ってもらわないと通じ合えないよ。
「グリーンイグアナの一族で、最も武闘派だった血族の最後の一人だそうです。この町の守りは大型のグリーンイグアナ達ですが、もうだいぶ平和で、守るついでに農業をするというより農業をする合間に守っている状態らしいですよ。特化型の需要が低く、歳の離れた兄弟は出稼ぎに行ってしまったと聞きました」
村長と宿のオーナーとの話し合いを終えたアレクサンドルさんから事情を聞く。
ギースさんが泊めてもらったお兄さんの後任となるべくこの町に留まっていたものの、肩身が狭いと悩んでいたらしい。
更には人見知りで、知らない人と接触する仕事に不安もあったらしい。
お兄さんのところで黙って立つギースさんと「通じ合って」、一緒に町を出て行こうと決意したという。
登場人物がろくに喋らないこの経緯を、何故アレクサンドルさんが知っているのか。
私は不思議に思ったが、アレクサンドルさん一行はみなコミュニケーション力の塊なのだった。
町のおしゃべり好きな人々と雑談したり、ギースさんやお兄さんに頷きをもらったりで、ストーリーができたらしい。
昨日の夜遅くに飲食店部分に現れた宿屋のオーナーを捕まえて簡単な説明をし、今朝朝一で町長を交えて町ぐるみの提携で話をまとめたアレクサンドルさん一行である。
この人達は活動時間が長すぎる。
一行のブラックな働き方はさておき、何故こんなに話がとんとん拍子に進んだかというと、相手が獣人だったからである。
オーナーのパンケーキリクガメは獣人らしい感性で我々全員を友好的と認識した。
英雄達の街のメンバーがいるということも効いたらしい。
きっと私の獣人愛が通じたのだ。




