パンケーキリクガメの宿
てきぱき、テキテキパキパキ。
パンケーキリクガメ達が元気に宿屋とその一階のカフェを行き来している。
店内は外の肌寒さが嘘のような暖かさで動きやすいのもあるだろう。
行動に合わせて平べったい甲羅を服の中で動かしているのがわかる。
私達動く金庫組は、暗くなる前に初日の目的地についた。
ここは初めて訪れる町だ。
ヘルマンリクガメのお姉さんによると、小柄な爬虫類と両生類が多いらしい。私でも数時間歩き続ければ抜けられる程の小規模な町に、獣人と人間が半々程度で仲良く暮らしているという。
全体的に小振りでかわいい町だ。
お姉さんに示された宿の入り口が胸元までの高さだったラスコーさんとギースさんは、「別の宿をとってくる」と出て行った。しかし、彼らが満足するサイズの宿は見つかるのだろうか。
カイくんは一旦私を降ろして、かがんで入口をくぐった。
今座っている椅子からもはみ出ているし、テーブルが窮屈そうだ。
ドミーくんもぎりぎりはみ出す身体を持て余しているが、カフェメニューの研究に余念がない。
ロキュさんは良いサイズ感だったが、のどかな町の様子をスケッチしに出て行った。
微妙にサイズがズレたバルドーさん一家も不思議を探しに同行した。
レイくんはジャストフィットな感じでテーブルと椅子を使いこなし、ドミーくんとともにメニューの制覇に挑んでいる。
小柄な従業員さんがそこここにいて、連携プレーで仕事をこなしている。
リクガメらしからぬ素早い動きで給仕したり、部屋の準備を進めたりしている。
従業員にとっては大きく、カイくん達にとっては小さい。
体格が平均的な人間にとってはちょうど良い。
つまりこの宿の主な客層は、中型獣人と人間なのだ。
入口の上部に、爪がよくわかるもふもふの手がかかった。
次いで黄色地に黒の斑点のある顔がのぞき、すぐに、するりひょろりと身体が入ってくる。
「お、さっきの」
「無事についたんだな」
「この温度が良いなら動き辛いよな」
「途中で活動停止しなくて良かった」
チーター兄弟が私達のテーブルに近付いてくる。
一緒に私達とお茶をしていた、ヘルマンリクガメのお姉さんと面識があるようだ。
「あのときはありがとうございました」
お姉さんがチーター兄弟に怯えることなくお礼を言った。
「交流があったんだ」
聞くと、私達が通りかかるだいぶ前に出会っていたらしい。
「ふらふらして、囮かと思ったぞ」
「野生動物が農作物と一緒に狙っていた」
「こっちとしては手間が省けてちょうど良かった」
「宿代と飯代には十分だ」
チーター兄弟は換金も終えていたらしい。
「私が気付いたときには終わっていたのでわかりませんでしたが、助けていただいたのは気配で分かりました」
お姉さんは農地の見回りをしていたという。
進んで来た道の両側に広がっていた農地は、町のみんなで大事に手入れをしている田畑らしい。
寒くなって来たので変温体質の獣人達の当番は今日まで。明日から暖かくなるまでは人間達にバトンタッチする。
冬眠前の野生動物達から農作物を守ろうと、お姉さんは最後にもう一度見回りに行った。
ところがひらけた農地は想定以上の寒さで、活動が鈍くなってしまった。
虎視眈々と農作物を狙う野生動物達が、より栄養が蓄えられそうで、より柔らかそうな獣人に目をつけて集まって来た。
そこへチーター兄弟が突撃したらしい。
「俺達みたいなのはここらじゃいないし、怖いだろ」
「一帯は綺麗にしといたから後は大丈夫だと思ったんだ」
「まさかオオカミとライオンと同じ空間で運ばれたとはな」
「コーに強要されたんだろう」
「災難だったな」
「悪気はないんだ、許してくれ」
お姉さん、怖かったのか。
バルドーさんとカイくんの反応はそういう意味もあったのか。
いえいえ、みなさんの構成は逆に安心しましたから。運んでもらえて本当に助かりました。
穏やかに言ってくれるお姉さんは、とても良い人だ。




