旅路
ざくざく、ざく、ざく。
カイくん、ロキュさんと私の乗る動く金庫は砂利道を順調に進んでいく。レイくんとラスコーさんが周りをのんびり歩いている。
開けた草地でピクニック風にサンドイッチを食べ、後はひたすらに今日の宿泊予定地を目指している。
今回の旅路は、辿る道と目的地こそ同じだが、それぞれが各地で用事を済ませながら進んでいく。
チーター兄弟は相変わらず道中で狩猟採集をしたり、不届き者を捕まえて、路銀を稼ぐらしい。
私には絶対にできない計画だ。
彼らはそれで一度も困ったことがないというから、たいしたものだ。
今日の宿はこの町、道はこの辺りを通る予定、と打ち合わせて分かれた。
それからは姿を見ていない。
姿は見ていないが一帯の危ないものは有機物も無機物も除去してくれているはずで、旅路の露払いである。
アレクサンドルさん一行は、無通知抜き打ち挨拶回りをするらしい。
きっと私が知っている挨拶回りじゃない。
手広くやっている人達なのでいろいろあるのだろう。
関わりたくない。
一行とも、宿泊予定地で落ち合うことになっている。
バルドーさん一家は、観光らしい。
普段は通り過ぎるところで何かを発見して行くという。
要はリュートくんとヒューイくんの学校の課題だ。
旅が多く、時々しか授業に出られない二人に合わせた課題だという。
曰く「身の回りの不思議をたくさん発見しましょう」。
私の回りは自分を含めて不思議だらけだが、そういうものではないのだろう。
一家とは追い付いたり追い抜いたりする。
採集物を動く金庫に乗せたりもしている。
護衛も気にしての距離感だろう。
今回は獣人達が広範囲を予めカバーしているので、バルドーさんは突然発生型の事態に備えているらしい。
何だろう、血気盛んなモグラとかかな。
ロキュさんは、ときどき外に出て行くがすぐ戻ってくる。
興味を惹かれたものや、もしかして、というものがあるらしい。
道中の町では風化した貝など掘り出し物を探すらしい。
ドミーくんは朝から張り切っていたので遅めのお昼寝だ。
カイくんは真面目に地図とにらめっこして、時折何かを書いている。
「カイくん、何を書いているの」
「次の町まで道が整備されている分、狙われやすい。前と様子が変わっている。農地が多くなった。小さい種族なら十分身を隠せる。帰り道は別にしよう」
「見渡す限り同じ感じだよ。違うシチュエーションを求めたら、大分遠回りじゃないかな」
「急ぐ旅ではないからな」
ええぇ。
まあ、風景が違ったほうが面白いかな。
「もう少し速めて良いか」
動く金庫を牽いてくれていたギースさんが言う。
寡黙な水牛獣人の重々しい声をひさびさに聞いた。
「良いですよ~」
今日の動く金庫は軽量化にエネルギーをすべて使って、移動には電気エネルギーを使っていない。
ギースさんが無言で動く金庫に牽引用の強化ロープをつけていたので、特に会話もなくそうなった。
ギースさんとのやり取りはこういうことが多い。
バルドーさんが近付いてきた。
気付いたカイくんが窓を下ろす。
「ちょっと耳」
バルドーさんがカイくんの耳にひそひそ話をする。
なんだろう。
カイくんが私を見て言う。
「通り過ぎましょう」
「わかった」
「ちょっと待って。通り過ぎちゃいけない気がする。私にも教えて」
私的第六感が働いた。
カイくんがため息をついた。
「ヘルマンリクガメの獣人がいる。気温が下がっているからか眠そうで危なっかしい」
バルドーさんが言う。
「乗せてあげる一択でしょ」
バルドーさんが言うということは、チーター兄弟もラスコーさんもレイくんも敵意無しと判断したということだ。さらにヒューイくんフィルターもスルーしたなら、万が一にも害意はない。一般獣人である。
道をふらふら歩いている私よりも小さいヘルマンリクガメのお姉さんが見えてきた。
スカートの裾が長いコートからのぞいている。
いきなりのギースさんよりは、と思って声をかける。
「こんにちはー。どこまでですかー。よろしければのっていきませんかー」
「下手なナンパだ。良いか二人とも。間違ってもあんな声のかけ方をするなよ。それからあんな声をかけられたら着いていったらダメだからな」
「わかっているよ」
「当然」
幸か不幸かバルドーさん一家の声が風に乗って聞こえて来る。
「やっぱりな。先が思いやられる」
カイくんが首を振っている。
ヘルマンリクガメのお姉さんの目的地と私達の今日のゴールは一緒だった。
遠慮するお姉さんを口八丁で同乗させた私は、コートからのぞく小柄な甲羅を触らせてもらったり、オススメの宿を教えてもらったりしてご機嫌だった。
パンケーキリクガメの一家が快適な宿屋を経営しているらしい。
パンケーキリクガメは、平べったくて比較的柔軟性のある甲羅をもつこれまた小柄な種族だ。
きっとカメ的に最適な、暖かい宿だろう。そこに泊まろう。
町に着いたらヘルマンリクガメのお姉さんが連れていってくれるという。
これは幸先が良いぞ。




