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動揺するコー

さんさん、さん。さんさん。

陽の光が燦々と降りそそぐサンルーム。

ドミーくんとレイくんが庭で寝転んでいるのを見ながら、フランクさんと遅い朝食をとっている。


思いのほか疲れと夜更かしが効いた私は、いつもよりだいぶ遅く起きた。

カイくんが部屋に迎えに来てくれたので一緒にサンルームに行く。

そうしたら、やあ、よく眠れたかな、とフランクさんが待っていてくれたのだ。


「ごめんなさい、到着に続いて朝まで遅らせてしまいました」

「良いんだよ。本当は今回の王国行きに付いて行きたかったんだ。それに比べれば今日一日のんびりしたって変わらないよ」

大変に穏やかで、気を許した体のフランクさんである。

カイくんは何でもないように平然として挨拶を交わすので、私もそれに倣う。


最近私はフランクさんとの距離感を測りかねている。

とてもよくしてくれるので、最初の頃は、預ける資産を増やし、フランクさんへの報酬額を増やすことで報いようとしていた。

ところがあるとき、この調子だと私の手に余るようになるのも近いのかな、と言われた。それでは意味がない。


最近は、何だか話に聞くおじいちゃんのような対応をされている気がする。昨夜、というか今日の対応にしてもそうだ。

私は血の繋がった親戚と資金援助以外の交流をしたことがないので、本当のところはよく分からない。

ただ、カイくんもドミーくんも他の獣人達も、フランクさんを身内と認識していることは明らかなので、私もカイくんやドミーくんの接し方を見てなんとか対応しているところがある。

とりあえず、砂漠や未開の森の珍しいものを、もっとフランクさんに持ってこよう。

ムズムズするので、こうしてまた結論は諦めることになる。

人間関係は難しい。



「今日は賑やかな厨房だったみたいだよ」

「ドミーくん、楽しみにしていましたからね」

グレープフルーツに似た味のジュースを飲みながらオムレツを食べる。

今日は一つのお皿に小さなオムレツが二つある。

一つがフランクさん邸の料理人によるもので、もう一つがドミーくんによるものだ。卵の固まり方と、中に入れるもののチョイスでどちらがドミーくん作かすぐ分かった。


「お客さんがいると、家のみなが張り切る。私ひとりだと張り合いがないだろうからね」

今朝は客人といっても人数が少ないので住み込みの獣人料理人一人で厨房を切り盛りする予定だったらしい。

そこへドミーくんがアシスタントに入ったという。


私が食べる様子をガラス越しに見ていたドミーくんに、美味しいよとジェスチャーして伝える。

朝からスパイシーなお肉が重い、とは表現しない。

レイくんにはちょうど良かっただろう。


レイくんは硬いクロサイボディが不思議なのか、ドミーくんを肉球やふさふさの手の甲でぽふぽふ、ぱふぱふしている。和む。

微笑ましいと思っていたら、ばこばこ、ドスドスになった。

ちょっとちょっと。

私なら打撲傷では済まない攻撃にも、ドミーくんはくすぐったそうにするだけである。


「ドミーくんは大したものだ。もうあんなに大きいことにも驚くが、あの手で料理をするとは思わなかったよ」

「街ではタマリン達の手を借りて、複雑な調理工程もこなします。鼻がいいですし、力もあるので、ひと味違う料理を作ってくれます」

「学校はどうするのかな。もう親について学ぶ選択肢はないように見受けられるけれど」

「そうなんですよね。もう少し年齢的に大きくなったら、王国の短期プログラムとそれから料理の師匠について学ぶのはどうかと思うのですが」

「ドミーは望まないんじゃないか」

カイくんが珍しく会話に入ってきた。


「ドミーが料理をするのは、その役割を担う存在が群れにいないからだ。バルドーさん達と店をやりたがったのは、群れが商いをしているとわかっていたからだ。群れを離れるくらいなら、ドミーは料理を手放すだろう」

「ああ、そうだったね。特にドミーくんにとってはそうだろうね。料理は家に来たときに厨房で学べば良いんじゃないかな。今日の様子だと言うまでもないと思うが、一応厨房の皆に言っておくよ」

「それに、クロサイ獣人は一部では人気だ。よくわからないまま生きた盾扱いをされたり、角を提供させられたりする。幼いクロサイが無防備に歩いていたら誘拐されて洗脳されるぞ」

反射的に、前世映像で見た、角を取られて血を流すクロサイを思い浮かべてしまった。

総毛立った。


「どうしよう。私のせいでドミーくんが目立っちゃった・・・」

カイくんにしがみつく。

ドミーくんが私の異変に気づいて中に入ろうとしている。

「リゾートの件なら大丈夫だよ。運営会社と納入業者の中に、この国寄りの共和国商人が何人か絡んでいる。多くは資金だけだが、彼らが恨みつらみを請け負ってくれるはずだ。それも込みで契約したからね」

「そんなにいるのですか」


信託会社はリゾート用地を運営会社に賃貸し、賃貸料を受け取り受益者に分配する。

リゾートの運営自体は運営会社が担っている。

設備、人員、消耗品、飲食料品等、そこには多くの取引が発生している。

これらの取引に私は絡んでいないので知らなかったが、議員から貿易商に転身した共和国人や、王国に根付いた共和国人等が大きく名前を出しているらしい。

「コーお嬢さんはかなり川上の方にいるからね。絶対的に恨まれないということは無理だけれども、まだまだアレクサンドルの方が嫌われているよ」


「コー、コー。どうしたのだ!」

ドミーくんが不器用な手で一生懸命サンルームの扉を開けて飛び込んできた。

「ドミーくん。ゴメンね。心配させたね。大丈夫だよ。ずっと一緒にいようね」

カイくんのふさふさした身体を左に、ドミーくんの固い皮膚を右に、私は身体をぐりぐり擦り付けた。

そうだった。大事なものは手放しちゃいけないのだ。

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