反省するコー
こぽ、こぽぽぽぽ。こぽり。
ジャケットを脱いだルーフェスさんが久々にサービスしてくれている。
ティーポットからカップへ紅茶を注いでくれる。
ただ、ティーポットのなかに茶葉は入っていない。
適切に淹れられた紅茶が入っている。
ルーフェスさんに紅茶を淹れるという繊細な作業はできない。
大人数になりすぎて、振る舞いもカオスな私達を、お店はほどほどに放置してくれた。
適当な時間で大きなティーポットを交換してくれるので、ルーフェスさんにお任せしている。
「この店、隙がないんですよね」
甘そうな色合いのカクテルを飲み続けるアレクサンドルさんが、串焼きを解体しながら言う。
「道楽に巻き込むのはやめてくださいよ。街のみんなのお気に入りなんですから」
お腹いっぱいな私は、ソファーに眠るドミーくんの横にカイくんと一緒に撤退している。
ロキュさんがこくりこくりしながらもサイコロステーキを食べ続けている。
私が旅に誘ってしまったので、寝食をそっちのけで絵を描いていたらしい。消化が心配だ。
「静かになってきましたが、そろそろ出たほうがよいのでは」
ざわめきがだいぶ小さい。
メニューにある串焼きを上から下まで食べ、二周目に入ったレイくんとギースさんはさておき、他の面々はさすがに満腹に近いだろう。
「さっきヒポテの親父がいたから、親父を通じてオーナーに言っといたぞ」
「このままで良ければここに泊まって良いってよ」
ちょくちょく常連達の気配を察知しては挨拶に出て行っていたチーター兄弟が言う。
「俺達は失礼する」
カイくんが断言した。
私もちょっとここでは目覚めたくない。
覚醒して一番に認識するのはアルコールと油のひどい匂いだろう。
「カッカッカッ。だろうと思ってうちの人間が、すぐそこのテーブルに待機している。飲んだくれた俺や安心感がないルーフェスじゃあ、オオカミのお眼鏡にかなわないだろうからな」
カーライルさんはまだまだ飲み続けそうだ。
この人達は年齢に負けないのだろうか。
「今日この場には、強い獣人が十分にいますからね。こんなに安心して飲み明かせる機会など初めてですよ」
アレクサンドルさんが私の白い目に応えてくれた。
「若いときにやりたい放題やったんじゃないんですか」
「若いときは商売の基盤を作るのに必死でしたからね。コーさんはそうだったんですか?」
「愚問でした」
青春を取り戻してください。
「嬢ちゃん。物騒な金属の件はライオン達がやるだろう。他にもなにかあるなら先に言っといてくれよ」
カイくんと、夕寝から目覚めて再び元気いっぱいになったドミーくんに挟まれた私にカーライルさんが声をかけた。
仕切りを出ると、三人ものおじさんに囲まれた。
何度か会ったことのあるカーライルさん指揮下の人達だ。
「ものものしくありませんか。余計目立ちますよ」
レイくんがラスコーさんにテーブルから引き剥がされている。
ラスコーさんは残り、レイくんは一緒に来てくれるようだ。
ギースさんはまだまだ食べていて、ロキュさんはとうとう寝落ちしていた。
「目立たせているんだよ。白オオカミとクロサイと嬢ちゃんの組み合わせだぞ。どっちみち目立つ。だったら、厳重なことを目立たせたほうが良い。まあ、ちっとは自覚してくれ」
カーライルさんの発言に合わせて、碧眼と黒眼がちらりとこちらを見た。
どうやら酔いを緩衝材にして、嗜められたらしい。
おとなしくカイくんに抱えられて、素敵風呂敷を被る。
夜行性の獣人達と彼ら向けの営業をしている店の前を通って、護衛のおじさま達、ドミーくん、レイくん、カイくんとフランクさん邸を目指す。
もう日は変わっているが、小型のフクロウやコウモリ、ネコの獣人達がイキイキしていて、眼が冴えてくる。
静かなエリアに入り、街灯だけの明かりとなった住宅街。
一つだけ玄関ホール部分から明かりが漏れているのが目的地だった。
「心配したよ。街に電話もした。アレクサンドルのところに聞いて、護衛達が普通に出て行っていたと聞いたから、ライオン達に依頼はしなかったんだよ」
お帰りなさいませ。
通いのはずの顔見知りのメイドさんが迎えてくれて、外出着のままのフランクさんが玄関まで出て来てくれたとき、私は心から反省した。




