商人と画家
コキュコキュ。こきゅり。
カイくんパパが際限なくお土産を買ってくるフラミンゴ獣人のお店。その新商品である柑橘類のフレーバードティを冷やして出したところ、興奮して鉱物に取り付いていたロキュさんは美味しそうに飲んでくれた。
ある程度見て落ち着いたらしい。
机に誘うと、アレクサンドルさんと私の間に座ってくれた。
ドミーくんはまだ、ロキュさんに教えてもらった石の名前や輝きのありかを、座り込んで復習している。
「作品集を見せてもらえますか」
ロキュさん自身も画家だという。
それならばと聞いてみたところ、ロキュさんは手のひらサイズのアライグマ獣人の絵を見せてくれた。
天然岩絵の具の素材が活きた、現実の情景に溶け込む写実的な作品である。妹さんの肖像画だという。
やや硬質な輝きをまとった毛並みが美しい。
癖のない筆で、獣人の気高さを写し取っている。
素晴らしい。
アレクサンドルさんによると、ロキュさんのお父さんが号単価でオオカミペンの中級品くらい、ロキュさん自身がその半分位だという。換算すると、私の主食小袋で三百袋分と百五十袋分位だ。
号と言って自動翻訳が働いて、アレクサンドルさんがアライグマ獣人の絵に目をやったので、サイズ感覚はそうずれていないと思う。
この世界でも絵画の一次市場は、画家のキャリアによる単価と作品の大きさがベースとなるらしい。
現役の画家が最初に作品を世に出すいわゆる一次市場は、高額売買が話題となるオークションなどの二次市場とは異なる。ざっくりいえば、この画家なら号いくらで、何号だからこの価格、と決まる。
美術年鑑のようなものがあるわけではないが、中央在住の画家は多くないためアレクサンドルさんの頭の中にも感覚で入っていたらしい。
「この手のことはルーフェスが向いているんですけれどね」
「商人さんに覚えてもらって・・・。ありがたいことで・・・」
隣でこんな不躾な話をしても、ロキュさんは逆に嬉しそうだ。
慣れてきたのか、会話が滑らかになってきた。
「やっと・・・、ここまで。好きなことでどうにか・・・、生活できるようになって」
ときに肖像画の仕事も受けるという。
ドミーくんとも相性が良さそうだし、写実的な作風も私好みだ。
「群れを持つことになったんです。記念の絵を描いてもらえませんか。岩絵の具の材料はこちらで取れるものはできるだけ用意します。こちらで制作いただけるなら、衣食住もご提供します」
カイくんの白銀の毛並みも、今のドミーくんの愛らしいフォルムも、残しておきたい。
「そ、それはおめでとうございます。衣食住を保証してもらえる、なら・・・、お金より、絵の具の材料を余分に・・・もらえませんか」
「わかりました。問題ありません。ところで白銀のオオカミを描くための材料は何が必要ですか。最善のものを用意します」
そうですか、それは街では手に入りませんね。ではアレクサンドルさん、手配をよろしくお願いします。ロキュさんはしばらく街駐在ということで。
しれっとまとめようとしたら、やはり止められた。
「ロキュさんは我が商会の画家ですからね。商会を通してくださいよ」
アレクサンドルさんである。
「良かったですね、ロキュさん。試験雇用は正式雇用になりそうですよ」
「商会の、画家・・・」
にっこり笑いかけると、つぶらな目に喜色を浮かべたアライグマが椅子の上でぴゃっと四肢としっぽを広げた。すごいサービスショットだ。
「きつねとたぬきか。ああ、いやロキュじゃないぞ」
カーライルさんが何か言っている。
「ロキュさん。アクセサリーやちょっとした防具の機能を付けたデザイン、できませんか」
アレクサンドルさんが聞く。
「妹がデザインして、弟が加工を・・・」
ベルトのバックルを指したあと、肩から掛けていた鞄からアクセサリー類を出す。
どれも繊細で、優美な曲線が印象的だ。
土台は金かプラチナにすれば、毛並みの間にのぞいても、素敵だし、いざというときも役に立つだろう。
「いいですね。一人ひとりのオーダーを聞いて仕上げてもらえますか」
「では、決まりですね。ロキュさん兄妹に出張して来てもらいます。見積りはデッサンを見てからということで」
ロキュさんが目を回しそうになっている。
「聞き逃すところだったが嬢ちゃん。なんだ群れって」
しばらく黙っていたカーライルさんが口を開いた。
「カイくんと、ドミーくんと一緒です。獣人的には、アレクサンドルさんとカーライルさん、ルーフェスさんも準構成員らしいですよ」
別に街から独立するわけではありませんからご心配なさらず。
ただ、そのことで、ご相談があるんです。
原石を抱えてうとうとし出したドミーくんを見ながら、私は灰色の目を見上げた。
 




