テストとアスカと嫌な予感
今日は短いのでもう一話投稿します。続けて読みたい方はもう少し時間がたってから確認してください。
最近仕事ばかりであったリクではあるが、当然のごとく高校生であるからして、本分は学業である。
魔法のある世界のおける高校生というのは、前述のとおり仕事をしながら働いているものが多い。中学を卒業した段階で魔法能力は大人とそん色がないレベルに達していることが多いため、その時点で魔法の取り扱いにおける法的責任が発生する。
一方で、いくつかの労働基準法の制限が緩むのだ。
就労と言っても魔法の利用により、地球より楽な労働が多い。また、魔法能力の向上のため、積極的に高度な魔法技術が求められ、お金がもらえる就労につきたがる学生も多いのだ。
そのような背景から、リクが仕事で忙しいというのは実のところあまり目立っていない。
閑話休題。話を学業の話に戻そうと思う。
リクにとっては珍しく、今日はサポート用の人造魂魄であるミアに対応を丸投げ(文字通り身体の操作権を、一部を除き明け渡している状態)することもなく、まじめに授業に取り組んでいた。
しかし、それには当然のごとく理由があってのことだった。今日は高校最初の中間テストなのである。
完全記憶を持っており、300回の転生を繰り返してきたリクにとって、高校で習う範囲の知識などわざわざ復習するまでもないので、本来ならミアに丸投げしたいところである。しかし、テストとなるとそうもいかないのだ。
理由は単純に『不正防止』のために、簡易の思念波チェック装置(カンニング等をしようとした際に発する思念波の感知に特化した装置)が導入されているためだ。これがあるために周囲に感づかれるリスクを減らすために、自分で対応をしなくてはならないのだ。
実のところ魔法のある世界では『魔法』より『学力』というものを重視していることが多い。もっと正確に言うと、『学力』を通じて、生徒がどれだけまじめか、むしろ不真面目なのか。それをみているのだ。
『学力』を通して、生徒の勤勉さをはかっているのには大きく2つの理由がある。
1つ目は『魔道具』の発達により高度な魔法技術が必要な職業は減りつつあり、むしろ専門的な知識が重視されるようになっていること。
そしてもう1つは、生徒の人柄をみること、である。
人柄と言われてもピンと来ないかもしれないが、ここは個人がすべからく『魔法』という武力を持つ世界である。いってしまえば、子供の内から全員が銃を携帯している社会。
そんな社会において、個人の人となりが重視されるのは当然である。(ゆえにテストの点数より、学力がどの程度上がったか、どれだけ高得点が維持できているか、などの要素の方が重視される)
しかし、リクやその他の生徒にとってテストがすべからく嫌がられることは古今東西、どこの世界においても変わることは無く・・・
「そこまで!後ろから回収してこい」
「やっと、テスト終わったー」
「・・・終わった・・・別の意味で・・・」
「うわー、全然解けなかった」
「おい、まだ終わってないぞ。騒ぐのは回収が終わってからにしろー」
テストから解放された途端生徒たちが一喜一憂しながら騒ぎ出すのもまた、変わらないことである。
(やっと終わったか。何度経験してもテストというのは疲れるね)
(疲れるだけなのですから、周囲の人たちよりよほどましというものでしょう)
(ま、ね)
今日ですべてのテストが終わり、テスト期間であるため、この後の授業もなくいつもより早い13時半で上がれるのはリクにとってかなりありがたいことだった。
先月仕事を入れすぎたため、お金もあり、今日は仕事もない。これからの時間は、まさに理想的な休息である。
しかし、筆記用具を片付け、さっさと帰る準備をしていたリクの前に思わぬ伏兵が現れた。リア充のタケルである。
「げっ」
「げっ、とはしつれいだな、リク。お前今日暇だよな?」
「暇じゃない」
「あきらめた方がいいよ~。裏は取れているし」
そう言いながら、同じクラスのミクまでもがにやにやと笑いながらリクの進行方向に立ちふさがった。彼女の父は労働基準監督署の職員でリクとも知り合いなのだ。
無論、リクが霊視官補佐であるという個人情報を自分の子供に漏らすとは思えないが(問答無用で高位霊視能力者保護法違反(通称名)でクビになる)、自分の仕事の日程ぐらいは漏れていてもおかしくない。
と、いうか働きすぎを心配してくれるような人の好いおっちゃんなので、下手すると娘に「気にかけてやってくれ」くらいは言っていてもおかしくない。
そこまで想像して舌打ちをしたくなったリクだったが、ミクの父の性格を考えると善意であることは間違いないので、本当に舌打ちするわけにもいかない。
しかし、自分の仕事のスケジュールが知られていたぐらいで、久しぶりの落ち着いた時間を諦めるほどリクはやわではなかった。
「そんなことは無い。最近忙しかったから家事がたまっているんだ。んじゃまたな」
「そこをなんとか曲げて、うちの部に協力してくれないか。リク君」
(マジか・・・)
リクは自身の背後からの新しい声が会話に入ってきた時点で、自分の敗北を悟った。そして、なかば諦めながらも最後の抵抗、とでもいうように、ゆっくりと後ろを振り返った。
「アスカ先生・・・」
そこには校内一の魔法の実力と名高い、希少な『火』の魔法の使い手でもある、魔法実技教師のアスカがいるのであった。
後数話でチートらしいチートが出て主人公が主人公します。
設定を細かくしすぎてこの話にいくまでこれほど時間がかかるとは思わなかった・・・