捕縛
「暇ね・・・」
重要な作戦中だというのにヒカルはただ祭壇の中でくつろいでいるリクを眺めながらつぶやいた。
「おい。少しは気合入れろよ」
「アンタにだけは言われたくないわね」
ヒカルはリクの護衛(という名の組合で待機)をしながら詰まらなさそうにしていた。
当のリクはポテトチップスを食べながら、本を読み、時折魔道情報端末から、発見した悪人の位置情報を組合の実働部隊とその協力者たちにメールを送っている。こんなリクの姿を見せつけられれば気もぬけるというものだ。
「仕方がないだろ。いざというときに機動力と制圧能力のあるヒカルが、組合で俺の護衛をしつつ、最悪の場合即座に出動、応援にまわるのが一番合理的なのだから」
そうヒカルの戦闘能力はともかく、機動力だけならキリクもリクもかなわないレベルまで達している。その戦闘能力もごろつきレベルなら瞬殺できるレベルだ。
もちろん、ヒカルを実働部隊に、という話もあったのだが、市民の安全を考えた結果、こういう体制になっている。また、そもそも敵の実働部隊もプロが多く、自身の情報をほぼ全て握られていると匂わせば、それだけで勘のいい有能なプロならすぐに手を引く。
故に、ある程度の馬鹿どもを見せしめにとらえること以外、組合もする気はない。と、いうか、情報戦では圧倒的に勝っているし、防衛戦なら手慣れている組合も、攻勢に出るのは苦手だ。その為人員が足りないこともあり、無理をせず、あえて一部の面倒なプロは逃がしているのだ。
作戦の第二段階で重要なのはあくまで、市民や味方への被害を抑えること。無理に戦う必要もないのだ。
ヒカルもそれはわかっている。わかっているが幻影符を持つ馬鹿どもを捕まえ始めてから5日間、ずっと暇なのだ。それに当のリクが、ただ『祭壇』にいるだけで、やっていることが本当に暇つぶしなのだ。
さすがのリクもヒカルの視線に居心地が悪くなったのか弁明をする。
「おい、俺はちゃんと仕事しているぞ。見ろよ、この馬鹿どもの摘発数。通常時の8倍だぜ?8倍。このほとんどが俺の霊視で捕まっているんだからな?」
「わかっていても納得できるかどうかは別なのよ」
ヒカルがそっぽを向きながらそう言うのでリクが言い返そうとしたとき、『祭壇』のある部屋の扉が開いた。
「ツカサさん。どうです首尾は?」
「順調・・・ですが、リク。いくら仕事ができるからとはいえ、『祭壇』の中でその態度はいかがなものかと思いますが・・・」
ツカサもリクに対して呆れたような視線を向けた。
「そう言われましても・・・久しぶりのまとまった自由な時間なのですから、好きに過ごしてもいいかと思うのですけれど」
「『祭壇』を使用中に、余暇を過ごすとは・・・」
「ですよね」
ヒカルは我が意を得たりと言わんばかりに、ツカサに向かって同意する。リクは形勢が悪くなったことを察知して、話題を変えることにした。
「それで?ツカサさん、どうしたのですか?」
「え?ああ・・・リク、大概の馬鹿どもの捕縛は終わりましたね?」
「ええ、あとは組合の動きをようやく理解して、隠れ始めた小物ばかりですね」
「ならばこれ以上、リクが監視をする必要はないでしょう。まあ、最初の私の心配をよそに、これだけ簡単に『祭壇』を使用できるのなら定期的に使用して馬鹿どもを捕まえてほしいところですが・・・流石に許可が下りないでしょうしね」
「いや、そこは残念そうに言わないでくださいよ」
「しかし、これだけ正確に、広範囲の馬鹿どもだけを補足できるとなると、本格的に『祭壇』の定期的な使用を許可したいレベルですよ」
「それ、もはや『許可』ではなく、『強制』ですよね?まあ、了解です。そろそろ暇になってきたところですし、次の段階に移りましょうか。といっても・・・」
「ええ、ここから先は相手がどう動くか。それによって大きく違いますからね。まあ、もはや目標は達成したといってもいいレベルではありますが、これで黙るような相手なら、元々組合に喧嘩は売らないでしょうしね」
「ですね・・・あとは情報戦を仕掛けていって、いつむこうが動き出すか、といったところですね」
「ああ、カイルとミスズのところですか。すでに連絡はしてあるのですか?」
ツカサは自身の古い知り合いでもある2人の名前を出した。
「ええ、そろそろ大丈夫だと連絡はしています。まあ基本的にはカイルさんに任しますがね。どの程度動くかは」
「なるほど・・・了解です。では組合の部隊をいったん引かせましょう。キリクさんにはリクの方から連絡をお願いします」
「了解です」
リクはそう言うと『祭壇』から降りた。
相手の資金源は断った。馬鹿どもの動きは封じた。情報戦でもこちらが優勢。そんな中で敵がいつこちらに接触してくるか、あるいは暴発するのか。どちらにしても組合は押されていた形勢を、五分以上に持ち直すのであった。




