『知』を司るということ ヒカルの成長
リクは全世界の情報技術にたいして圧倒的なアドバンテージを1つ、持っている。それは『知』の人造魂魄であるミオの存在だ。
この世界ではない別の世界では、魔法により電波通信を妨害、あるいは感知、場合によっては傍受することができるところまで技術が発達しているところが複数ある。
当然、それには大掛かりな機械や、知識、魔道具の類が必要だ。使うには専用の技術者、金、権力の類が必要でおいそれと一般人が手を出せるものではない。
しかし、様々な世界の技術を知るリクが、知りうる限り全ての技術を組み合わせて開発した『知』の人造魂魄である、ミオ。彼女の能力はその一切を凌駕する。つまり、彼女は単体で通信情報の傍受、妨害、暗号解読を行うことができるのだ。
ミオが司るのは『知』――ありとあらゆる情報を彼女は収集し、精査、必要な情報のみを選別することを可能とする。それはこの世界でも用いられている、電波通信や魔道具による通信も例外ではない。
基本的にリクの許可が無ければその機能はリクの周囲における、リクの安全にかかわる情報のみを収集することに特化されるが、今回のような時ならば話は別だ。
そう、リクは組合で仕事をする振りをして、ミオに延々と情報の収集をさせていたのだ。通常、外部でミオにここまで派手な情報収集をさせることは無い。というか、技術流出防止のためにもできない。
しかし、鉄壁の守りをほこる組合内部でなら別だ。
思念波遮断室。
それは元々、研究目的のために周囲の思念波の影響を極力減らすために開発されたものだ。組合では高位霊視能力者たちの保護の観点からも、ほぼ全ての部屋に思念波遮断の施工がなされている。そして、組合の研究室における思念波遮断効率は最大レベル。外部の思念波が内部の人間や物質に影響することはほとんどない。
逆に言えば、内部でどんな魔法を使おうと、外部の人間に察知されないということだ。そして、この部屋は電磁遮蔽されているわけではないので外部電波を受信できる。
後は簡単だ。魔法を使用し、通信電波を探知。ミオに頼んで情報を記録、解析し、師匠であるレイジや、訓練時代に得た個人的な伝手で資料を集めてもらえばいい。
リクが行ったことはこれだけだ。
しかし、こんなとんでもない技術をよそに漏らすわけには絶対に行かない。本来ならプランの計画の説明などせず、キリクの言う通りリクは自分1人で片を付けたかった。
実のところそれは可能だ。時間をかければ確実に敵を封殺できただろう。しかし、それでは周囲に与えるリク自身の印象が悪くなる。というか、文字通り化け物扱いされる。だからこそ、リクは信用のおける人間にのみ、一部の能力を明かすことにしたのだ。そちらの方がリスクを小さくできると判断して。
そして、それは少なくとも間違いではなかった。
「・・・・・わかりました。これ以上何を言ってもあなたは何も話さない。そうですね、リク」
「はい」
ツカサの言葉にリクは即答した。
「ならばこれ以上話すことは無いでしょう。作戦の方も、私の知りうる限りの情報から判断しても問題ない、そう判断します」
「ありがとうございます」
それは事実上の実行許可だ。組合の代表としてツカサはリクの作戦を認可した。そう言うことだ。
実のところツカサの地位はかなり高い。組合の組織構成としては、第一級霊視官が支部長クラス以上の権限を持ち、第二級霊視官は支部長と同等の権限を持つ。基本的に実力主義だ。
自身の言葉でしか霊視した結果を伝えられなかったかつての霊視官たちが、自身の霊視結果を権力によって捻じ曲げられないようにした結果が、今の組織体制である。
だからこそ、リクにも先達である第一級霊視官たちから常識的にはありえないテストを受けさせられているのだ。
ゆえに、ツカサの発言の意味は重い。現時点では表向きは第一級霊視官として認められていても、組合の内部では第一級霊視官として認められていないことが暗黙の了解となっているリクより、ツカサの立場は上なのだ。
しかし、ツカサの言葉はそれだけでは終わらなかった。
「ただし、リク。これ以上不用意に自分の持つ情報を開示することは、例え相手が誰であっても、禁じます。どうやって調査したのかは知りませんし、もう問いません。しかし、あなたのその情報収集能力はこれ以上人に明かしてはいけない。いいですね、リク」
「それは第二級霊視官としての命令ですか?」
「いいえ。私個人からの要請です。あなたはこの作戦を滞りなく成功させるでしょう」
「まだ油断は禁物だと思いますが」
「いいえ。私の霊視で判断する限り、あなたには慢心もなければ油断もない。そしてこの情報量をもってして、私の知るリクが失敗するなどありえない」
「・・・過分な評価、ありがとうございます」
「だからこそ、将来的に第一級霊視官になることが確実のあなたに、第二級霊視官である私が命令をしても、意味はないでしょう。故にこれは私個人としての要請です。
リク。あなたがその情報収取能力について疑念を持たれたら、私の名前を出して誤魔化しても構いません。なんとしてでも隠しなさい。自身のみを守るためにも」
リクは改めて、ツカサがリク自身のことをどう思っているのか。その判断を上方修正した。
ツカサは、いや、ツカサだけでなく、ヒカル、キリク、ジン、そしておそらくそれ以外の人たちも自分のことを気にかけてくれている。こんなに周囲の人間関係に恵まれている人生はまれだ。だからこそ、リクはツカサの要請を聞くわけにはいかなかった。
「お断ります。『個人としての要請』なんて言われたら、余計にそんな要請は受け入れられませんよ、ツカサさん。お気持ちだけ、受け取っておきます」
リクは苦笑しながら言った。
「・・・・そう言えばそうでした。今日はリクの本心が聞けて、少し動揺していました。リクはリク・・・・アナタはそういう子・・ですものね。第二級霊視官であるというのに、失敗です。別の手段を用いてなんとしてでもあなたに了承させるべきでした」
「大丈夫ですよ。俺はそれほどやわじゃない」
「安心してください。ツカサさん。こいつが暴走しそうになったら殴ってでも止めます。今は無理でも、必ずそれだけの実力をつけてみせますから」
「へっ?」
リクは珍しく驚いて自分の隣を見た。そこにはヒカルが笑いながら立っていた。
「何を驚いているのよ?私はアンタが選んだ護衛でしょ?」
「いや・・・そうだけど。ヒカル、お前ってスッゲーな」
リクは本心からそう思った。
たいていの世界では実力を見せつければ見せつけるほど、リクからは人が離れていった。もちろん、ハイエナのように利権や金目当てに群がってくる馬鹿どもはいたが、本心からリクについてこようとする、それどころかリクを超えようとする人はいなかった。
リクは確かにヒカルのことを信用はしている。心配もする。でもそれは、自分の平穏な日常を守るため、作戦上の不安要素を消すためであり、どうせいずれ離れていくだろうと心を開かないようにしている。リクにはそういう部分が心のどこかにあった。
そして、それは誰に対しても同じだ。リクは最後の最後で人のことを信頼はしない。信頼すると辛くなる。だから最終的には自分のみは自分で守るつもりだったし、手数が増えた。その程度にしかヒカルのことを考えていない、いや、考えないようにしてきた。
しかし、霊視をするまでもない。目を見ればヒカルが本気であることがわかる。リクは呆れながらも、少し嬉しそうにヒカルに言った。
「ま、いい。役に立たなければ置いていく。いいな?ヒカル」
「誰にモノ言っているのよ」
「つい最近まで焦りまくって、計画の不安要素でしかなかったヒカルにだけれど?」
「ぐっ!そ、そんなことは・・・あるけど」
「はっはっはっは。ヒカル、お前って訓練の時から思っていたけれど、変なところで律儀だよな」
いきなり笑いながらジンが言った。
「べ、別にいいじゃないですか!悪いことじゃないし」
「ふむ。これは搦め手を使う敵に対する戦い方も早めに教えるべきかの」
「ぜひ、お願いします。キリクさん。リクの護衛役として、ヒカルさんはまだまだ危なっかしいので」
「ツカサさんまで・・・」
気が付けば、先ほどまでの重たい空気はなくなり、会議室には笑い声が響くのであった。




