リクの新しい挑戦
初めの構想ではこんな話を書く予定はなかったのだけれどなぁ・・・
プロット通り登場人物が動かないので諦めて好きなように動かしていたらこんなことに・・・
今日の話はかなり長いので(三日分以上あるので)明日の話はお休みさせていただきます。
このペースで投稿すると悲惨な目に合うので・・・
「それで?」
「ん?なんだ?」
「なんだじゃないわよ。なんで2、3日の間に動くからそれまでまっていろ、とか言っていたくせに向かう先がカナデ先輩の自宅なのよ?」
カナデの家に向かう魔道タクシーの中、ヒカルはリクに不満をぶちまけた。ただでさえ何もしていない(ように見える)リクの行動に不信感を抱いているのに、そんな中でいきなり組合に向かうでもなく、カナデの家に行くとリクが言ったのだ。
カナデ。彼女はリクと一緒にキサラギ祭のミュージックフェスで共演した仲だ。クラス会長のシズクを通して、リクに部活の見学に来てほしいという話は確かに来ていたが、いきなり自宅に向かうのは全く別の話だろう。
それもあって、ヒカルはわかりやすく怒っていた。
組合に対して不穏な動きをしている馬鹿どもを抑えるのが目的のはずだったのに、気が付けばリクの音楽友達(?)であるカナデの自宅に向かう羽目になったのだからそれも当然といえる。
しかし、これはリクの説明が足りていないだけだ。そもそも、今回のカナデの家への訪問は先輩霊視官であるツカサの紹介がきっかけだ。
「なにを怒っているのか知らないけど、これは立派な組合の仕事だよ」
「どこがよ!」
「ヒカルは芸術の理解が乏しいから知らないかもしれないけれど、彼女の両親は音楽界の重鎮だ。その重鎮と伝手ができるというのはかなり大きなことだからね。脳筋のヒカルにはわからないかもしれないけどこれも政治の一つ。情報戦というやつだよ。
それにカナデ先輩のご両親のことを紹介してくれたのはツカサさん。それだけ信用が置けて、強力な知り合いということだよ」
「誰が脳筋よ!誰が・・・」
ヒカルはそう言いながらも、ツカサの紹介という言葉もあり、また、リクの前で音楽が得意とか、芸術に詳しいとかいうわけにもいかず(考えてみれば当たり前のことである)、反抗の声もだんだんと小さくなっていった。
リクとヒカルは今、タクシーで移動中である。遮音障壁を展開しているので、運転手や外部の人間に話が漏れることは無い。
霊視官や、ある程度身分のある人間が遮音障壁の魔道具で結界を展開するのはごく普通のことだが、見た目は普通の高校生であるリクとヒカルが遮音障壁を展開していることに、運転手は訝しげだった。
しかし、リクはともかく最近ではヒカルも多少耐性が付いたらしく、運転手に変な目を向けられながらも2人は延々と話し続け、目的地であるカナデの家に着いた。
2人はさっさとタクシーから降り、その後ヒカルは呆然とカナデの家を眺めていた。
「大きいわね・・・」
「そうか?ヒカルの家よりは小さいと思うけど?」
「私の家は改修しているとはいえ、古いし、ただ歴史が長いだけだから。新築で、ここらの一等地でこの敷地の広さ。カナデ先輩の家ってお金持ちだったのね」
「ま、そんなことはいいからさっさと入ろう」
リクは慣れたもので、すぐに呼び鈴を鳴らした。
実のところ転生の過程で大きい家に見慣れていただけだが、あまりにもリクは自然に驚いた様子も見せずにチャイムを押したので、ヒカルは若干不審そうな視線を向けた。
しかしリクは当然気にしなかった。
ピンポーン。チャイムの音から数秒後、カナデ先輩とその両親らしき夫婦が顔を見せた。
「初めまして。私の霊視官としての先輩であるツカサと、それにカナデ先輩の方には私の学校の先輩であるアヤメの方から連絡がいっていると思いますが、本日うかがう予定だった霊視官のリクと申します」
「護衛のヒカルです」
「これはどうもご丁寧にカナデの父のカイルです」
「同じく母のミスズです」
「リク君。来てくれてありがとう。ヒカルちゃんも元気みたいだね。ほらお母さんもお父さんも早く。玄関じゃなくて中で話しましょうよ」
「はいはい。それでは二人とも、どうぞ中に入ってくださいな」
ミスズがリクとヒカルに促した。一見優しそうに見えるミスズとカイルだが、二人とも一流の音楽家が持つ自信と、それによる余裕がうかがえる。
それにカイルは外国の血が混ざっているのであろう、少し色白で堀が深い顔立ちである。ミスズもそうだが、二人ともかなり美形だ。これはさすがカナデの両親、といったところである。
顔がいい、というよりは、自分の技術に対する自信が、音楽家としてのプライドが、二人に良い表情をさせていて、それがより美しさを際立たせている。そんな感じだ。
(さすがツカサさんの知り合いだな)
今日、リクが霊視官であるということを隠そうともしなかったのは、霊視官のリクとして用事があったから、というのもあるが、一番はカイルとミスズが組合の外部協力員でツカサの知り合いだからだ。
組合の外部協力員というのは文字通りの意味で、組合の活動に賛成ですよ。支援は惜しみませんよ。そんな風に公言して、組合に対して好意的に活動している人たちのことだ。
組合に協力的な広報員や政治家の役割を果たす人たちともいえる。
外部協力員になれば組合からのバックアップ儲けられるが、よほどの実力がないと組合の(というか仲のいい霊視官の)弱点になりかねないし、かつ、人柄がよくないと外部協力員に認められることもないので、めったになれるものではない。
無論組合側も、協力してくれる見返りにいくつかの支援をしている。カイルやミスズの場合だと、一流の霊医による霊体の定期検査、および身体検査。それに、組合の人脈を用いた各種支援と使うギターの調整など、様々な支援をカイルたちにしている。
以前に述べた通り、この世界のギターは魔法を行使しながら弾くので調律には専門の訓練を受けた霊視官が必要になる。
また、受けられる支援以上に、組合に認められる。そのことだけでこの世界では、自分達に後ろ暗いことは一切ありません。そう証明しているのと同じだ。後ろ暗いことがある人ほど霊視官との接触を避けるのだ。
これは人気商売の音楽家たちにとってかなり大きな利点だ。
しかし一方で外部協力員になるということは、権力にしろ、金にしろ、今回の場合は音楽家としての地位にしろ、なにかしら強みがないと一瞬で周囲のハイエナのように群がってくる悪意ある人々に食いつぶされて終わる。
そのことからも外部協力員かつ、いまだに音楽家としての活動を続けている。それだけで二人の実力がどれだけ高いかがわかる。
「さて、と。一応話はツカサさんから聞いているよ。なかなか厄介なことになっているらしいね」
カイルがリビングのソファーに座ると、リクとヒカルにも席に着くよう促した後話始めた。当然のごとく、カイルはツカサや様々な情報源から話を聞いて組合が置かれている状況を知っていた。
リクもそれを承知の上で無駄なことを言うつもりはなかった。それぐらいでなければ外部協力員などやってられないだろうし、その程度の実力が無ければ協力を要請する意味がない。
「ええ、まあ。知っていると思うので説明は省きますが、かなり厄介なことになっています。なので協力を頼みたいと思いまして」
「協力・・・ね。みての通り私は『ただの』ではないつもりだが、1人の音楽家に過ぎない。なにを求めているのか知らないが、できることはあまりないと思うがね」
「もちろん。しかし、カイルさん。あなたが音楽業界に強い力を持っていることも、また確かなはずです」
「ふむ・・・否定はしない。否定はしないが、それならツカサさんに頼んだ方がいいと思うがね。彼女の音楽業界における力は絶大だ」
「それでは意味がないのですよ。ツカサさんは確かに大きな力を持っていますが、あくまで組合の一員です。仮にツカサさんの一存で音楽業界やメディアを動かしたとしたら、組合が権力を用いて脅したのだと、敵に反撃のスキを与えてしまいます」
「ふむ・・・キミは、敵の正体がわかっているのかね?」
「ええ。ここでは言えませんが、すでに目星はついています」
「それが末端の馬鹿どもを捕まえない理由だと?」
「その通りです。彼ら末端をいくら捕まえたところで根本的な解決にはならない。それどころか戦力を分散することで、敵にスキを見せることになります。ならば、本元を潰すしかないでしょう」
「同じ学校の生徒に危険があるかもしれないのに?」
カイルの表情が険しくなった。すでにキサラギ祭では被害が出る前に基本的に食い止めたとはいえ、事件があった。その学校に娘のカナデが通っているのだから、リクの言葉を不快に思うのも当然だ。
「だからこそ、同じ学校に通っているカナデさんがいるあなたに話を持ってきたのです。あなたもこの件に関しては傍観者ではいられないはずです。違いますか?」
「確かに、私の娘も無関係ではいられない。第一級霊視官が通う学校に一緒に通っている以上、馬鹿どもが手を出してこないとは限らんからな。無論協力はさせてもらうつもりだった。最初からな。
その上で、学校の生徒ではなく、霊視官としてキミが今日ここに来たというのであれば、言わせてもらおう。最近の組合の動きの遅さはなにかね?
犯罪者の特定を難しくさせ、それどころか犯罪者を野放しにする可能性のある幻影符がこれほど出回っているのに、組合の対策は遅い。いや、すでに無罪放免されている犯罪者が複数いることを考えれば遅すぎると言っていいぐらいだ。違うかね」
「その通りです。私も初動が遅すぎると考えています。その上で私、こと第一級霊視官リクが組合を代表して謝罪させていただきます」
「・・・別にキミに謝ってもらいたいわけではない。キミも言ってしまえばただの学生だ。単純にバカな上の意向で霊視官に昇格しただけだからな。私はキミも被害者だと考えている。だからこそ、今回キミとの会談に応じたのだ」
カイルは険しい表情を崩さず話し続ける。
「過分なお言葉感謝いたします。その上で、『私の』考えている組合の真意をお伝えいたしましょう」
リクは今までの会談からカイルは信用に値する人物だと判断した。ゆえに、誠実に対応することを決めた。
「組合の真意?」
「ええ、おそらくこれは私に対する組合からのテスト・・・なのでしょうね。私が本当に第一級霊視官として相応しいか。それだけの働きができるのか、それを確かめるために組合は動かない・・・いえ上に言われて動けないのだと思います」
「テスト・・・だと!馬鹿な!組合は優秀とはいえ、ただの16歳の男子高校生にこの一件を任せたというのか!下手したら無法地帯になる可能性があるのに!」
カイルは当然タケルの父であるミツルと同じように激高した。隣でミスズも顔をしかめているし、カナデに至ってはカイルの言葉にようやく事態の深刻さを理解したのか顔を青ざめていた。
魔法がある世界での無法地帯。それは地球における無法地帯の数倍は悲惨なものである。生きるために魔法を行使する市民を止める手立てはなく、外部の組織が改善に向けて動き出してもそれまでの間に悲劇がたくさん生まれ、復讐を企むものが増えるため収拾がつかないのだ。
復讐が復讐を呼ぶ、なんてものではない。復讐が地獄を量産するのだ。基本的に無法地帯になった土地は、その土地の住人を全員殺すか、その区画を閉鎖することでしか対応が取れない。
陰で誰もがそういうのが魔法のある世界における無法地帯なのだ。
リクはその心配をよそに平然と話し続ける。
「おそらくは。しかし心配したような無法地帯になることは無いでしょう。私が組合員を霊視してみた感じでは、きちんと失敗した時の対処法は考えているみたいですし、必要とあればフォローをする。そんな話を匂わせてきた霊視官も結構いますから・・・」
「だとしても、だ!」
カイルはそれでも止まらなかった。
「おそらく私の師匠のレイジあたりの入れ知恵でしょう。いざとなればレイジがなんとかしますよ」
怒りが収まらない。そんな表情をしながらもカイルは八つ当たりをする相手はリクではないときちんと認識しているのか、リクに対しては、それ以上怒りはしなかった。
しかし、レイジの名前が出たことがカイルを冷静にさせる一因の1つであることも、また確かであった。
それだけレイジの持つ影響力が絶大である証だ。リクには理解できないことだが・・・
「あなた、組合の対応の良し悪しはともかく、こうしてカナデより年下のリク君が頭を下げたうえで協力を要請しているのよ。今、すべきことは別にあるでしょう?」
紅茶を入れて戻ってきたミスズが、ティーカップを置いた後、カイルの腕に手を当てて宥めるように言った。
「大丈夫ですよ。これでも私はあのレイジの弟子ですしね。最悪組合の力を借りればなんとでもなります。ただ霊視官とそれ以外の人たちとの間に隔意を生まないためにも、協力をお願いします」
リクはそう言って頭を下げた。
「・・・・わかった。もちろん協力はさせてもらう。それで?私はなにをすればいいのかね?」
色々と言いたいことがありそうだったが、カイルはその全てを飲み込んでリクに話しかけた。
リクは具体的な要請の内容を説明する。
「は?・・・・いや、それは別に構わないのだが、それだけでいいのかね?」
「ええ、下手に動いてカイルさんたちの評判を下げる必要はありませんし、カイルさんたちの評判が下がれば組合としても痛手ですから」
リクが申し込んだのは単純にこれから流れるであろうアンチ霊視官の報道に流されることなく、中立を貫くこと。その上で、リクから連絡があり次第、TV番組でアンチ霊視官の人々のアンチとして活動すること。それだけだ。
目的としては単純に印象操作。事件を全て片付けた後、霊視官に対する負の感情が強くなってしまっては本末転倒だ。
しかし単純に組合に賛成という態度を表明されても良い的にされかねないので、中立を貫きつつも、霊視官批判ばかりしている人はどうなのよ?と音楽の大御所に言ってもらうことで、世論を分断するのが目的だ。
最初は困惑していたカイルだが徐々にリクの真意が見えてきたのであろう。カイルはその話を了承した。
「ありがとうございます。ではこれから金銭面の報酬の話に移らせていただきたいのですが」
「いや、娘を守るためでもあるし、必要はないよ。それに優秀な霊視官に恩を売れるというのは悪いことではないしね」
カイルはそう言って断ろうとしたが、リクはそれに対し引き下がった。
「いえ。娘さんを危険にさらす可能性があるのに、私の案を了承してくださったカイルさんに何も無しとはいきません」
「しかしね。現状キミが差し出せるもので私を喜ばせることができるものがあるのかね?ああ、キミが特許を取って、お金をたくさん稼いでいることは知っているがね。私は年下から、それも未成年からお金をもらうほどゲスな男にはなりたくないのだよ」
「では、こういうのはどうでしょう?」
リクはそう言って5束の紙の束を差し出した。
「・・・これは」
カイルは驚きながら興味深げにその紙の束を眺めた。それは彼の商売道具だからだ。
「見ての通り、私が開発した打楽器を組み込んだ新しい楽曲です」
リクはツカサからの情報で、カイルが自分の娘であるカナデが感動した打楽器を組み込んだ演奏というものに興味を持っていることを知っていた。だからこそ、打楽器を組み込んだ新しい楽曲の楽譜という対価を提示したのだ。
もっとも金銭で済むのであればそれに越したことは無いと考えていたのも事実である。
話を戻すが打楽器を組み込んだ曲というのは無いわけではないが、そのたびに魔法を使っていない楽器を使うなんてという、(リクからすれば)バカげたアンチにあってきた。
故に、昔の楽曲では常に負のイメージが付きまとう。だからこそ、この新曲は対価になりうる。リクはそう考えていた。
「キミは・・・実のところかなりの野心家だね。この私に協力を申し込む対価として、自作の楽曲を、いや、新しい音楽の可能性を対価として見せるとわ」
「一応ツカサさんと相談したうえで、これなら十分に対価になりうる。そう、太鼓判をもらっていますから」
カイルはニヤリと笑いながらそう言った。それも最初のような歓迎のための笑顔ではなく、好戦的な、挑戦的な笑みだ。それに対しリクも、ニコリと微笑んで見せたが、目は笑っていなかった。
すでに、カイルの横では早速ミスズとカナデが楽譜に夢中になっていた。
そう。リクは依頼のついでに打楽器の持つ可能性を伝えようとしているのだ。
ただリサがいるからとはいえ、対価として自分の楽曲を提示するあたり、そしてそれが対価になりうると考えているあたり、ものすごい自信であることも間違いない。
しかも外野からすればリクが300回も転生を繰り返し、音楽に関する知識をため込んでいる。などという事実は知り様もないのだ。
実際、ヒカルはリクの自信に呆れかえっていたが、さすがは音楽一家というべきか、食いつきは悪いものでは無かった。
リクはその反応を見るや、もう1つの対価であるスティック。その真価を提示し、畳みかける。
このまま既存の打楽器を利用しては昔の二の舞になりかねない。リクも当然それは予想していた。故にリクは2つ目の対価として秘密兵器を用意していたのだ。
「そしてこれが、2つ目の対価として私が提示できるものです。打楽器専用の魔道具。その試作品です。打楽器は魔法を使わないというだけで伝統的に音楽業界から倦厭されがちですが、ならば魔法を組み込めばいい。そういう発想から試作してみました」
リクはそう言って一見なんの変哲もないスティックに思念波を送り、起動してみせる。
そう、このスティックは魔道具なのだ。
するとリクの周りに何枚もの風の障壁が展開された。この魔道具はリクの自作で効果としては自身の周囲の決められた位置に特殊な風の障壁を展開するというもの。
特に難しくもなんともない。風の障壁魔法の魔道具をアレンジしただけである。風の障壁魔道具を作れる人なら類似品はいくらでも作れるだろう。
リクしか作れない魔道具では意味がない。打楽器を新しい音楽の可能性として世に認めさせるためにも、単純な仕組みの魔道具を作ったのだ。
当然、魔道具としての価値も楽器としての価値も、今はまだない。
しかし、リクが見せたいのは打楽器の可能性。さらに言うなれば、音楽の新たな可能性だ。
人によっては一切価値を見出さない魔道具であろうが、カイルなら価値を見出してくれる。リクはそう判断してこの2つの対価を用意したのだ。
もうお分かりの読者もいるかと思うが、一応このスティックの魔道具について説明をすることにしよう。スティックに思念波を送ると、使用者の周囲に数枚の風の障壁が展開される。そして、展開された一枚一枚の障壁がドラム代わりに音を鳴らす仕組みになっており、これにより打楽器と似たような音が出せるのだ。
無論、それだけではまだアンチに馬鹿にされかねない。そのため籠める思念波の特性により、『火』なら燃え盛る火のように激しい音が、『水』なら澄んだ湖のごとく透明感ある音が、『土』ならどっしりとした大地を思わせる重厚感のある音が、そして『風』なら自由な空を飛ぶ鳥を思わせる軽快な音がなるように調整されているのだ。
今回持ってきたのはドラムをイメージした音のなる魔道具のスティックだが、当然鉄琴や木琴、和太鼓など、各種の音を鳴らすスティックもある。リクがリサの補助を得ながら作った作品である。
最初はいきなり展開された風の障壁に驚いていたカイルだが、すぐに機能を理解したのか障壁を叩き始める。
「なるほど・・・打楽器専用の魔道具か。それなら魔法を使っていることになるし、頭の固い奴らも受け入れられるかもしれん。それに、一枚一枚出る音が違うな・・・なるほど、ギター同様籠める思念波によって音が変わるのか・・・・いい音だ」
カイルはそう言いながら深く考え込んでいる。
「あら、曲の方もいい感じね。ここまで打楽器の入った演奏というのがまだちょっと想像できないけれど、なかなか格好いいじゃない」
「あ、気になったところがあれば言ってください。今ここで説明しますから。」
カイルやミスズ、それにカナデは時折音を確かめるように風の障壁を叩きながらも、楽譜に夢中になっていく。
カイルは楽譜を読みながらリクに気になったところを質問し始めた。
「一般的な3重奏(ギター×2 ベース)に打楽器を盛り込む。確かに良い発想だ。しかしこの発想自体は昔からあるものだし、忌々しいことに新しく出てくるたびに昔からの自称音楽好きに淘汰されてきた。そのことは知っているかね」
(話の本筋とは関係ないが、ここで補足しておく。ギターの演奏には、何度か述べたことだが、繊細な思念波のコントロール技術が不可欠だ。そのため人数が多すぎると多くの人の思念波が混ざり、繊細なコントロールが難しくなる。
ゆえに少人数による室内楽の類がこの世界の音楽の主流だ。そのためか地球の音楽より弦楽器に限っていえば音色の多彩さは上だが、全体の音楽の厚み、あるいは迫力といったものが少ない。)
リクはカイルの質問に答えた。
「ええ、もちろん」
「悪い楽曲ではないと思う。しかし・・・いや、楽器は新しい魔道具だ。それによってある程度反発は減ると思う。しかし受け入れられるかというと、私は疑問と言わざるを得ない」
カイルの本職は現在音楽のプロデューサーだ。いまだに一流の腕を持っているが、第一線からは退き、プロデューサーとして活躍している。最近では後進の教育に努めていることもあり、カイルの意見は慎重だ。
リクの音楽家としての話をカナデから聞いているからこそ、リクにここで下手な手を打って、音楽家としての道を閉ざしてほしくないのだ。
しかしミスズの意見は違った。
「あら、いいじゃない。受けるかどうかではなく、せっかく作ってくれたのだから、まず演奏してみましょうよ。
カナデから話を聞いて興味を持っていたとはいえ、私たち家族に協力を申し込んだ対価に、自作の楽曲と新しい楽器を提示するなんていうのは相当自信があるのよね、リク君」
「その通です。かなり自信もあります。
しかし不安もやはりあります。現状の音楽業界に風穴を開けたい。もっと自由な音楽を楽しみたい。そんな思いから作りましたが、やはり認めてくれるかどうかは五分五分だと思います。
でも、だからこそ価値がある。そうも考えています。私の楽曲に仮に穴があっても、カイルさんやミスズさんと協力すれば新しい風を巻き起こせる。そう、確信しています。
なにより、新しい可能性が手を伸ばせばあるのに演奏家として手を伸ばさない。それはかなりもったいないことだと自分は思います」
『そうはおもいませんか?』
リクの言葉になっていない問いかけに、ミスズがいきなり笑い始めた。
「クスクスクス。いや、あなたリク君。面白いわ。ここ数年、私が出会った音楽家の中で一番面白い音楽家よ、あなたは」
ミスズは目じりに涙を浮かべるほど笑いながら、リクにそう言った。
カナデはいつもおしとやかな母の姿しか見たことが無かったのであろう。その姿に呆気に取られていた。
「この年になって、天才とか、大御所とか、落ち着きのあるいい演奏だとか、色々と言われるようになったけど、まさか17歳の男子高校生に正面切って喧嘩を売られるとはね。
良いわよ。演奏してみせようじゃない。音楽家として、1人のエンターテイナーとして、なによりこの私が、世界のミスズと呼ばれる、この私が、新しい音楽を模索しない?確かにありえないわね。
最近、ありふれた決まり切った音楽でつまらなかったしね。いいでしょう。本気で私が演奏してあげる。弾けばわかることだしね。ただし、つまらない音楽だったら許さないわよ?」
ミスズは一通り言いたいことを言いきって落ち着き、その上でリクのことをニヤリと見つめた。
「ええ。もちろん。退屈はさせませんよ」
リクもこれまた挑戦的にミスズに笑いかけた。
カイルは妻であるミスズの好戦的なところを知っていたのであろう。カナデとは違って落ち着いて、そして若干眩しそうにミスズとリクのやり取りを見ていた。
その上で場を落ち着かせるように話に割って入った。
「むう。確かにリク君の言うことももっともだな。リク君。キミはこの、どらむ?という楽器をお願いしていいかね。個人的にはギターの腕前が気になっていたが、それはまた後日にしよう」
「ありがとうございます。では、喜んでドラムを演奏させていただきます」
「ふむ、そうだな。ベースは当然私がやるとして、ギターは・・」
「当然、私とカナデね。歌も私がやるわ。カナデ、あなたはせっかくだから2番のギターを演奏しなさい。私が一番を引きながら歌うわ。そうね30分後ぐらいに始めましょうか」
「さっ、30分?うぐっ、わ、わかりました。母さん」
リクは所見の曲でギターを弾きながら歌えるのかと聞こうとして、口をつぐんだ。愚問だと思いなおしたからだ。
最初の構想では音楽の話なんてそんなに書くつもりはなかったのですが
魔法がある⇒物質に思念波で干渉できる⇒物質の性質が変化する⇒あれ?材料科学どうなる?⇒音楽とかめちゃくちゃにならん?⇒というか魔法がある世界なのにどの異世界物も音楽があまり変わらないのはおかしいだろう⇒試しに書いてみるか・・・
で、書いたらこんなことに・・・
今思いつきましたが、恐らく不思議食べ物とかで人の思念波で固さとか色が変化するアイスとかありそうですよねw
主人公たちの変化や行動を書くというより、魔法のある世界について考察する小説になってしまったのは失敗だったかもなぁ、と思わなくはありません。
この作品の収拾をどうつけるかは悩んでいますが、その前にこの世界の医学の発展とか書いたらおもしろそうだとか関係ない話の内容ばかり浮かんで、最近は脱線しております。
きちんと完結できると良いなぁ・・・




