不穏な空気
リクはその日、珍しく刑事であるカンジの要請を受けてヒカルとともに事件現場の鑑識に立ち会っていた。いつもと違うのは霊視官補佐の制服ではなく、霊視官の制服を身に纏っているところと、変装していないところ。そして護衛にヒカルを伴っているところだ。
「どうだー。結果の方は出たか?」
「いつも通りですね。ただ不審な点がいくつかありますね」
「おいおいやっぱりか」
「「やっぱり」ということはなにか前例か心当たりでもあるので?」
「まあな、お前も知り合いの霊視官から噂話くらいは聞いているだろ。だがその話はここではちと不味い。すぐにこの場を離れるわけにもいかんし、車の中で話そうや」
「別に構いませんけど・・」
リクはそう言ってヒカルとともにパトカーの中に向かった。
「カンジ部長。どうしたんです?リク君まで連れて」
「ナギサか、ちと例の件でリクと話があってな。外で話せる内容でもないから少しこの場借りるぜ?お前は現場の方を頼む」
「わかりました」
深刻そうな感じの表情にすぐになんの話か察しがついたのかナギサはその場を立った。(ヒカルとナギサの初対面の挨拶は、先に済んでいた)
「さてと・・・どこから話すか」
「その前に、少しいいですか?」
「ん?なんだ?」
リクはそう言うと、カンジの返答を待たずにごそごそと車のあちこちを改め始めた。そして、数分後にはリクの手には複数の機械部品が握られていた。
「お・・」
「しっ!」
リクはカンジの言葉を制すと、機械部品に魔法で干渉し、ショートさせた。機械の故障に見せかけて時間を稼ぐためだ。
「逆探は・・・無理か。ただ、それほどバッテリーも積んでないし、性能もよくないからおそらく敵は半径50m圏内にはいるな。ちょっと詳しく霊視してみますから、少し待っていてください」
「お、おう」
カンジの言葉を待たずにリクは余裕を見て周囲70m圏内の異常な思念波を探知する。また、ついでに盗聴器に残った残留思念と類似する思念波を探すことにする。
「見つけた。すみません。カンジさん、今から言う人たちに職質かけてもらっていいですか?今すぐに」
「わかった」
カンジはすぐさま頷いた。態度こそおチャラけていて、リクを利用してキャリアを積もうとしているアホだが、逆に言えば自分にできることと、できないことを理解しているともいえる。軽い態度とは裏腹に、これでカンジは結構有能なのだ。
職質の結果はすぐに出た。というか幻影符を所持していたから即座に逮捕された。普通は一般に流出することが許されないはずの幻影符が、明らかに軽犯罪に使われている。これは由々しき事態である。
魔法犯罪の取り締まり様がなくなるからだ。
「ここのところずっとなんですか?」
「ええ、まあ。あきらかに犯人と思われる人物を逮捕しても鑑識の結果と合わなくてね。すぐに保釈されちゃうのよ。それで徐々に霊視官たちの発言そのものが疑われつつある感じね。犯人もその事を吹聴しているみたいでね。現状かなりヤバいわね」
部下に指示を出しているカンジをよそに、リクとヒカルはナギサと話していた。
「やっぱりそうですか。残留思念に違和感を覚えましたから。アレを見つけるのは二級以上の霊視官じゃないと厳しいでしょうね」
「ま、今回のリク君のお手柄で、ある程度はマシになるでしょうけど」
「かなり深刻ですね。起こっているのが軽犯罪ばかりだからよいですけど」
「いや、明らかに使い捨ての末端にまで幻影符が出回っているんだ。それだけ流出していることを考えると、むしろ危険だね」
話に入ってきたヒカルの楽観論に、リクが鋭く切り返した。その言葉にヒカルはハッとした顔になり、ナギサは苦虫をつぶしたような顔をした。
「他の地区はどうなんですか?」
「それが似たような事件はここらだけみたい」
「なるほど・・・これは明らかに組合の支部がある地区で問題を起こし、霊視官の信用をつぶすのが目的ですか・・・俺たちに喧嘩を売っていると。なら平穏な生活のためにも売られた喧嘩は買わないとですね」
リクの好戦的な言葉にナギサは少し心配そうな顔をした。
「本来なら大人の私たちで片付けるべきなんでしょうけど、ごめんなさいね。眼鏡(霊視能力補佐眼鏡)かけても私霊視能力が低いから、あまり役に立たなくて」
「ああ、大丈夫ですよ。任せておいてください。それとコレ。ナギサさんと、あと癪ですけどカンジさん。それに鑑識の皆さんで食べてください。霊体の調子を整える薬膳料理のおやつを作ってみました」
リクはそう言って明らかにオーバーワークで疲れをにじませているナギサに自作のおやつをおすそ分けする。ちなみに元々は訓練で疲れているヒカルのために作ったモノである。
「わあ、ありがと・・・でも、無理しないでね?」
ナギサは有難く受け取りながらも、リクを心配して自制を呼びかける。
「ナギサさんも下手に動いて、変なところに回されないようにしてくださいね?まともな人が警察の知り合いにいるっていうのは俺にとっても重要なことですから」
「そ・・・・わかったわ」
それって警察内部にまともじゃない人がいるって言うこと?
おそらくナギサはそう聞きたかったのであろうが、結局何も言わなかった。
この場でいうべきことではないと思ったというのもあるし、なにより、リクの目に圧倒されて何も言えなかったのだ。
きな臭い事件はまだまだ続きそうである。




