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平々凡々に暮らしたい~異世界転生を300回繰り返した結果~  作者: 活字中毒者
ハジマリの霊視官
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魔法の世界の合気道(?)

かなり長めです。




「お!リクじゃねえか。久しぶり」


「イチイさん。久しぶりです」


「ホントに久しぶりだよな。お前仕事が忙しいからってぱったりと来なくなりやがって。タケルから元気なのは聞いていたけどよ。まあ、準備終わったら一緒に組み手しようや」


「了解です。そういえば遅れましたけど紹介します。護衛のヒカルです」


「リクの護衛役のヒカルです。よろしくお願いします。イチイさん」


「おう!よろしくな!しかしリクが護衛に同年代の女の子を選ぶとはな」


「別に、推薦がありましたし、伸びしろもありますから」


「ん?そうなのか?リクが見つけてきたって聞いたけど?」


「違いますよ。タケルとレイジ師匠の推薦です。それに上層部はこれを機に気功術を魔道具で再現できないかとか画策しているみたいですが・・・


ま、組合からは気にしなくていいって言われていますし、話を聞く気もないですけど・・・・でもまあ。そこそこ実力はありますし、伸びしろも考えると結構楽しめると思いますよ?」


「へえ」


 イチイはニヤリと好戦的に笑った。どうもこの道場は好戦的な人が多くて困るというのがリクの個人的な感想だ。ヒカルの方も少しいやそうだったが、先ほどの一件もあるのだろう。否とは言わなかった。






 リクが胴着に、ヒカルが訓練着に着替えた後、本格的な鍛錬が始まった。リクはキリクと、ヒカルはイチイと組み手をしている。この世界の組手は魔法がある時点で、地球のものとは大きく違う。発展してきた歴史も目的も違うのだから当然と言える。


 この世界の武道は主に2つの流れを汲んで発展してきた。


 1つは魔法師が暗殺者(気功師も含む)や野生動物等(まれに魔法で遠距離攻撃をする個体もいるが、変異種であることが多く滅多にいない)に接近されたときに対応するための技術。主に接近戦の技術である。


 もう1つは魔法の3要素『身体強化』『霊視』『放出』の内、『放出』の能力、その中でも『距離』の能力に劣る者(自分から遠いところでは魔法を行使できない人たち)が、敵魔法師による遠距離攻撃に対応するために発達してきた技術。これは主に遠距離戦(?)の技術である。


 また、後者はさらに2つの対応に分かれる。


 距離を取る相手に対し、とにかく魔法障壁を展開し、相手の攻撃を防ぎ、接近して殴り倒す技術。(いかに遠距離戦をさせないかという考えを極めてものなので、遠距離戦と言っていいかは不明である。ゆえに(?)を先ほどは付けた。)


 もう1つは、弾丸を手元でとにかく早く加速させることで、遠距離攻撃をする技術である。遠距離攻撃の方は、もはや地球でいうところの銃と同じ発想で進化しており、火薬を使わず弾丸を発射する魔道具は『魔銃』と言われる。


 別に火薬を用いた銃も後に開発されるが、『魔銃』の歴史の方が長い。なお火薬を用いた銃は、魔法発動を感知されることが無いため、主に暗殺で使用されてきたのだ。


 この世界の武道においては、どんな時でも魔法による遠距離攻撃を警戒しなくてはならない。これは地球における武道との大きな違いの1つである。


 さて、ではキリクの道場はどのような流派なのか。極論を言うと上述した全ての技術を用いた『超』実践的な流派である。今まで『合気道』と呼称してきたが、はっきり言うと地球のものとはまるで別物だ。(地球でいえば、後世の空想を含めた忍術の方が近いかもしれない)


 いかに速く走り、敵の攻撃から身を守りつつ、敵にたどり着き殴り飛ばすか。牽制攻撃をし続け、敵に落ち着いて魔法を使わせることなく、焦らせ、魔法の発動速度と精度を下げさせるか。魔法で常に相手のタイミングや間合いをずらし、優位にたつか。そういう流派だ。


 そもそも魔法のあるこの世界では、『アクセラレーター』や『エアボール』を自身に当てることで、両足が地面についていなくても空中で加速可能だし(『アクセラレーター』が無理なら単純に風の障壁で足場を空中に作ればいい)、それを用いて相手との間を自由自在に調節することも初歩にして奥義の1つだ。


 ゆえにこの世界ではすり足で移動することはあまりない。


 しかしすり足で動くことで魔法使用による精神疲労を低減する技術もある。と、いうか一流になればなるほど長期戦を予測して無駄な魔法は使わなくなっていく。


 また、この世界ではリクが障壁魔法で体を固定し、対応したように力の差が決定的な差にはなりえない。また、相手に投げ技をかけても、一流の武闘家なら空中に障壁を張ったりすることで、足場を作り、するりと逃げてしまうことが多い。


 そもそも霊視による読み合いにより、相手の行動を予測する精度が段違いなので、達人になると、戦闘前に読み合いだけでどちらかがギブアップすることが多い。


 そんなこんなで、手数が圧倒的に多い魔法の世界の戦闘は、実のところ地球の戦闘よりかなり頭脳戦が多いのだ。


 閑話休題。長々と話してしまったが、リクとヒカルの戦闘についてみていきたいと思う。


 リクとキリクは軽く組手をしながら、至近距離での魔法攻撃を行っていた。雑談をしながら。


 文字通り彼らにとってはこの程度挨拶のようなものだ。しかし最近来たのであろう、リクのことを知らないそれなりの実力ある武闘家はリクの技術に驚きを隠せていなかった。


 ヒカルとイチイは全くリクたちとは逆だ。ヒカルが『気功術』を生かし、変幻自在の高機動3次元戦闘を仕掛けているが、イチイは軽々と・・・というほどでもないが、ヒカルのことをさばいていた。


 イチイもリクほどではないが霊視能力が高い。それでも『発頸』を発動されたときは、瞬時にヤバいと感じ取ったのであろう。必要以上に『アクセラレーター』で距離を取っていた。


 だが、それでも徐々に慣れてきたのか、回避行動が最適化されているようで無駄な行動が減っている。


 しかし、『身体硬化』で防御力を上げており、一発でもくらえば終わりという気配を漂わせた『発頸』を使うヒカルに、イチイは精神的にきつくなっていった。


 高機動戦を行いながら致命打を与えることができず、さらにヒカルはリク直伝の『心肺機能強化』と『肝機能強化』で回復力を上げているので、イチイより無駄な動きが多いとはいえ体力もかなりある。


 素人受けするのはこちらの試合だろうが、ヒカルの方もイチイの回避技術に致命打を与えることはできないので、彼らの試合は泥仕合の様相を呈していた。


「ふむ。予想以上に体力があるのう」


「気功術は体力強化の術もありますから、技術や経験ではかなわない以上、とにかく動きまくって勝機を見出すしかないでしょう」


「なるほどの・・・これは嬉しい誤算じゃな。予想以上にやりおる。それに少しずつだが、イチイとの戦闘中にも行動が最適化されているのう」


「イチイさんを見て学んでいるのでしょう。イチイさんは最初必要以上にヒカルの『発頸』を警戒していましたから」


「なるほど・・・あれが噂の『発頸』か。実物は初めて見たぞい。イチイレベルでなければ即座にやられていたであろうし、これは先ほどの言葉を撤回しなくてはならんな」


「まあ、まだまだですよ。将来的には俺より強くなるでしょうし、無手なら2カ月後にはかなわなくなりそうですが、いろいろとやり様はありますから。それに訓練にもまじめなのはいいですが、護衛としては怒りっぽすぎます」


「ふむ。精神鍛錬も行うべきかの」


 リクとキリクは文字通り、息も乱さず組手をしながら普通に話していた。徐々にそれに気が付いた門下生が驚きを露わにした。無論、これも魔法によるものだ。


 呼吸法奥義『繰気活生』――魔法を用いて肺の中の空気を意図的に循環させることで、呼吸を乱すことなく常に新鮮な空気を体に送り続け、同時に血中の水を操作し体に負担をかけることなく血流を早くする技だ。


 もっとも一般的には肺の空気を循環させながら戦闘を行うことが可能ならば、『繰気活生』を極めたと言われる。リクとキリクが行っていることは、秘術の類であり、下手をすれば死ぬほど危険な技なので、二人しか使い手は確認されていない。


 しかし、そのメリットは計り知れない。『繰気活生』により二人は呼吸により相手に次の動きを悟られることなく、かつ体力消費を抑えて長時間戦闘を続けることができる。


 当然のことだが、これは、訓練をしまくった二人に限った話で、『繰気活生』を覚えたばかりの術者は、まずそれを維持して戦闘ができないし、よほどセンスが良くて戦闘ができたと良しても、魔法発動による疲労の方が上回り、すぐ倒れる。


 そんな技を平然と使いながら、雑談をし組手をする二人はまさしく化け物であり、この技こそがリクがキリクに気に入られるゆえんの1つである。


「そろそろですかね?」


「そのようじゃな」


 リクとキリクがそう言うと同時に、ヒカルが道場に崩れ落ちた。イチイの方もいっぱいいっぱいという感じだが、先輩の意地なのか、年上の意地なのか、やせ我慢して立っている。


泥仕合の結果はイチイの体力勝ち。結末は体力切れ、というまさしく泥仕合に相応しい終結になったが、それを馬鹿にするほど見識の狭い、言ってしまえば弱い人物はいなかった。


 疲れて座り込んだイチイは『繰気活生』(当然リクたちが使う秘術ではない方)を用いて体力回復に努める。(と、いうか、これが本来の使い方である)ヒカルの方もヒカルの方で『肝機能強化』と『心肺機能強化』を行い体力の回復に努める。


「お疲れ。ヒカル。まあ、訓練期間を考えればよくやった方だけど、まだまだだね」


「はあ・・わか・・・はあ・・・ってるわよ・・・・私が・・・未熟なことくらい」


 ヒカルはリクに言った。


「うん、まあ、そうなんだけどね。具体的に言うと『発頸』をもっとインパクトの瞬間に合わせて発動できればもっと消耗は少なかったと思うよ。あとは障壁を破る時にも『発頸』を使っていたけど、それは別に障壁破壊用の気功術を編み出した方がいいね。


単純に体から放出される思念波の影響で相手の障壁の強度は下がるから、内部破壊の思念波を込めるより、攪乱の思念波を籠めたやつ・・・具体的にはヒカルが初期に使っていた上手くいっていない『発頸』ね。その方が障壁の妨害は破壊しやすいはずだよ」


 リクがそう言うと、ヒカルは呆れた目をリクに向けた。


「・・・・はあ・・・・頑張って・・はあ・・戦った・・相手に対する言葉が・・ふう・・ソレなの?」


「なんだ?慰めてほしかったのか?負けた直後に?」


「・・・・たしかに、キリクさんと組手して息1つ乱していないアンタには言われたくないけど・・・というか、どういう体力しているのよ」


「別に、体力自体はヒカルの方があるよ?単純に消耗を抑える『繰気活生』っていう奥義を使っていたから大丈夫なだけ。それにキリク師範も本気じゃなかったし」


 リクの言葉でまだ若いリクが奥義を使っていたということが周知され、リクのことを知らない周囲は驚きと悔しさをにじませていた。


「奥義って・・・いや・・・ハア・・・でも、それ・・ハア・・私も使いたいわね」


「なに言っているのさ。俺とキリク師範が使える『繰気活生』は、ヒカルが使っている気功術の『心肺機能強化』と『肝機能強化』を模して開発された術だぞ?


単純にヒカルの練度が低いだけで、もっとうまくやれば、ヒカルの方がずっと長く戦えるぞ?ホレ、ヒカルはもう回復しているけど、イチイさんはまだだし。


もう数分粘れば、あるいはあえて途中から消耗戦の長期戦を選択すればもう少しいい試合ができただろうに。ヒカルは後先考えなさすぎ。今は訓練中だからそれでいいけど、将来的にはもっとうまくやらないと」


「はいはい・・・」


「ふむ。もう回復したか・・・本当に素質だけなら逸材だな。ま、鍛錬機関も短いのにイチイを追い詰めたのだ。イチイは後で扱くとして、ヒカルさんといったか。先ほどの言葉撤回しよう。大したものじゃ。しかし、リクの護衛としてはまだ足りん」


「はい・・・」


 ヒカルが悔しそうに言った。


「なに、足りないのであれば修錬すればいいのみ。どうかね?護衛訓練として1対多の訓練もしてみるか?」


「はい!」


 ヒカルはキリクの言葉に勢いよく頷いた。イチイと一回戦っただけだが得るものが多かったことに気が付いたのであろう。むしろモチベーションは上がっていた。


「それとな・・・その『発頸』とかいったかの?手にしか発動できないというわけではあるまい?せっかく一流の霊視官が身近に居るんじゃ。よく見てもらって足、もっと言えば全身で発動できるようにするとよいじゃろうな」


「全身で?」


「うむ。簡単に言えば直接触れて攻撃してきた相手に、カウンターを与えるのよ」


「・・・流石にすぐにできそうにはありませんが」


「なに、最初は単純にみぞおちとか、身体的な弱点に限って発動できるようにすればよい。そうするだけで相手の攻撃できるところが絞られるからの。かなり有利になるはずじゃ」


「なるほど・・・」


「ちょっとキリク師匠。今ですらきついのにこれ以上強くなられたら、相手できる人員が限られますよ?」


 イチイが少し情けない顔をしながら言った。


「バカもん!そんなものもっと強くなればいいだけの話じゃろうが!なにを甘えたこと言っておる!罰として外周50周行って来い!」


「は、ハイ!」


 イチイの言葉にキリクが怒った。どうもイチイは、実力はあるのだが口が軽いのが欠点なのだ。いい兄弟子ではあるのだが・・リクはそんなことを考えながら、ヒカルとキリクに言った。


「まあ、ヒカルは何でもありなら意外と誰でも倒せるんですけどね」


「ホウ?というと?」


「単純に閃光弾や音響弾で目つぶしと耳つぶしを行えばいい。あるいは毒ガスなんかが簡単ですね。ヒカルが魔法を発動できる対象はあくまで人のみ。


遮音障壁とか、風の物理障壁とか使えませんから。音に関してはある程度『身体硬化』で減衰できるにしても、限度がありますし。毒ガスに対しては文字通り無力です。一応その手の結界は俺が持ち歩いていますけどね」


「なるほど・・・となると、音はともかく、視界をなくして組手を行う訓練とかもした方がいいな。『身体硬化』とやらが使えるのであれば多少の無理はきくしな。音に関しては・・・『身体硬化』とやらを鍛えてもらうしかないか・・・毒ガスは魔道具で対処するしかなかろう」


「多分、ヒカルだけなら毒の分解速度を『肝臓強化』であげればある程度はマシですけどね。まあ、毒の種類にもよりますし、下手すれば悪化しますけど」


 目の前で行われている非常識な話の内容にヒカルが慌てて止めに入った。


「あの?キリクさん?さすがに目隠し戦闘って無茶では?」


「なに、霊視に視界は関係ない。どれ、リク。手本を示してやれ」


「はい」


「いや、高位霊視能力者と一緒にしないでほしいのですが・・・・いや、まあ、必要なのはわかるのですけど・・・」


 ヒカルは引き攣りながら言った。しかしリクが目の前で手本を見せた後(リクは霊視で軽々と目隠し組手を行って見せた)、軽く挑発してやると、ムカついたのか、目隠し組手をすることに同意した。


最終的には近接戦では反応が遅いまでも、直撃はくらわないようになり、遠距離からも攻撃範囲の狭い魔法攻撃なら対処できるようになっていた。


「ふむ。確かに逸材だな。これは相当伸びるのう」


 しばらくヒカルの訓練を見た後、キリクはニヤリと笑っていた。後ろで門下生たちは可哀そうにという顔をしていたが、リクもキリクも気にしなかった。


「ええ。それに先の一件で、予想以上に政治家や資本家の動きが遅かったので、私としても早めに実力をつけてほしいんですよね」


「ふむ。馬鹿どもがリクに圧力をかけているということか・・・リク、お前。この夏休みはどれくらい鍛錬に来られる?」


「俺は仕事があるのであまり来られませんが、組合での仕事なら護衛もいりませんから、その間ヒカルだけ行かせることは可能です」


「なるほど・・・それは重畳」


 ヒカルの知らぬ間に、この夏休みのヒカルの予定が決まった瞬間だった。





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