襲撃訓練
家から帰り、リクとヒカルはバスで道場へと向かうことにした。リクは魔道バイクの免許を持っているが、ヒカルが持っておらず、かつリクのバイクが1人乗りのためである。
道場は木造平屋建てで、落ち着いた雰囲気の建物だが、それとは裏腹に中からは気合の入った声と熱気が漂っていた。
「うわ~。なんか、如何にもって感じねぇ」
「ヒカル、少しは気合入れろよ」
「わかっているけどさ。アンタの知り合いに襲撃された回数がこれで10回を超えるとなると、護衛役としては思うところがあるのよ、ねっ!」
ヒカルはそう言って飛んできた苦無を叩き落とした。立て続けに2本目、3本目が飛んでくるがヒカルは風の障壁魔道具をリクの周囲に展開すると、襲撃してきた胴着を着ている男たちに向かっていく。
霊視官の護衛官という仕事柄、襲撃という名の訓練は組合でも数度あったがヒカルにとって組合外での訓練は初めてだ。そのためか、いつも以上に緊張感がある顔つきをしていた。
なお、襲撃自体の予告は道場に向かう旨を報告した段階であったので、ヒカルの動きは前に書いた襲撃時より遥かに良い。
閑話休題。
ヒカルの『自己加速』の速さにさすがに驚いたのか、1人目はすぐに『発頸』で殴り倒すことができたが、2人目はそれを避けるとヒカルにカウンターを狙ってくる。
そこに3人目までも襲撃してきたので、さすがに不味いと思ってヒカルは引いてリクの守りを固める・・・つもりだった。
「『結界』っ!」
そこに仕掛けられたのは結界の魔道具による捕縛式の罠。ヒカルは瞬時にそれを判断すると、『飛行』で結界の範囲から離脱。体勢を立て直した。
瞬間、ヒカルは自分の護衛が失敗したことを悟った。ヒカルに気配を悟らせずに、1人の男が障壁を破ってリクに手刀を振り下ろしていたのだ。
「ふむ。能力はなかなか。伸びしろもありそうじゃな。しかし典型的な経験不足。護衛としては落第点じゃな」
「まあ、今年の五月に気功師になったばかりですから。おおめに見てやってくださいよ、キリク師範」
リクが男の手刀を防ぎ、風魔法でカウンターを仕掛けながら言った。
「ほう・・・それは確かになかなか。しかし、現時点でのリク。お前の護衛には不合格じゃろうて。だから敵がスキありと襲ってくるのだはないかな?リク」
しかし男は簡単そうにそれを手で打ち消した。いや、『簡単そう』ではなく、本当に簡単なのだろう。
「ま、それも加味して雇いましたから。伸びしろへの期待と、言ってしまえば隙を見せて馬鹿どもを誘う狙いですね」
その回答に不機嫌になりながら男は回し蹴りを放つ。
「ふむ、わかっているならそれでいいが・・・その危険に周囲のクラスメイトや知り合いを巻き込むのはいただけんな」
「大丈夫ですよ。彼らはそれほどやわではないですし・・・まあ、相手があそこまで馬鹿だと思っていなかったので、さすがに失敗したことは認めますがね。いざとなればバカ師匠動かしますよ。今のところ、この町は俺が見ているから大丈夫です」
リクは男の蹴りを避け、足払いをかけるが簡単に避けられた。そこに『エアバレット』を放つが、男は空中で身体技術だけでそれを避け、リクに拳を放った。リクはその拳を掌で受け、膠着状態へと持ち込む。
普通ならリクが簡単に力負けするところだが、リクは手の甲に風の障壁魔法をはり、押し負けないようにしているのだ。
「・・・・アレか。アレをあてにするのは腹立たしいが、それも仕方なかろう。まあ、わかったうえで子供を危険に合わせようとするのであれば・・・わかっているな?」
「わかっていますよ。そこまで馬鹿じゃありあせん」
リクと男はそこでようやく離れた。
「相変わらず恐ろしい才能よの。ワシを相手にしながら護衛が不利と見れば、そちらの援護もし、周囲を牽制し続けるとは」
「キリク師範が本気なら、その余裕もありませんよ」
キリクとリクが呼んだ男性はあきれながら言ったが、リクはそれに笑いながら返した。
「ふむ。そこまでだ!護衛の・・・確かヒカルさんといったか?悪かったな、試すような真似をして」
キリクの声でヒカルと、おそらくキリクの門下生であろう生徒たちの戦闘の方もひと段落着いた。さすがのヒカルも本気で修錬している複数の相手に戦うのはきつかったのであろう、肩で息をしていた。
「い・・・いえ。これも経験ですから・・・」
「ホウ・・・なかなかの胆力。さすが伸びしろと性格だけでリクの護衛に選ばれることはあるものよ」
「はい・・・」
ヒカルは悔しそうに顔をゆがませながらも、キリクの言葉に応えた。ヒカルは今回の戦いで文字通り何もできなかったからだ。1人倒したとはいえ、護衛の本分は相手を倒すことではなく、護衛対象を守ることだ。護衛としては失格と言える。
無論、リクがヒカルに協力して動けばまた形も変わっただろうが、リクは基本、訓練とわかっているときはヒカルに手を出さない。それは信用しているから・・・ではなく、単純にヒカルの訓練のためである。
もっとも、リクがそういう態度をとるからこそ、ヒカルも早く強くなるために護衛訓練ではなく戦闘訓練を多くしがちなので(間違っているわけではない。襲撃する側のセオリーを知らないと、護衛もしようがないからだ)、一概にヒカルの責任とは言えないのだが。
「まあ、とりあえずここまでにしましょう。詳しい話はまた後で」
「うむ。では鍛錬に入るとするかの」
リクとヒカル、そしてキリクとその門下生は再び道場へと向かうのであった。




