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平々凡々に暮らしたい~異世界転生を300回繰り返した結果~  作者: 活字中毒者
ハジマリの霊視官
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リクとリサの不満の原因





 ペコリ。舞台に上がり、頭を下げるとリクは挨拶もせず、観客が静かになるのを待たずに演奏を開始する。


((俺の!私の!俺たちの!!音楽を聞け!))


 イントロから全開でとにかく自分の音楽を全力で聞かせる。そうして一気に観客をリクたちの音楽に引きこむ。それがリクの、いやリク『たち』のやり方だ。


 リクたちにとって演奏とは、リクたちと観客の戦いだ。詰まらなければ叩かれ敵が増え、面白ければ見方が増える。それは時としてリクの人生の行く末を左右したこともある。ゆえに、リクは公の場で演奏をする時は、常に全力なのだ。


 また、リクとリサはミュージシャンとして知名度が無い。ならば一発目。全力で彼らを虜にして盛り上げていくしかない。


 リクとリサは、ミュージシャンになったことが結構な回数ある。リサが自分の実力を磨くためにと人生をかけて音楽に没頭したことがあるのだ。


 うるさい外野は実力で黙らせる。全力で、今自分たちにできる最高のサウンドを観客に届ける。ライブの主役はリクじゃない。リクと1年A組のクラスメイト達を含めた観客全員だ。リクが全力で音楽に没頭するからこそ、観客たちも引き込まれ共感するのだ。


 それがリクとリサの持つ共通のプロ意識だ。


 リクが演奏している曲目は今大ヒット上映中の映画。その主題歌である。ありきたりの青春もの。青臭いとの批判もあるが、若年層を中心に評判が広まり、今ではアンチ側が叩かれているほど人気の映画。その主題歌をリクはリサと演奏していた。


 リクが演奏し、リサが魔法でそれを補助する。あるいはリサに体のすべてをゆだね、リクが補佐をする。


 ギターは流し込む思念波の波長により、文字通り七色の音色を奏で始める。確かな思念波のコントロール技術と、体を操る演奏技術。この世界でギターお演奏するにはその両方が必要で、この世界の弦楽器は管楽器の5倍は難しいとされている。


 左手から流す水の波長の思念波とそれをはじく右手の風の思念波。あるいはそれは土と風かもしれないし、水と火かもしれない。その無数の組み合わせによって変化する音の音色。


 加えて、流す思念波も荒々しい水の波長なのか、静かな湖の水の波長なのか。どっしりと支える土の波長なのか、それとも生命をはぐくむ活力ある土の波長なのか。


 それを演奏家は楽譜の示す通りに、楽譜の書いていないところは自分なりに解釈して、演奏しなくてはならない。


 そしてリクの『声』もそうだ。風魔法の1つ、『変声魔法』――子供たちが子供のころから遊びで使う魔法の1つだが、その用途はかなり広く、裏稼業で極めているものもいるといわれている。リクはそれを用いて完璧に実際に歌っている歌手の声を歌って魅せた。


 時には『土』の思念波でどっしりと、盛り上がるところでは『火』の思念波で猛々しく、『水』の思念波で静寂を際立たせ、『風』の思念波で颯爽と曲に込められた思いを観客に届ける。


 そして二回目のAメロ。気が付けばリクの演奏に惹きこまれていた生徒たち。彼らはそこで、少し違和感に気が付いた。リクの演奏しているメロディがもともとの曲と変わり始めたのだ。


 リクとリサによる編曲が即興で始まったのだ。


 もともとリクたちもその映画を当然見ていたが、数多の世界の芸術を知るリクとリサである。


 当然「こうした方がいいのではないか?」とか、「絶対ああした方がいい曲になる!」という感想が出る。それをもとにリサが元々の曲を仕立て直し、新しい曲として生まれ変わらせているのだ。


 もはや原曲とは全く違う、原曲以上の音楽をリクとリサは構築し始めていた。


 そしてもう1つ、リクの魔法が発動する。リクとリサのオリジナル魔法、『サウンドエフェクト』――


 この世界では魔法と合わせて電子機器もある程度発達しているが、先に便利な魔法が広まった弊害か、電子機器による音の編集という技術がない。正確にはあるのだが機器の価格が高く、普及していない。


 それも当然だろう、魔法で結構簡単に音をいじれるのに、一々面倒な電子機器を作成する理由もない。そういう意味ではこの世界の音楽は、地球のものより遅れていた。


 少し脱線したが、話を『サウンドエフェクト』に戻そうと思う。リクの『オリジナル魔法』といったが、正確にはどの世界にも、原理が簡単なこともあり、結構似たような魔法はある。当然リクの今いる世界にもある。


 しかし、ある程度魔道具によって補助できるとはいえ、素質とセンスが問われる魔法であり、練度はピンからキリまで様々だ。


 そして同系統の魔法において、リクの右に出るものはいない。そういう自信が、リク、そしてリサにはある。事実、金がなく、生活環境が厳しい世界においても魔法技能さえあれば使える魔法だ。彼らは娯楽がない世界でもずっと練習していたのだ。


 高々数十年しか練習していないこの世界の住人が敵うはずもない。(もっとも、その使われ方はつまらない授業中のBGMであることが多く、少し悲しい使用法だがそれはこの際置いておく)


 ゆえにリクは(というか、芸術関係においてはプライドが高いリサが)練度の低い魔法と自分が使う『芸術魔法』(リサがこれまた名付けた芸術用の魔法たち)を区別し、既存の魔法名『操音』とは別の名前で呼んでいるのだ。


 そして今。数多の世界の芸術に触れてきたリクとリサの実力がいかんなく発揮されていた。文字通り『超』一流と言っていいギターの演奏に、『変声魔法』で本物と聞き間違えるほどの歌が重なり合う。


 そしてリクしか使い手のいない(というか名前を知られていない)『サウンドエフェクト』――それらによって生み出される最高のサウンド。最高のハーモニー。観客は一瞬たりとも聞き逃すまいと静まり返っていた。


 ようやく1曲目が終わった。


 しかし、拍手はなかった。もはや異次元の演奏にどう対応すればいいのかわからなかったのだ。霊視をすれば彼らが感動していることは確かにわかるのだが、それでも無反応というのは音楽家として悲しいものがある。


 しかたなく、リクは口を開くことにした。


「みなさん、盛り上がっていますかー!」


「「「「「お、おお」」」」」


 一部の生徒たちがようやく再起動したのか、戸惑いながらも声を出した。しかし、それはリクの求めるものではなかった。


 最高の音楽は、最高の聴衆がいて成立する。それがリクとリサのモットーだ。


なのでリクはもう一度聞いた。


「んー、皆さんあまり元気がないですね。みんなキサラギ祭で疲れちゃいましたかね。ですが、キサラギ祭もまだまだこれから!後夜祭が残っていますよ!それではももう一回!皆さん、盛り上がっていますかー!」


「「「「「「「「「「「「「「「「おお!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」


「いいですねー!ようやく会場も温まってきましたね。では、改めまして。1年A組のリクです。先ほどお送りしました曲は映画『キミと見た夢』でお馴染み、『メモリー』でした。そのまま歌ってもつまらないかなー、っと思い自分なりにアレンジして歌ってみましたが、いかがだったでしょうか」


「よかったぞー!」


「すごかった・・・・」


「さすがリクだぜ!」


 未だに感動して何も言えない生徒もいたが1年A組の生徒たちは、リクの異常さにも慣れてきたのか現実に戻ってくるのが早かった。


「はい、ありがとうございます。私は一年生。しかも初出場ですし、ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、キサラギ祭の伝統企画『ミュージックフェス』にエントリーしていません。


しかし、1年A組の喫茶店で少し演奏する機会がありまして、演奏したところ、ありがたいことに2位に入りました。皆さん、ありがとうございます!


それでも少し皆さんに受け入れられるかなーと不安だったのですが、楽しんでいただけたようでなによりです」


『芸』は他の『知』『戦』『食』『医』に比べると役に立たないと思われるかもしれないが、実のところ普通の日常生活を送る上では『食』についで役に立つ。問題が起こった時に周囲の空気を換えるのにも一役買う。


なによりただ力があるだけでは人間はリクのことを畏れるが、自身の芸術性を見せつけることにより、文化的で理知的な側面も持つ人間であると示すことができる。この影響力はかなり大きい。


 現にリクの演奏を聞いた生徒たちの半数以上がリクに対する隔意を失いつつあった。


 リクはそのことを確認しながら話を続ける。


「さて、挨拶もこの辺にしまして、2曲目の方へと移らせていただきたいかと思います。と、いいましても、いきなりだったので1曲目の曲目は皆さんが知っている歌ということで決めたのですが、2曲目は決まっていません!」


 ざわざわとリクの言葉に魔法実習室がざわめいた。今更だが、魔法実習室は魔法の訓練を行う都合上、学内の施設で一番広いため、そこで演奏が行われていた。


「そこで!今回は皆様方と一緒に盛り上げていこうと思いまして歌ってほしい曲を募集したいと思います」


「マジか!」


「レパートリーどんだけあるんだよ。さすがに冗談だろ?」


「適当に、有名どころ言ってくれるの待っているんじゃね?」


 リクの自信にさすがに嫌気を覚えたのか、元からリクに反感を持っていた一部の生徒を皮切りに、リクのことを良く知らない生徒たちがリクを批判する。そんな中、リクに最初から強い敵意を持っていた男子生徒が言った。ミュージックフェスで3位だった生徒だ。


「『ラック&リック』の『雷鳴』」


「はい?」


「だから『ラック&リック』の『雷鳴』を歌えって言っているんだよ。歌えるもんならな」


(予想通り、来たね)


(ええ、リサ。予定通りに)


(私は自分の実力を発揮するだけです。ミオ姉さま)


 リクたちの予想通りに彼らはリクに喧嘩腰で難題を突き付けた。


『ラック&リック』の『雷鳴』――それは今から5年ほど前の曲であり、現代でもその曲のカッコよさと、ほとんどの演奏家が上手く演奏できないという難度もあわせて(テンポを落としたりすれば演奏できるものはそこそこいる)、かなり有名な曲である。


 地球でいうところの『R〇D』の『〇しゃかさま』の難度をさらに上げた感じの曲である。(なお曲調も似ている)リクの演奏に感動していた他の生徒たちが、リクに喧嘩腰で話しかけた生徒に「空気を読めよ」と苛立って、反論しようとする前にリクは言った。


「いいチョイスですね。今のキサラギ祭を盛り上げるにふさわしい曲だと俺も思います。ではお聞きください。『ラック&リック』で『雷鳴』――少しばかりアレンジしてお送りしたいと思います」


 一部の生徒はあっけにとられた。まさか明らかにケンカ腰のバカが言った選曲をそのまま受け入れるは思っていなかったのだ。


 要するに素人目にも難しい楽曲なのだ。


 一方で、一部の生徒はリクならまた素晴らしいサウンドを奏でてくれると期待していた。


 そして最後に、リクに喧嘩を売った生徒はフンと小ばかにしたように笑ったがリクはそれには取り合わずに演奏を始める。


『芸術関係で面倒な相手は実力で黙らせるに限る』――それがリクとリサのモットーである。


 イントロの超絶技巧のギターを完璧に弾きつつ、リクはもう1つの魔法を発動させる。『サウンドメイカー』――文字通り音を作る風魔法だ。


 この世界では魔法技術を使わない楽器だからと馬鹿にされがちな打楽器、ドラムの音を『雷鳴』に足すことで、音に一段の厚みを持たせたのだ。


 魔法のある世界でよくありがちなことなのだが、伝統ある分野であればあるほど、魔法を使用しない技術を馬鹿にしがちである。


 音楽の世界でいうと、パーカッションやドラム。そう言ったパートがこれにあたる。


 例えば手で太鼓をたたくときは、手に纏わす思念波によって音を変化させる。そういう技術は、確かにある。


 しかし、スティックなどを通すと思念波のコントロールが難しくなり、魔法で音を変えることが難しい。


 そのため、スティックなどを使った演奏方法では魔法が用いられることが少なく、できても良い音がならないとされているので邪道とされているのだ。


 ゆえに、弦楽器では明らかに地球の技術より進んでいるが、打楽器の分野はこの世界では明らかにおくれている。


 だからこそ、だからこそドラムの音を再現したリクの『サウンドメイカー』で奏でられた音は、衝撃と、そして強い感動をもって受け止められた。


(んー!やっぱり打楽器のサウンドが入ると最高だわ!)


(ええ、打楽器が邪道などバカの言うことです。それをこの機会に証明してみせましょう)


 この世界ではあまり一般的でないドラム、それによりリズム感と迫力が増す音楽、ところどころに入るこの世界では存在しない楽器、ピアノの音色。リクとリサのアレンジが『雷鳴』をさらに高みへと引き上げる。


 音楽は自由で、最高だ。バカげたしきたりなんて音楽にはふさわしくない。そんなことがこの演奏で伝わればいいなと思いながら、リクとリサは演奏を続ける。


 気が付けば観客たちは自然と体でリズムを取り始めていた。一部の生徒が拍手でリズムを取り始めたのを皮切りに、観客の生徒全員が拍手でリズムを作りリクの奏でる音楽と一体となる。


 そして、観客たちは、リクの全く新しい『雷鳴』に、『雷鳴』以上に『雷鳴』らしい、もはや完全に新しい曲に、魅了され、聞き惚れているのであった。






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