気功師への対処法
本日二話目
「なるほど・・・だから気功師にしか気功術が使えないのか・・・」
「ええ、言ってしまえば、『本来ならそれぞれの属性魔法の魔力波長に合わせて思念波をコントロールするはずの脳の特定の器官に生じた機能不全』が原因ですから。
もっとも症例としては1例ですし、ヒカルの・・・失礼。ヒカルさんのことしか見たことはありませんし、あくまで霊視官の間でそう伝わっているというだけです。なので、もしかしたら昔の気功師の事例は、ヒカルは全く違う可能性もありますが・・・」
「それについては比較のしようがないからしかたがない。なるほど、霊視官から受ける授業というのは詳しいことまでわかって面白いものだな・・・他に質問があるものはいるか?」
「さすがに負けっぱなしじゃ悔しいから聞くんだけどよ・・・あの話で出てきた『ハッケイ』ってやつ?あれはどうやったら防げるんだ?」
先ほどヒカルにコテンパンに伸された男子生徒が言った。
「ああ、あれか。完全な対策は難しいのだけど・・・そうだな。1つは単純に体を鍛えて筋肉の鎧をつけてダメージを減らすこと。もう1つは、それと同じだけど体を鍛える過程で『身体強化』も強化して、霊体を強化しダメージを減らすこと」
「・・・・対処療法しかねえじゃん。それもダメージを減らすだけだし。なんかこう、完全に無効化する方法はないのかよ?」
「・・・ふむ。難しいけど無くはない。ヒカル、全力で俺に殴りかかってきて」
不満そうな生徒に対し、リクは少し考えてから実例を見せることにした。
「えっ?全力でって『発頸』も使用して?」
「うん」
「もしかして・・私舐められているのかしら?」
「まあね。今のヒカルなら、無傷で取り押さえる自信が俺にはあるよ?」
「へえ、言うじゃないっ!」
返答と同時に、どこか面白そうな顔をしていたヒカルは、リクに向かって『自己加速』――その後『発頸』を利用して殴りかかった。
しかし、リクは合気道の要領で(戦闘能力が弱かった過去の霊視官や魔法師が編み出した技術。今では健康のために訓練しているもの好きもいて、そこそこの知名度がある)あっさりと抑え込んだ。
「なっ!」
「げえっ!」
「マジで!」
「あんなにあっさり」
言葉は違うがクラスメイト達は口々に驚きの声を上げた。
もっとも一番驚いていたのはヒカル自身であろう。
「へっ?」
っと、間抜けた声を上げた後、ようやく自分の現状に気が付いたようである。
「っと、まあ。これがその対処法の一例です。要は、くらったら耐えられないのであれば、くらわなければいい。強固な結界でも、物量で押すもよし。あるいは私のように合気道で抑え込むもよし。
気功師は単純に力押しで相手を殴り倒すこと可能なので、攻撃は直線的なことが多かった、と記録にはあります。今のヒカルもそうですね。悪名高い気功師をとらえたのは優れた武闘家が多かった、というのも武闘家の間では結構有名です。
なので、合気道などの武術を訓練するなり、私のように霊視で先読みしたりして躱してから抑え込めば結構簡単に勝つことはできます。
まあ、やっぱりある程度の熟練度が必要ですし、同じレベルまで武術を鍛えた気功師には一切通用しませんが・・・当然、ヒカル。お前にも後で俺が習った道場で覚えてもらう」
「わかったわ・・・」
ヒカルは悔しそうに言った。
「ムウ、確かにな・・・」
「理論上はそうだけどよ・・」
「何年かかるんだよ!」
「スゴ・・・」
どうやらクラスメイト達や教師はヒカル以上にリクの体術に驚いていたらしい。口々に感想を言い合い、騒いでいる。
「ま、気功術の話はこの辺で置いときましょう。次は霊医の技術の話ですね。これは簡単なものも多いですし、知っておくだけでいざというとき役に立つものも多いので皆さん覚えておいて損はないです。
ただし、くれぐれも緊急時以外は実践しないでください。あなたたちがやらなくては患者が死ぬ、とかそういう場合を除いて素人が下手にやると状態を悪化させます。難しいものはプロに任せましょう。では、まず・・・・・
淡々と、それでいて興味を引くようなリクの授業はおおむね好評であった。
もちろんAクラスの面々が勤勉だったということもあるし(そもそもAランクの魔法師で精神的に不安定または攻撃的な生徒は、周囲にも悪影響を与えやすいので別クラスである)、第一級霊視官からみた『気功師』や『霊医』の技術というのは金がとれる講義内容であることもあって、Aクラスの生徒たちだけではなく、実技の教師もまじめに聞いていた。
『霊体』に干渉する『霊医』の技術、というのは一般的な魔法師にしてみれば、「よくわからないけど昔からこうしているし、そうすると効くから」という経験論や統計学に基づくものが多い。
統計的には効果があることが証明されているが(というか統計的に効かないとわかった療法は排除されて行っているが)、理論的にはよくわかっていな部分が多くある。というのが実情なのだ。
無論リクも一般的にわかっていることしか話すつもりはないが、それでもリクの知識はヒノモト最高峰ともいわれる組合の霊視官たちの技術であり、理論だ。彼らは一般的に人間嫌いで、論文を出して終わり。質疑応答には応じない。
最悪の場合論文すら面倒くさくて出さない(それでも生活できるため)ものが多いため、霊視官たちにとっては当たり前の理論や技術でも、一般人からしてみれば普通じゃないものも多い。
さらに質問しようにも答えてくれないことも多い・・・というか嫉妬した研究者が馬鹿な質問をした結果、2度と質疑応答しなくなる霊視官が結構いるのだ。
なにより霊視官の方も、一般の人では理解できない感覚を説明しなくてはならないので、難度が高く、諦めるものが多いのだ・・・そのためリクの講義は実のところかなり価値があるものである。
それに気が付いたハクや一部の優秀な生徒たちがすごい勢いでメモを取っているので、リクも簡単に話を終わらすわけにもいかなくなり、なぜか対外的に実力を示し、外部の干渉を防ぐ目的だったはずの実技演習は、授業終了時間まで(実技の授業は2限分で長い)リクは話し続けることになるのだった。




