スカイボールオタク
ただの転校生の編入と生徒のランクの上昇においては異例のことだが、リクのAクラスへのランク移動と転校生の話。それに霊視官補佐から霊視官への昇格の話は、校長の口から、急遽開かれることが決まった全校集会で伝えられた。
もっとも未成年の霊視官というだけで異例のことだし、しかも第一級霊視官。それに伴う学校の警備状況の変化。などなど、生徒たちにもかかわることが盛りだくさんだったのである意味当然の対応かもしれない。
なによりランクの上昇の件や特例で霊視官へと昇格した経緯、気功師であるヒカルが護衛になったことなどを事実として校長が言ってくれたのは後々のことを考えるとかなりありがたかった。
おそらくは組合の方から、変な憶測でリクに対して隔意を持つ生徒が増えてリクに影響を与えないようにという意図で要請があったのだろうが、自分で説明することが減ってなによりだった。
もっとも霊視官として若干恐れられるであろうリクよりも、今日一緒に登校していた護衛のヒカルや、友人のミクやタケルの方がホッとしていた。変な憶測が流れて実際に質問攻めにされるであろうは、どちらかというと彼らの方だからだ。
しかし彼らへの質問が減ったわけではない。とくにCクラスで広報部員としてもよく知られており、親しみやすいミクへの質問は多かった。具体的に言うと、いつも元気なミクが休憩時間ごとにリクのところに逃げてくるぐらいに。
「いやー、さすがにここまでとは・・・ちょっと舐めていたかな?」
「これに懲りたら俺をやり玉に挙げるのはやめろ。どんな気持ちか分かっただろ」
「いやー、もうこれなら私が騒ぐまでもないっしょ」
「ぐっ」
リクはスカイボールの件を思い出してミクに抗議をしたが、純然たる事実に黙らざるを得なかった。
「確かに。これは大ニュースではあるけど、ちょっと気分わりイな。先輩方までチラチラ見に来ているぜ。さすがに凝視はしてこないけどよ」
「これが高学年だったら別だったんでしょうけどね」
「あ~、あまりにも酷いようだったら遮断フィルタ俺のやつ貸すから言えよ?」
「「「いや、っていうかアンタが平気な顔をしているのがおかしい」」」
「そうか?まあ、この手のことは初めてじゃないし。無責任な外野なんてこんなもんだろ。慣れだよ慣れ」
リクがそう言うと、周囲の野次馬は一瞬静かになった。いい加減リクもイラついていたということだ。もっとも今度はひそひそ声で会話する人たちが一気に増えたが・・・
「いや・・お前すげえな」
「すごいというより、図太いだけじゃないかしら?」
「ヒカルちゃんに一票」
3人が呆れかえっているのを横目に見ながら、リクはその場にいないはずの人を見つけた。スカイボール部の部長。ジンである。
リクはジンと確かに一緒のチームでスカイボールの校内対抗練習試合を戦ったが、逆に言うとそれだけだ。何事かと訝しんでいると、周囲もキサラギ第一高校の看板と言ってもいいジンがいることに気が付いたのか、一気に静かになり、道を開けた。
「よお、リク。なんか大変そうだな」
「ええ、まあ。みての通りです」
「おはようございます。ジン先輩」
立ち上がって挨拶をするタケルに手を上げて応じると、ジンは真剣な瞳でリクを見た。
「うむ。実はリクに用事があってな。実習の授業に行くついでに近くを通ったのでついでに来たのだ。時間はとらせん」
「別にいいですけど、どうしたんですか?」
キサラギ第一高校の今代のスカイボール部の英雄と言っていい存在に周囲の人間もリクも戸惑っていた。
「うむ。実はなリクが第一級霊視官と聞いて確認したいことができたのよ。それでいてもたってもいられずにな」
「はあ」
周囲のことも気にせず、なかなか本題に入らないジンにリクは少し呆れた。どうもこの先輩はかなりマイペースな人らしい。
「リク。お前が前回スカイボール部の対抗試合で見せた動き。あれはお前の高い霊視能力が関わっていたのではないか?」
「ハア?!・・いえ、失礼。確かにジン先輩の言う通りですが」
ここにきて、ここまで注目を集めておいてスカイボールの話か!どれだけスカイボールオタクなのか!リクはそう思ったがさすがに先輩に面と向かって言える内容ではないので、呆れながらもとりあえず質問に答えた。
「なるほど、やはりそうか。予想はつくが具体的にはどうやった。よかったら教えてくれないか」
「いや、別に隠すほどのこともないので良いのですが・・・ジン先輩が言いたいのは俺の初動の速さの話ですよね?」
「うむ」
「それなら単純に相手の思念波の動きを見て、次の動きを予測して、その逆を突くように動いていっただけです。フェイントでもなんでもない、おそらく2級以上の霊視官ならだれでもできる単純な技術です。
低位の霊視官でも同レベルとは言わないまでも、真似事はできるでしょうし、たぶん一流の選手も無意識にしていることだとは思いますけどね」
「なるほど・・・やはりそうか。いやなに。あの時のリクの動きは尋常じゃなかったからな。俺も結構いっぱいいっぱいでパスを受けていたのよ」
ザワリ。空気がどよめいた。スカイボールのエースが、この学校の看板選手が、リクの動きについていくのにいっぱいいっぱいであったといったのだ。周囲の、特にスカイボール部員はリクに対して嫉妬の視線を送ったが、これは仕方がないことと言えるだろう。
「なるほどなぁ・・・そうか、霊視能力か・・・」
ぶつぶつと呟くジンは何事か考えているようで、まだ帰る様子がない。
「すまない。2つ目だ。霊視能力はどうやったら鍛えられるのだ?『放出』は実際に魔法を訓練すればいいし『身体強化』は体を動かせばいいと言われているが『霊視』に関してはどうも感覚的でよくわからんのだ」
「スカイボールで強くなるために霊視能力を鍛えるのですか?」
「む?何か変か?鍛えれば相手の動きが読めるのだろう?スカイボールでもっと強くなるために重要な技術じゃないか」
「い、いえ(すげえなこの人・・・)」
リクは本心からそう思った。ヒカルの目も、ミクの目も驚愕に見開かれていた。ただ1人、タケルだけがジンの思いを理解できたのか、真剣な目でリクのことを見つめていた。
「えっとですね、単純に霊視能力を鍛えたいのであれば訓練用の教材があるにはあるのですが・・・」
「ふむ、ならそれをやればいいのか?」
「いえ。おそらくジン先輩が求めるような効果は得られないかと。残留思念や物質が放つ魔力波を見分けられても、常に変動し続ける『ヒト』の思念波を、それも相手の動きを予想するレベルで見分けるのは、ほとんど別物ですから」
「道理だな。ではどうすればいい」
「それを説明する前に、いくつか確認したいのですが、幼少期の子供は大人より霊視能力に優れていることはご存知ですか?」
「まあ、一般常識だからな」
「ではその理由は?」
「む・・・確か周囲の人々の感情から自身の心を守るため・・・だったか?」
「ええ、そうです。霊視能力というのは実のところ、優れていれば相手の動きを先読みできる・・・ということからもわかる通り、非常に自然界で生きていくうえで有用な能力なんですよ。
一般的な野生動物は普通の人間の2倍から3倍の霊視能力をもっている・・・ともいわれますしね。にもかかわらず人間は大人になるにつれて霊視能力が低下する。それは何故でしょう」
「・・・人間が社会で生きる生き物だから、からか?」
ジンは少し悩んでから言った。
「ええ、先ほどの話とは相反するようですが、生きるうえでの生存本能が、自分の心を守るために、社会で生きるために、霊視能力を『封印』させるのです」
「なるほど・・・見えてきたぞ。難しい話は置いといて、封印ということは消えてはいない。そういうことだな?」
「ええ。生きていくうちに、社会で生活するうちに必要ない。人間の脳がそう判断するわけです。実際平和な世の中になればなるほど、外部からの危険が少ない地域であればあるほど、霊視能力の平均値が下がっている。そういうデータもありますしね」
「なるほど。ここまでが前置きだな?では、本題だ。どうすれば霊視能力は上がる?お前の言い方でいうと『封印が解ける』んだ?」
「簡単な話です。社会で生きるうえで、ある程度心を守る必要にかられ、霊視能力は低下する。ならば・・・」
「『心を守る必要がないくらい強くすればいい』、か?」
「ええ、まあ。具体的にどうすればいいかはわかりませんよ?自分は別に心が強いわけではなくて、単純に防衛本能がちゃんと働かずに霊視能力が低下しなかっただけの凡人ですから」
ジンは悩まし気な表情が一変、呆気にとられたような顔になると、次の瞬間彼は笑い始めた。
「アッハッハッハ。お前が防衛本能の低い、心の弱い凡人だと?冗談を言うな。リク!お前ほどのやつがそんなわけなかろうが!」
アッハッハと笑い続けるジンに、リクは嫌そうな表情を隠そうともせず言った。
「俺はどこにでもいる一般人ですよ。たまたま霊視能力が低下しなかっただけです」
「アッハッハ・・・ハア。フウ。落ち着いた。言わせてもらうがリク。お前が凡人だったらこの世に天才はいないだろうよ」
「だな」
「うん」
「そうね」
「ホレ見ろ。お前のことをよく知る友達もそう言っているじゃないか。お前の心は強い。確実にな」
リクはとっさに反論しようとしたが、思わぬ伏兵(タケル達)になにも言えなかった。
「だいたい心の弱い奴が、実質スカイボール部全員から売られたような喧嘩を買うか!普通キレた上で、全力プレイで相手チームだけじゃなく自分のチームもぶちのめすなんてマネはせんし、できん!」
「・・・」
断言されてはなにも言い返せず、リクは憮然とした表情で黙っていた。その様子にさらにジンはおかしそうに笑った。
「クックック。まあ、いい。要は心を鍛えればいいわけだ。さてどうしたもんかね」
「知りませんよ、そんなこと。自信が付くまで、絶対勝てるっていうぐらいまで死ぬ気で練習すればいいんじゃないですかね?」
若干言葉が崩れたがリクもジンも気にしなかった。
「なるほどな。心が強くなるまで死ぬ気で自分を鍛える、か。確かにその通りかもしれん。楽な道はない、ということか・・・面白い」
ジンはさっきの笑みとは違う、挑戦的な、そして好戦的な笑みを浮かべた。
「あ・・・・これは不味いかも・・・」
タケルはそう言ったが、自分自身もジンと同じ表情をしていることに彼は気が付いていない。
「おう!タケル!後でみんなに伝えとけ!今日からさらに厳しく、死ぬ気で練習するってな。ドロップアウトも気にせず、ヤルぞ」
ドロップアウトとは文字通り、スカイボール部から退部する部員のことだ。その言葉に周囲のスカイボール部員たちは顔を青ざめたが、タケルだけは笑っていた。
「了解です。死ぬ気で、ですね」
「ああ、本気で『死ぬほど』だ。やめたい奴は気にせず辞めさせる。強くなるためだ。ついて来いよ」
「なんなら追い越してみせますよ、俺は」
ニヤリと笑いながら2人は会話を終えた。この日からリクに気に入らないという視線をおくるスカイボール部員はいなくなり、代わりにあの2人をなんとかしてくれという救いを求める部員が増えるのだが、リクは当然のごとくそれを聞き流すのであった。
「いや、だって俺のせいじゃないし・・どうしようもないし・・・」
さすがに気まずそうにリクは言ったが、この一件のおかげか、驚くほどリクに対して隔意を持つものは少なくなったのであった。その理由は単純に心が読めるであろうリクより恐ろしい存在が身近にいるから、かもしれない。




