リクの憂鬱な理由
本日二話目
文章量的にこれで最後にします。
次の話がそこそこ長いので・・・
月曜日、キサラギ第一高校は土日以上のざわめきと、興奮。そして少しばかりの不安で満ちていた。その原因が今日の朝のニュースが原因であるのは、生徒たちのざわめきからも明らかであった。
「ウソ!」
「マジで?俺リクに結構キッツいこととか言っちゃったんだけど。大丈夫かな」
「大丈夫だろ、別に・・・おそらく、たぶん」
「多分っていうなよ!」
というリクに関するものから・・・
「転校生か~、TVでは結構美人だったよね」
「でも魔法使えないって聞いたけど?」
「え?なにそれ護衛なんだからありえないっしょ」
「いや、それが私のいとこが彼女の転校前の学校に通っているんだけど、いきなり魔法が使えなくなる奇病にかかっちゃったんだって」
「ウソ、なにそれ?え?うつったりしないよね?!」
「いや普通に考えて、そんな奇病持ち霊視官のそれも一級の護衛にしないから別人でしょ」
「え~、でも確かにそう言っていたんだけどなぁ」
というヒカルに関するものまで様々だ。
「いや~、注目の的だねヒカルちゃん!リク!」
「確かにな。一緒に登校するだけでちょっと視線がうっとうしいぜ」
「はあ。だるい」
「リク。大丈夫?遮断フィルタ使った方が・・・」
「お?まるで良き妻のようだね」
「違うわよ。単純にこいつの体調管理も護衛の役目に入っているのよ」
ヒカルもミクの扱いには慣れたのか、からかうようなミクに対して、最初は取り乱していたが、今では軽く流している。
今日リクが、(ヒカルは置いといて)珍しくタケルやミクと一緒に登校しているのはたまたま登校中にあったから・・・では当然なく、面倒ごとを避けるためである。
第一級霊視官になってから(それが霊視官にとっての常識とは言え)、いきなり女連れで登校するのはさすがに社会的に外聞が悪すぎる。
そう思って歓迎会のパーティー料理を全てリクが作った対価に、二人に一緒に登校することを求めたのだ。文字通り、面倒ごとを避けるためでもあるし、周囲の人々からの思念波にたいする防波堤の役割もある。
簡単に言うと、単純に近くの人の思念波は減衰が少なく、周囲の雑念の多い思念波をある程度打ち消してくれるということだ。ゆえに霊視官は仲の良い人に、外出時に一緒にいることを頼むことが多い。
もっとも彼らは友達の霊視官に頼むことが多いので、結局は仲間内でしか活動しないことが多い。霊視官が秘密主義で外部の人間には冷たいと言われるゆえんである。
「別にこの程度、大したことではないけど・・・面倒くさいなぁ」
「大したことないって・・・霊視能力が低い私ですら・・・いやいいわ。アンタが化け物時見ていたのは前からだったし、今更よね。でも本当にしっかりしてよ?少なくとも実技の授業ではいいとこ見せなくちゃいけないんだから」
「それがいっそう嫌なんだよね」
リクの護衛がヒカル1人なのはリクの戦闘能力がランクに対してずば抜けて高いから・・であるのは事実であるし、ヒカルの実力を加味してのことでもある。無論、(霊視官に与える影響を加味すると)護衛の適任者がいないというのも事実である。
しかし、特例で「もはや霊視能力が落ちようがないほど優れているから」という評価をされたリクになら、どんな護衛であってもいいのではないか、と言い出す馬鹿が出てくることは目に見えている。というかすでにそういうバカがいる。
だからこそ魔法の実技実習でリクとヒカルは自身の実力を見せなくてはならない。それも外部の人間に下手な護衛など必要ないと言わせるほど圧倒的な実力を見せなくてはならないのだ。それはつまりクラスメイト達をボコボコにしなくてはならないということでもある。
何度か述べているが、リクの魔法師としての才能は現状では高くない。保護法によって『霊視』の成績が秘匿され、嘘の情報になっていたためCランクであったリクだが、リク本人も自身の実力はCランク程度だと自覚している。
(ただ、これはケンによるサポートを受けず、既存の魔法技術のみで戦った場合の話だ)
リクは『霊視』の能力こそ高いが、『身体強化』は少し普通より良い程度。『放出』に至っては3要素の内の『距離』『速度』はずば抜けて高いものの、『強度』がかなり低い。
つまり速く、遠くのものを魔法で操れるものの、大質量を操れない。具体的には他の高評価を打ち消して、ランクが1つ下がるほど、である。
ランク制度が実践的なバランスを重視する分、ランクはそれぞれの能力値の単純な足し算ではなく掛け算で決まる。
世界最高レベルの『霊視』能力を持つからこそ、ギリギリAランクの規定に達しているがAランク魔法師に求められる大質量の物質を操るということができないのだ。
通常こんなことはありえない。よくて1つ上がるぐらいである。ようするにAランクとはいえリクの実力には疑問がもたやすいということだ。
実力を誇示し外野を黙らせようとも、クラスメイト達とうまくいかなくなることは明白だ。どちらにしてもリクの求める平穏な日常とはかけ離れた結果になることは間違いない。
「俺は平和主義者・・・平々凡々に生きたいだけなんだがなぁ」
「ハハ、出た。リクの平々凡々」
「なんだよタケル」
「リクが平々凡々とか、ぜってー無理だって。第一級霊視官って知られる前から波乱万丈な生き方していたじゃん、リクは」
「俺は普通だ。周囲の方からトラブルが来るだけだ」
「トラブルに愛されているわね」
「ぐっ」
「あっはっは。確かに、ボクから見てもリクはトラブル体質だよね」
「大半のトラブルの原因はお前らだろうが!俺は巻き込まれているだけだ!」
「いやー」
「そんなことないよなぁ」
「そうそう」
にやにやと笑いながら、ミクとタケルが言った。態度からも全く反省していないのがわかるので、リクはいつも通り諦めた。
「ハア・・・・でも本当にこれから面倒だな」
「ま、できる限りサポートはするわよ」
「同じく。面白そうだからな」
「あーあ。ボクも同じクラスならよかったのに」
この4人の中ではミクだけがCクラスでそれほど魔法技能が高くない。しかし彼女も彼女でずば抜けて頭がいいので(座学のみの全国模試で常に一桁)、周囲から一目置かれている。
ちなみにタケルは将来のSランカーは確実と言われているAクラスでもぶっちぎりの実力を持つ魔法師だ。
ヒカルに至っては正確な数字はわからないが、下手すると第一級の霊視官より少ないであろう実力のある気功師だ。
普通気功術はそんなに技を覚えられない。生涯に1つの気功術しか習得できなかったなどというのは、修練環境が整っていないことを加味してもザラである。
「どう考えても俺が一番普通だと思うのだが・・・」
リクの悪いところ。それはいろいろな世界で天才と言われる人々を見てきたので、自己評価がかなり低いところである。普通に考えればリクも大概チートなのだが、数々の失敗経験からその意識が低い。
気が付くと周囲の3人が呆れた視線でリクのことを見ていた。
「な、なに?」
「いや?相変わらずだなーって思って」
「ホントにアンタってやつは・・・」
「ハッハッハ。リクがどう考えても一番普通じゃない」
「いや、俺なんて『霊視』以外とりえないだろ」
「「「ハア」」」
「なんなんだよ全く・・・おい、置いてくぞ」
呆れて立ち止まった3人にリクはそういった。
「まあ、これがリクのいいところよね」
「ん~、ボクは自覚がなさすぎるのはどうかと思うけど」
「まあいいじゃねえか。これでこそリクだぜ」
リクは知らない。特異な力を持っていても、特異な力を持っている人たちが周囲にいても、卑屈にならず、おごりもせず、常に普通であることの価値を。
彼は周囲の天才たちにとっての、いわば『バランサー』だ。高位の霊視能力を持つリクがそれにおごらず、自身の研究成果に天狗になることなく、周囲の害意に振り回されずに、あまりにも自然に過ごしている。だからこそ他の『天才』はリクの周りに集まってくるのだ。
リクと一緒にいることで自分自身を見つめなおし、驕らずに努力しようという気になる。リクにはそんな不思議な力を持っているのであった。




