選ばれし人々
組合に行ってから10日後。ついにリクが霊視官。それも低位の霊視官ではなく最高位の第一級霊視官であることを公表する日時が来た。それまでの間、リクとヒカルはかなり忙しかった。主に引っ越しの準備で・・・
霊視官補佐と霊視官の違いはなにか?これは一般にはあまり知られておらず、未成年の霊視官が霊視官補佐であると思われがちであるが、実のところ大きな差があるのだ。簡単に言うと霊視能力が霊体に定着しているかどうか、である。
幼い高位の霊視能力者が周囲からの悪意や敵意にさらされると、霊視能力を低下させることで自身の精神や霊体を守ろうとするのは、その手のことに詳しい人ならよく知っていることである。
また、霊視能力を低下させた元高位霊視能力者が、組合で働くというのはよくあることなので、実のところ組合では霊視官以外の人間も働いている。
生まれた時には100人に1人はいるとされている高位霊視能力者だが、10歳になるころには1万人に1人までその数を減らし、成年まで霊視官レベルの霊視能力を保っているのは10万人に1人。その中でも第一級の霊視能力を持つのは1000人に1人。そのため、第一級霊視官とは、1億人に1人。
ヒノモトの国の人口が約1億人なので、文字通りリクはヒノモトの国を代表する霊視官になるのである。
(しかし、ヒノモトには実のところもう1人第一級霊視官がいる。レイジというリクの(不本意ながら)師匠にあたる人物にあたる人である)
まさか子供の内から全ての高位霊視能力者に護衛をつけるわけにもいかない。(高位霊視能力者を不快にさせない思念波を放つ人物がそろわないため。悲しいことに護衛をつけた結果、護衛からの悪意で霊視能力を低下させたという事例は枚挙にいとまがない)
かと言って、大人の使える(霊視能力を低下させることが無くなった)霊視官に援助なしというわけにもいかず、リクは(もちろん護衛役のヒカルも)組合が保有するより安全なマンションに引っ越すことになったのだ。
タツヤの方も敷地の防御や家族の守りを組合から援助を受けて行うらしく忙しそうにしているし、組合の方も急遽決まったリクの昇格に向けて準備に慌しい。つまり、リクとヒカルはほとんど2人で引っ越しの手配をしなくてはならなくなったのだ。
「まったく、なんでこんなに急いで霊視官にならなきゃいかんのかね・・・」
引っ越しも終わり、新居に移ったリクとヒカルはぼやいた。
「アンタが優秀すぎるせいでしょ。こっちだってまさか同棲までするはめになるとは思っていなかったんだから」
「いや、ヒカル。お前霊視官の常識なさすぎだろ。それぐらいは普通だ」
「しらないわよ。身近にいなかったんだから、仕方がないでしょ」
「よくそんななにも知らないのに俺の護衛になろうとか思ったよな」
呆れた。そういう態度を隠そうともせずリクは言った。
「言っとくけど、襲ってきたら殺すから」
「アホ。気功師相手にそんな馬鹿なことするか。それに風呂もトイレも別で、家の鍵が一緒なだけで、内鍵までついているんだから、気にしすぎだろ。文句付けすぎだぞ、お前。援助ありとはいえ家賃は俺が払っているんだからな」
「それも加味して、護衛としての未熟さもあわせて、格安で受けているんだから感謝してほしいわ。ほとんどお小遣いみたいな金額じゃない」
「いや、あれだけもらっていてお小遣いとか・・・このお嬢様め。言っとくけど、護衛としてのヒカルは新米もいいとこで、本来お金くれって言えるような立場じゃないんだからな」
「わかっているわよ、それくらい。だからツカサさんのところで訓練受けられるように頼んだんじゃない」
「普通そういうのにも金がかかるんだよ。このお嬢様め」
このヒカルという少女はその度胸の良さとは裏腹に金銭感覚は良いところのお嬢様らしい。リクはそう思いながらため息を吐いた。
「そういや、ヒカル。前の学校はいいのか?」
「いいってなによ」
「いや、友達とか・・・」
「ああ、家目当てに絡んでくる奴らはたくさんいたけど魔法が使えなくなってからは一変したわね」
「ふーん」
300回もの人生を体験しているリクからすれば特段珍しい話ではないので、リクは軽く流した。むしろヒカルの方がどう思われるのか不安だったようで、リクの対応に呆気にとられる。
「ふーん、って・・・まあいいわ。そんなわけで仲がいいと思っていた友達も1人残らずいなくなったから気にしなくていいわ。もしかしたらアンタの護衛って話が広まったらハイエナみたいに群がってくるかもしれないけど迷惑をかけるつもりはないから。安心しなさい」
「ま、ヒカルが気にしてないならいいか。わかった。気にしないでおく」
「それよりアンタの方は?」
「うん?」
「アンタの友達とかは大丈夫なのかって話。アンタが霊視官、それも一級霊視官で金持ちって聞いたら群がってくる奴らなんていっぱいいるんじゃない?」
「ああ、まあ、いるだろうね」
「いるだろうって・・・リクって基本的に軽いわね」
「そう?まあ、その辺は諦めているし、あまりにも酷かったら黙らせるから大丈夫」
「黙らせるって・・・どうするのよ?」
「叩き潰すだけだけど?ああ、霊視官基本法の勉強まだだっけ?」
「してはいるけどそこまで詳しくはできてないわね。まだ始めたばかりだし、ざっとってところ」
「なる・・・まあ、簡単に説明すると、高位の霊視官は自身の身を守るために、もっと正確に言えば自身の霊視能力を守るために、敵に対して攻撃するのが許されているんだよ」
「へ?だからって魔法じゃ・・・」
「そう、魔法じゃ勝てない。だから霊視官は組合に対して自分が見た霊視結果を証拠用のフィルタとともに提出するだけ。
するとあら不思議なことに、そのおバカさんの周りに不幸が起こる。失業とか、左遷とか、まあ、いろいろだね。フシギだダナー、ワタシタチハナニモシテイナイノニ、テキガイナクナル。ナンデダロウ」
「アンタ達って・・・霊視官って自分から敵を増やす人が多すぎない?自虐趣味というか」
「実際、高位の霊視官にとって、畏怖や恐れはともかく、『悪意』は攻撃と一緒だからね。まあ、基本はフィルタかけて霊視能力下げているしそこまでにはならないけどね。今の一例は本当にひどい場合の話。たいていの一般人はこの話をすれば引くしね」
「まあ、そりゃそうよね・・・ん?けどリクって思念波遮断フィルタや減衰フィルタ使ってないって言ってなかった?」
「うん、まあ。俺慣れているし。外敵に対して対応が遅くなることの方が怖いしね」
「なるほど・・・化け物扱いされるわけね」
「なあ?普通そういう俺に対する個人的な感情は隠さないか?」
「隠しても無駄なんでしょ?」
「無駄だけどさあ・・・まあ、いいか」
ぶつぶっと呟くリクを眺めながらヒカルはクスリと笑った。片付けをしながら話しているうちに気が付く。どうやら自分が思っていたよりこれからの生活を楽しみにしていることに。
(この感情も読まれているのかしらね・・・・まあ、いっか。こいつの役に立てるのなら)
簡単にリクは受け流したし、自分も重たい雰囲気が嫌だったから努めて軽く言ったが、ヒカルの受けた扱いは、そして嫌な過去の話をしたヒカルの心は、実のところそれほど軽くはなかった。
魔法の実習の授業中の訓練と称したイジメ。ヒカルはその過程で、自分が気功師だと知る前から『身体硬化』といった基本的な気功術を身につけている。それを考えると彼女がどれだけひどい目にあっていたかは想像に難くない。
それどころか普通より明らかに早く気功術を身に付けたのは、彼女個人の才能も大きいが、彼女のモチベーションが高く、自身の身を守るためにも訓練に本気で邁進していたからに他ならない。
だからこそ満足な師もいない中で(家の力で希少な気功術に関する資料を集めたりできたことを除いても)、すでに2つの(不完全な『自動操縦』と『飛行』をいれれば4つの)気功術を身に付けているのだ。
これは気功師の人数が少ない(というか把握できない。気功師の多くが、嫌な目にあって自身の技術を秘匿しようとするため)ことを加味しても、リクと同等の、いやそれ以上の才能と言えるかもしれない。
そんなヒカルだったが、本人は気が付いていなかったが、リクの護衛となって近くにいる今、かつてないほど上機嫌になっていた。
翌魔法歴2543年7月13日より、リクとヒカルのことが発表され、その日をもってして、リクは正式にヒノモト2人目の第一級霊視官に、ヒカルはその護衛の気功師となった。
後に『最高の霊視官』と呼ばれるリクと、『現代気功術の祖』と呼ばれることになるヒカルの記念すべき門出の日であった。




