和解とヒカルの護衛官としてのハジマリ
今日は長いのでこれ一話。
「つまり、そちらの不手際であったと?」
「そもそもタツヤ様が正規の手続きを経て、組合を通してリクに依頼をしていただければこのようなことにはなりませんでした。
私的に依頼を出すことは組合の理念に反しますので以後、お気を付けください。それに今回の襲撃試験についてはリクの方からも組合からも事前に通達をしています。問題は無いかと思いますが?」
「ゴム弾とはいえ実銃を使った襲撃があくまで訓練だと」
「先ほどから申し上げております通り、娘さんを危険な目にあわすのが嫌ならリクの護衛にならなくて結構です。こちらで手配しますから」
どうも、タツヤとツカサは勘違いがどうという話は置いといて、もとから波長が合わないようである。
リクとヒカルはハアと2人でため息をつきながら、仲裁に入る。
「お父さん!」
「ツカサさん、少し落ち着いて。悪いのはミクル!そうでしょう?」
「ええ、そうよ!ミクルさんがちゃんとしていなかったから勘違いが起こっちゃっただけで、ツカサさんは悪くないのよ!」
リクとヒカルはこの場において1つの暗黙の合意に達していた。この場を納めるためにとにかくミクルには悪者になってもらう、というものだ。
現時点で支部長からミクルにお怒りの電話が言っていることは間違いないだろう。また、(タツヤを経由して)依頼の仲介役であったシゲルと、仮の上司にあたるツカサからも叱責を受けるのは間違いない。
「しかし、ミクル君は組合の人間だろう。ならば責任は組合そのものにあるはずだが?」
「ミクルは警察からの依頼で霊視能力を鍛えているだけで、所属は警察です。組合ではありません」
「しかし、仮とはいえ組合の所属でもあるはずだ」
「それは・・・」
「まあまあ。タツヤさん。あなたも組合を敵に回したいわけではないのでしょう?どうかその辺で・・」
「そうよ、父さん。父さんの思念波でビクビクしている霊視官補佐の子供たちもいるんだから、もうやめようよ」
「む・・・」
組合を敵に回す。それは様々な点において不利益を被ることが多い。組合はそれだけの大組織なのだ。さすがに組合全てを敵に回すつもりはなかったのか、それとも、子供たちのことを言われて落ち着いたのか、タツヤはひとまず落ち着いたようである。
「しかし、リク。この男があなたのことを利用しようとしているのではないかという疑念が消えたわけではありません。ここではっきりとさせておかないと・・」
「ああ、それでツカサさんは怒っていたのか・・・ツカサさん。いや、ツカサ姉さん。大丈夫だよ。本当にタツヤさんは俺のこと知らないから」
リクはここでようやくツカサがなにを懸念しているのか理解した。その上であえてフレンドリーな昔の口調に戻し、ツカサの怒りを和らげようとした。
「はっ?なにを言って・・」
「だからタツヤさんは俺のこと詳しくは知らないんだよ。本当に」
「まさか・・・いえ、ならどうして危険な役割のリクの護衛に自身の娘を出すなどと・・」
「知らなかったからじゃない?俺の護衛が普通の霊視官のものより危険だってこと・・」
「ということは、リク。あなた、まさか説明していなかったのですか?」
「自分で説明するのって変じゃない?自意識過剰みたいで・・・まあ今回の一件の原因でもあるようだから謝るけれどさ。それに今日のことがあるまで完全に信用していたわけではなかったし。今日の試験がちょうどいいかなーと」
「それでも」
「大丈夫だよ、ツカサ姉さん。俺、人を見る目はあるつもりだよ」
リクはジッとツカサの瞳を見て話しかける。
「それは・・・・・・・そうですね。タツヤさん、すみませんでした。今までの件、謝罪させていただきます」
ツカサはリクと話してから一転、何故か頭を下げた。
単純にリクの霊視能力の方が卓越しているため、人を見る目がある(というかツカサがリクの人を見る目を信用している)ということもある。なにより自身が霊視で確認しても、タツヤにリクの秘密を知っているそぶりが見られなかったからである。
「ずいぶん好き勝手してくれた挙句、これかね」
タツヤはツカサに足して不満を言おうとしたがリクがそれを遮った。
「ええ、ま。私はこの支部ではかなり優秀で、結構稼いでいますから。ツカサねえ・・ツカサさんは私のことを心配なさって暴走されたのだと思います」
「はっ!いくら稼いでいるというのかね!確かにキミは優秀だ!それは認めよう、しかし私が調べた限り・・・」
タツヤはリクからの指摘に言い返そうとしたが、リクはかぶせ気味に発言しタツヤに何も言わせなかった。
「年に3千万ほどですかね」
「・・・は?」
「ですから、3千万ほど稼いでいます。知りませんか?『食料保存の魔道具』。生鮮食品の保存期間を約2倍に伸ばす技術が10年ほど前に開発され特許申請されたこと・・」
「・・・・・いや、その魔道具自体は知っている。私の仕事とはあまり関係がないが、世界の食料廃棄物を約4割減らし、ヒノモトの食料自給率を25%上げたと言われている技術だろう。確か冷蔵する必要が無くて、再利用もできる魔道具だからランニングコストが既存の保存技術より3割は安いとされている・・・まさか、キミが?」
「ええ、まあ」
「いや、しかし確か開発者の名前が違ったはずだが・・・・」
「代理人です」
「代理人?」
「ええ。当時は保護法によって個人情報を外に漏らさないよう情報統制がされましたから、彼はただの代理人です」
「代理人・・・そうかだから・・」
さすがの達也もこれには驚いたようで、呆気にとられていたようであるが、徐々に全貌を把握し始めたらしい。
「そうです。だから意図せずして組合を通さず、私に依頼をし、あまつさえ外部から急遽私の護衛役に自分の娘を当てようとしたと思われていたあなたのことを、皆さん警戒されていたんだと思います。
これは私が個人情報を開示していなかったためでもあります。申し訳ありませんでした」
「・・・・フウ・・・・・なるほど。そういうことかね・・・・クックック、ハーハッハ。つまり私はキミを食い物にして利権を貪ろうとする老害扱いされていた。そういうことかね」
リクはタツヤの道化のようなそぶりに説明を誤ったかと一瞬不安に思った。
しかし、それはどうも杞憂であったようである。
「いえ、さすがにそこまでは・・」
リクは苦しい口調で話を続けるが、その前にタツヤがリクの言葉を遮った。
「まあ、いい。リク君キミが悪いわけではないことも、ツカサさんや組合の方々が悪いことではないことも理解した。要するにすれ違いであったと。そう言うことだな?
その上で、ツカサさん。あなたにはひとこと言わせていただく」
「・・・なんでしょう?」
「私はそのようなゲスではない。子供を食い物にするような行為は私が一番嫌いな行為なのでね」
タツヤの目には強い力が宿っていた。ツカサはそれを真正面から受け入れた。そして今度こそ真摯に頭を下げた。
「確かに・・・そのようですね。先ほどまでの無礼、どうかお許しください」
「なに、かまわんとも。あなたのような人がいる組織なら、ヒカルを預けても問題なさそうだ。いや、それでもやりすぎなだとは思うが、そのことは、今はどうでもいいことだ・・・ヒカル!」
タツヤはそうぼやくと、突然ヒカルに話しかけた。
「はい!」
「お前はこの組合に、この人たちとともに骨を一緒に埋める覚悟はあるか?どうやら私が思っていたより、一癖も二癖もある連中らしいが・・」
その言葉でヒカルに視線が集まった。気が付けば周りには野次馬の霊視官や霊視官補佐たちがたくさんいたのだ。ヒカルは彼らの顔を1人1人見て、最後にリクの顔を見て、頷いた。
「もちろん。私は最初からそのつもりです」
「結構、ならば頑張れ。もっとも護衛として、いや、身内として認められるかどうかはお前次第だと思うがな」
「・・・よろしいのですか?」
組合の職員全体の疑問を代表してツカサが聞いた。
「かまわん、好きに使ってくれ。逆に聞きたいがヒカルは・・いや、私たちは霊視官の、いやリクの護衛とその家族として認められたのかね?」
ツカサはリクの顔を見、ヒカル、タツヤときて、最後に集まっていた霊視官や霊視官補佐たちの顔を見て頷いた。
「第二級霊視官として・・・いや、リクの新しい家族として、我々組合の友として歓迎いたします」
それと同時に周囲の組合員が全員頭を下げた。
「それは重畳。ではよろしく頼む」
その瞬間、ワッと周囲の人々から歓声が上がった。新しい仲間を歓迎する声である。
霊視官は・・高位霊視能力者は、特に孤独だ。人とは違ったチカラを持つがゆえに、尊敬され、畏怖され、恐怖される。ゆえに互いに相性が悪く嫌いな相手であってもそれが仲間のためなら全力を尽くす。本当はそんな情の篤い人々なのだ。
だからこそ周囲の人々を警戒するし、だからこそ新しい仲間は、全力で守る。たとえそれが赤の他人であっても、だ。
しかし新しい仲間を歓迎する一方で、1人怒っている人がいた。ヒカルである。
「ちょっと待って!私はヒカルの護衛であって、仲間と認めてくれるのはありがたいけど、家族とか関係ないからね!そんなんじゃないから!ちょっとリク!アンタもなんか言いなさいよ!」
ようやく落ち着いたと思っていたのに、気が付けば最後に爆弾を落とされた。ヒカルはまさしくそんな心境だった。それに対して
「違うのですか?」
と、ツカサ。
「え~?自分の体で銃弾受け止めてリっくんを守ったって聞いたけど?それに呼び捨てしているし、怪しいな~」
とアカリ。
「だから違うってばー!」
ヒカルの入会がようやく決まった。しかし、その始まりはヒカルの叫び声が響き渡るなんとも締まらないもだった。
なお、当然のごとくリクは「リクとヒカルが家族」という発言をスルーして藪蛇にならないようにしていたという。そのことで最後にヒカルとリクの間でまた一悶着あり、それがいっそう二人の関係についての噂話のネタになるのは、また別の話である。




