霊視官たちの気持ちとヒカルの思い
今日も長いので1話だけです。
ちなみにこれもまだ予約投稿中なので、短く毎日投稿するか、まとめて投稿するかは決めていません
覚醒は気持ちのいいものとはいえなかった。ゴム弾とはいえ、風の魔法で加速した銃弾を何発もくらった挙句、電撃で痺れさせられ結界で無理やりとらえられた。加えて普段訓練でしか使用せず実戦使用を禁止されていた、『自動操縦』を無理やり発動させたのだ。
この魔法は、自分の体を思念波のみで無理やり動かす魔法であり、何度も訓練し自分の体の動きと、思念波のイメージを完全に一致させてから発動しないと、体を無理やり動かすことになり、どこかしらを痛めるのだ。現に・・・
「ッ!」
声にならない悲鳴を上げてから、自身の右手首にヒカルは違和感を覚えた。気が付けば右手首がとても熱い。なぜ気が付かなかったのか不思議なぐらいである。
「フー」
息を吐きながら、ヒカルは自身の体に集中し、怪我をしている患部を確認。その後思念波をコントロールして健康な自分をイメージする。
「驚いた・・・気功術を習って1ヶ月って聞いていたのに、もう『回復活性』まで使えるんだ!うわー、リっくんが護衛に認めるだけあるね~」
どこかポワポワとした軽い声に、ようやくヒカルは周囲に人がいることに気が付いた。
ヒカルはとっさに体を動かそうとして、声にならない悲鳴を上げた。
「あっ!ダメだって安静にしないと!もう試験は終わっているから大丈夫だって!」
そう言ってのぞき込んできたのは、かわいらしい顔を、心配に少しゆがめた女性だった。
ヒカルより年上ではあろうがどこか幼く見える、そんな女性だ。
「あ・・・アナタは?」
ヒカルはそう言って、予想以上にかすれた自分の声に驚いた。気が付けば喉がカラカラだ。
「私はアカリだよ。ちょっと待ってね。いま水差しと薬用意するから」
そう言ってアカリと名乗る女性は吸い飲みに少し緑がかった色の液体を入れて持ってきた。
ヒカルはとっさに警戒をする。
「アハハ。大丈夫だよ。毒なんていれていないから。大丈夫、試験はもうおしまい。ツカサちゃんのことも後でしっかり怒っておくから!」
ヒカルはその瞬間、アカリと名乗る女性の言うことに逆らってはいけない。そんな気がしたが、当のアカリはヒカルの前でニコニコと微笑んでいるだけである。
「(なんで悪寒なんか・・・優しそうな女性なのに)あ、ありがとうございます」
そう言って一口、吸い飲みから薬を飲み、アカリは驚いた。体中の疲労が一掃されるかのような、そんな感じを覚えたのだ。
「すごい・・・」
気が付けば喉のイガイガもすぐに治り、先ほどのかすれた声で無く、いつも通りの普通の声が無意識にヒカルの口から出ていた。
「ふっふーん。すごいでしょう!なんてったって、ヒノモト一の霊薬調合師、アカリお姉さんが調合した薬だからね!まったく、こんなに素直でかわいい子に、酷いことするなんて!ツカサちゃんは過激すぎるのよ!」
プンプン、と声に出しながら可愛らしく1人話し続けるアカリだったが、話すにつれてやっぱり「逆らってはいけない人である」。そんな予感がヒカルの頭を占めた。
「うん?なにかな?言いたいことがあるのかな?良いよ良いよ!なんでも言って、お姉ちゃん、ヒカルちゃんの言うことならなんでも聞いちゃうよ?」
「えっ?えーっと、その・・・リクと父は無事ですか?」
純真な目をしながらどこか恐ろしい。そんなアカリの目に耐えられなくなって、ヒカルはとりあえずとっさに頭に浮かんだことを聞いた。
「無事だよ~、もちろん。今は今後どうするかについて話しているはずだよ!」
「今後・・ですか。私は・・・その、合格・・したのですか?」
「ん~。それはヒカルちゃん次第かな」
「それは・・どういう?」
「う~んとね、私たちみたいな霊視官にとって、どんな人が護衛に相応しいと思う?」
「えっと、それは強い人?護衛に優れている人?ですかねやっぱり」
ヒカルは若干悔しさを滲ませつつ、そう言った。
「うん、間違いじゃぁないね。けど足りてもいないかな」
そっか、この人も霊視官なんだ・・・・そんな余計なことを考えつつヒカルはこたえる。
「じゃあ、裏切らない人、とか?」
「うん、それもちょっと違うかな。答えを言っちゃうとね。それは霊視官のことを怖がらない人、自然に接することができる人、なんだよね」
「えっ?」
予想外の答えにヒカルは止まった。
「高位の霊視能力者ってさ、他人の思念波に敏感だからさ。自分への悪意とか恐怖、それだけでなく、好意や敬意。そういったものを敏感に感じ取るんだよ。
言ってしまうと「あなたのことが怖いです」とか「あなたのことが大好きです。尊敬しています。なんなら命を懸けます」とか、常に言われ続けている。そんな状況なわけ」
「それは・・・」
いやだ。ヒカルはとっさにそう思った。
「そう、そんな状況がずっと続くと疲れちゃうよね。だから一番身近な人には、普通に接してもらいたい。それがみんなの思いなの」
「けど、リクは・・」
「ああ、あの子はト・ク・ベ・ツ。あれだけの霊視能力をほこっていながら、思念波遮断フィルタも使わず、自分のことを高位霊視能力者と悟られることもなく、周囲の感情全てを受け止めながらも、普通に生活しているのよ。
訓練である程度霊視能力をコントロールできるとはいえ、限度があるしねぇ・・・ね?おかしいでしょ?」
「リクが初めて会った霊視官でしたから、あれが普通なのかと思っていましたが・・・確かに話を聞くとそうですね」
前から只者ではないと思っていたが、ヒカルはこの時リクのことを初めてしっかりと化け物じみた人であると認識した。
「でしょ?普通、あそこまで強い目を持っていたら、疲れちゃう。ツカサちゃんみたいにね」
「ツカサさんも?」
確かヒカルのおぼろげな記憶では、ヒカルたちのことを襲撃した人のはずである。
「ええ、とても強い目を持っているわ。それに彼女は家族に恵まれなくてね。ま、それは孤児のリっくんも同じなんだけど、ツカサちゃんは家族の嫌悪の感情をずっと感じ続けた。
普段の仕事はきっちりするいい子なんだけど・・・だからちょっと寂しがり屋さんなのよ」
「・・・ちょっと?」
アレをちょっとというあたりこの人も大概おかしい。ヒカルはそう思った。
「クスクス。まあ、普通の人から見たらそう思うわよね。けど、本気でリっくんの護衛をする気があるのなら、覚えておいて。霊視官はすねに傷を抱える人が多いの。
それだけに信頼できる人を見つけたら依存しやすいし、その人のためならなんでもするようになるわ。見たでしょう?組合の設備を」
ヒカルはアカリのまじめな視線に居住まいを正した。
「ええ、まあ」
「あれは全て、霊視官が信頼できる人を見つけた時に造って送った贈り物なのよ。それだけ、霊視官にとって信頼できる人。つまりは護衛ね。彼らの意味は重いわ。
今話した通り、そしてヒカルちゃん。あなたを襲撃したツカサちゃんのように、霊視官は確かに少し変わっているわ。でもそれは愛情の裏返しみたいなものね。普通の人より明らかに強い愛情に霊視官たちは餓えているわ。
霊視官ってそんなかなり変わった人たちなの。それでもヒカルちゃんはリっくんの護衛になるつもりはある?」
ヒカルはリクや、ツカサ、アカリのことを考えた。そしてすぐに深く考えるのをやめた。
「関係ないです。私がアイツの護衛になるって決めたのは借りを返すためです。まだ、アイツには借りがある。借りがあるままでは、私は胸を張って生きられません。だから私はアイツの護衛になります」
その言葉にアカリは呆気にとられていた。
「リっくんに・・・霊視官に借りを返すために、護衛になるというの?あなたは」
「ええ、まあ」
「心が・・感情が読まれるのに?」
「私だって、見ればアイツがどういう機嫌かぐらいわかりますよ」
自信をもってヒカルはこたえた。
リクの印象は最初、最悪だった。意味の分からないことを言う父が連れてきた胡散臭い霊視官とやら。それがリクの第一印象だった。
魔法が使えなくてパニック寸前だったヒカルは、そして友人と思っていた人々から陰口を叩かれ、実技実習と称しておふざけの威力とは言え、一部のクラスメイトから魔法を打ち込まれていたヒカルは、当然ながら人間不信になっていた。
そんなヒカルがリクのことを簡単に受け入れられるはずがない。検査を繰り返しながらもなにもわからないという医者たちにもその思いに拍車をかけた。
しかも見るからに同年代でさえない顔のリクのことを信用する気は、はじめは一切なかった。
しかし、あれよあれよとリクの言うことに流されていくうちに、気が付けば使えないはずの魔法が、気功術が使えるようになっていた。それはヒカルにとっては本当の救いで、本当にうれしかった。
その時は混乱からちゃんとしたお礼を言えてなかったが、ヒカルの中にあるのは、ヒカルに希望を与えたのは、間違いなくリクだ。
ちゃんとしたお礼を言うためにも、リクの護衛の話をヒカルは一も二もなく引き受けた。自分に希望を与えてくれたリクの、彼の仕事の手伝いができる。それだけで彼女にとっては嬉しかったのだ。
今度こそちゃんとあってお礼が言える!そう思って期待を胸に改めてあったリクにヒカルは、その戦闘技術に対する驚きと、そして憧れていた人への落胆と、様々な感情を抱いた。
それでも・・・いやだからこそ、ちゃんと胸を張って言える。
「私の知るリクは、霊視官といっても、すごい戦闘技術を持っているとはいっても、ただの同年代の男の子ですよ。怖がることなんてなにもないです。あなたたちだって、リクと同じ、ううん。私と、私たちと同じ人間でしょう?」
当たり前のことを言っているつもりだった。しかし、その言葉にアカリは大きな瞳からポロポロと大粒の涙をこぼした。
「あれ?おかしいな・・・ごめん」
「え?あっ、すみません!なにか気に障るようなこと・・・」
「違うよ!違う・・・違うの。私たちのこと怖がらずに普通の人として見てくれる人、あんまりいないから・・・その、年下の前でなにやっているんだろう、私・・・ほんと、ごめん」
「いえ・・・大丈夫ですよ。全然」
「ねえ?ちょっと、胸かりていい?」
アカリは情けなさそうに涙を流しながら、それでもヒカルの目を見てそう言った。
「いいですよ?」
ヒカルが戸惑いながらもすぐに答えると、アカリはすぐにヒカルに抱き着いた。
(ホント・・・丸きり子供みたい・・・)
ヒカルは今まであった3人の霊視官を思い出して、そう思った。体中が痛いのを我慢してアカリの頭をなでながら、ヒカルはリクのことを考えた。
尊敬した人は、憧れた人は、実際に会ってみれば、ただの同年代の子供だった。面倒くさいことは面倒だというし、嫌なことは嫌という。そんな普通の男の子だった。
他の霊視官たちも、みんな同じだ。嫌われないかびくびくしながら周囲と壁を作ったり、必要以上に優しくして見せたり、自分となにも変わらない『人間』なのだ。一度魔法が使えなくなって、周囲に馬鹿にされたり、気を使われたりして何もかもが嫌になった自分とまるきり変わらない。同じ『人』だ。
そして、だからこそ。そんな彼らが頑張っているからこそ、自分は彼らの役に立ちたいのだ。
(なにがなんでも、リク。アイツの護衛になる!そんで、私のことを認めさせて、そんで、ちゃんと借りを返して、そんで、そんで、その上でアイツの仕事の、いろんな人の役に立ってみせる!)
そんな気持ちを新たに抱きつつ、ヒカルはアカリが落ち着くまで頭をなで続けるのであった。




