ヒカルへの試験
今日は少し長めなのでこれ1話です。
「ここが・・・」
魔道車で約30分離れたところに世界霊視能力者管理組合ヒノモト国キサラギ支部はあった。建物の外観は普通の建物とあまり変わらない。
しかし、高位の霊視官が見ればその評価は一変する。
実際霊視官たちはここのことを長ったらしく世界霊視能力者管理組合ヒノモト国キサラギ支部とは呼ばず、『要塞』とよんでいる。(当然だが組合と呼ばれることも多い)
それは周囲に幾重にも結界が張り巡らされているからである。これは、数十発も魔法を打ち込んで襲撃にも一枚で耐えうるもので世界でも類をみないほど強力なものだ。
そのレベルの結界を10枚、加えて思念波探知結界、熱源探知結界、カウンター用迎撃魔道具、地球のものとほぼ同じ性能のレーザー探知機器、自立型AIによる催涙弾・トリモチ弾・閃光弾などの発射装置、などなど。普通の民間組合にはないものが複数あるのだ。
「ねえ?霊視官たちってどこに戦争を吹っ掛けるつもりなのかしら?」
「ん?そんなつもりいっさいないけど?」
「いやはや・・・前に来たこともあるが・・・詳しい話を聞きながら確かに実際に見るとやはりとんでもないね」
「ああ・・・あれらは決して組合として用意したわけではなく、歴代の霊視官の方々が自費で用意したものなので、組合は一切関与していませんよ?」
その言葉にヒカルはあっけにとらえたが、シゲルはなにか事情を知っているのかしみじみとうなずいた。
「『霊視官に借りを作るな』とはよく言ったものだね」
「それは?父さん」
「ああ。簡単な話さ。組合に頼んで軍事協力させると、確実に組合の軍事力が増す。彼らは、その卓越した霊視能力と膨大な資金力、そして各地で得た伝手。それらを生かして簡単に軍事機密をコピー、いやさらに改良したものを組合に持ち帰る。
だから霊視官を軍事利用してはならないという教訓さ。
もっとも金がない後進国は組合に頼んで、圧倒的に安価な価格で軍事力を拡充させるから、組合に頼んで軍事開発し続けないと、すぐに追い抜かれるから痛し痒しなんだけどね」
「言いがかりです。組合は組織として機密は確実に守りますし、単純に霊視の結果得た協力者を使って(実際は不正や横領などを行っていた者たちをその能力で探し出して、脅し協力者としている)、それ以上のものを作りたいと思った一部の霊視官たちが趣味で作り上げた技術を、自主的に組合に納めているだけです。
組合が軍拡を行っているなどの事実はありません。趣味で技術革新を目指している霊視官と、自主的に協力してくれる方々がいるからこそ、できることです」
「いや、趣味って・・・協力者って・・・」
「協力者は協力者です。いや~、どこの組織にも快く協力してくださる方はいるもので、ありがたいことです」
リクはあくまでとぼけて言っていたが、ヒカルもその後ろにある意味を察したようである。
「・・・」
「ああ、そうだね。確かにただの言いがかりだね」
今日何度目かの絶句をしているヒカルをよそにタツヤは苦笑いをしながらリクにうなずいた。
「もっとも、それだけ好戦的な方々も多いのでヒカルさん。今日はよろしくお願いしますね?まず間違いなく組合の敷地に入ったらあなたが襲撃されますから。どんな手を使ってくるかわかりませんので」
「えっと、私、気功師としての修業を始めてからようやくひと月たったところなんだけど」
「お願いしますね?」
「い、いや」
「ね?」
「は、はい」
無論ヒカルとて、訓練自体は魔法師のころからしているし、気功師になってからはより一層訓練に励んでいる。護衛になることを打診されてからはタツヤのつても利用して、さらに厳しい訓練をしていた。
しかし、誰が護衛対象であるリクの身内から、リクを守るはめになると思うだろう。それに、もともと別に追加の護衛が付くはずだったのに、それを断ったのは当のリクなのだ。
「面倒くさいやts・・・失礼、面倒見のいい方々こそ、襲撃してくる率が高いですし、今のところ私は負けたことが無いので、むきになって襲ってくる方もいるのでよろしくお願いしますね」
「はあ」
どこか釈然としない。そんな感情を抱えながらもヒカルはしぶしぶ頷いた。
そして3人で組合の建物に入る・・・瞬間。リクの懸念通りそれは起こった。
銃撃音とともに、魔法を使ってさらに加速された弾丸がリクに向けて撃ち込まれる。リクは、その気配に気が付いていたが、あえてなにもしなかった。ヒカルの腕を見るのにちょうどいい。そう思ったからである。
ヒカルは人間そのものという魔法特性を持つ、気功師のみが使える魔法。『自己加速』でリクの目の前に瞬時に立つと同時に風の障壁魔法の魔道具を起動する。しかし、魔法で加速された銃弾を防ぐことはできす、勢いを殺すだけにとどまり、銃弾はヒカルにまともに当たった。
タツヤの方もまさかこのタイミングで、ここまで過激な攻撃を受けるとは思っていなかったのであろう。瞬時にキレて迎撃に回ろうとし、リクに止められた。
「ふざっ!」
ふざけるな!恐らくそう言おうとしたタツヤだったが、瞬間。魔道具のものより数倍強固な障壁を展開。周囲からの魔法攻撃による追撃を防いだ。
撃たれたヒカルだったが、『身体硬化』という基本的な気功術で弾をはじいたらしく、致命傷にまではいっていないようである。しかし負傷しているのには変わりない。
そのヒカルめがけて数人の男が飛び掛かろうとし、迎撃しようとしたタツヤだったが、驚くべきことに今度はヒカルが手でそれを制した。
「なっ!」
どうやらこの人は家族のこととなるとポンコツになるらしい・・そんなひどいことを考えながらもリクはタツヤに答えを教えた。
「ゴム弾ですよ。いつもより数倍過激ですが、おそらくヒカルさんが私の護衛に相応しいかどうかを決める試しでしょう」
タツヤはその言葉に不満そうにしながらも一応その場はこらえた。というか、正確には怒りとヒカルに対する心配で何も言えなくなったという方が正しい。
そしてリクがそう言っている間にも、男たちはヒカルに飛び掛かろうとして・・・反対に殴り飛ばされた。
「『自己加速』。それにつたないながらも『飛行』まで・・・すごいですね。さすが自力で気功術を身に付けた女性です。天才と呼ぶのにふさわしいですね・・・」
リクは周囲の戦闘音さえもそよ風のように受け流しながら冷静に分析する。
すぐに男たちはヒカルに制圧されそうだったが、そう簡単にはいかなかった。直後にヒカルがうめき声をあげて止まったのだ。
「『捕縛結界』・・・いや『捕縛電鎖結界』ですか。ここまでやりますか」
さすがに少し呆れたリクだったが、タツヤの怒りはそれどころではなかった。
タツヤは『カマイタチ』の魔法で敵を切り捨てようとして・・・背後から感じる殺気に冷や汗を流し、魔法発動を止めた。
気が付くとタツヤの背後にはナイフを首に突きつける女性と、銃口を突きつけて取り囲む男たちがいた。さすがにタツヤとは言えど既に攻撃準備に入っている敵全員を、攻撃される前に魔法で無効化することはできなかったのだ。
もし可能ならタツヤは迷わずそれを選択していただろう。
「久しいですね。リク」
「お久しぶりです。ツカサさん。まさかあなたほどの人から襲撃を受けるとは。いつも通り3バカあたりから襲撃を受けるものだとばかり思っていましたよ」
「まさか。あなたほど高位の霊視能力者の護衛のテストをするのに、あなたより低位の霊視官たちを使うわけがないでしょう?」
少し微笑みながら、それでいて冷たい殺気を放ちながら、ツカサと呼ばれた美しいスレンダーな女性は言った。リクは返答しようとしたがその前にツカサに食って掛かった男がいた。タツヤである。
「ふざけるな!テストだと?テストで此処までの大人数に、銃まで持ち出して襲撃させるなど!」
「ならば、あなた方家族はリクの護衛。およびその家族に相応しくない。この程度の危険や、霊視官の護衛の家族を人質に霊視官を脅す、などの手はよくあるものです。
その回答は護衛役に娘さんを差し出したくないということですね?ご苦労様でした。お帰りはあちらです」
そう言ってツカサは手で出口の方を示した。その言葉には有無を言わせない力が込められていた。
「なっ!」
「護衛を志願した、なにも知らない民間人に、わざわざ金をかけてテストを行い、現実を教えてあげたのですから、感謝してもらいたいぐらいなのですが?ああ、もちろん傷の手当の方もお気になさらず。うちの世界最高峰の治療を用意しておりますので。
協力してくださった、みなさん。おかえりくださって結構ですよ。それではリク。行きましょう。早く新しい護衛を手配しなくては・・・」
言葉通りの、いや言葉以上の冷気を周囲に漂わせながら、ツカサは言った。その言葉にわなわなと震えながらタツヤはツカサを睨みつけていた。なにも言わないのではなく怒りでなにも言えないのであろう。
あいかわらず愛娘のことになると甘い人である。リクはそう思った。
しかたなく、リクは仲裁に入ることにした。リク個人としても、ヒカルの初めての来訪にもかかわらず、ここまでの規模の襲撃をすることは予想外だったのだ。
「まあ、タツヤさんもツカサさんもそんなにケンカ腰にならずに、ね?それに、いいんですか?ツカサさん」
「なんですか?リク。さっさとこの一般人は置いといて、私と・・・」
「いえ、そうではなく。『私の』護衛はまだ健在ですが?彼女はそれほどやわではない」
「は?なんの冗談を・・『捕縛電鎖結界』でとらえられた、特殊訓練を受けていない一般人など痺れて動けるわけが・・」
瞬間、ヒカルが動いた。まさか動けるとはリク以外のだれも思っていなかったのであろう、襲撃者たちを置き去りにヒカルはツカサの首元にナイフを突きつけた。
「ア、嗚呼ああああああアア!」
ヒカルは叫びながら体中から血が出るのも構わず、無理やり『捕縛電鎖結界』を破った。
「これで・・ハア・・・・ハア・・・っ。おあいこ・・・ね。・・・・ッ、フウ。この女を殺されたくなかったら、父とリクを開放しなさい!」
ヒカルがそう叫ぶと襲撃者は予想外のことに一瞬硬直した。
「ホウ・・・これはなかなか。ふむ、『身体硬化』、それに『自動操縦』。海外でいうところの『セルフマリオネット』ですか。なるほど妙な動きをすると思いましたが、あなた気功師でしたか」
ツカサは首元にナイフを突きつけられながらも冷静に対応した。一方でヒカルの行動に驚いたのか少しばかりヒカルのことを見直したようでもあった。
「は?なにを言って・・さっさと父とリクを・・・」
「ですが残念。相手が悪かったですね」
ドンっ!ヒカルは音にならない衝撃を感じて、いきなり体の力が抜けた。
「霊視官である私は大した攻撃力を持たない、おそらくそう思ってのことでしょうが、減点です。私とて怪我を負ったあなたを倒すことぐらいはできるのですよ。これまでに何度も、私自身が狙われたこともありましたから」
「ヒカル!おい、しっかりしろ!」
ツカサが冷静に何事か話している。父が駆け寄ってくる。それをどこか遠くに感じながらも、ヒカルはリクの方へと腕を伸ばした。
「『霊撃』。霊視官が使う基本的な攻撃魔法です。勉強不足でしたね」
「リ・・・ク・・・」
そう言って倒れたヒカルは、悔しさに唇をかみしめつつ、ツカサの言葉をどこか遠くに聞きながら、父に支えられると同時に気を失うのであった。
おかしいだろ!感覚が!
と思われる方も多々いるとは思いますが魔法のある世界は何度も述べているように個人が銃を持つ世界ですから、護衛の訓練はこれぐらいすると考えました。
まあそれでもやりすぎな感じはありますが理由はおいおい明らかになります
またそんな世界であるため、当然、この物語の登場人物のほとんどの人が脳筋気味です。




