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平々凡々に暮らしたい~異世界転生を300回繰り返した結果~  作者: 活字中毒者
ハジマリの霊視官
25/81

世界で最初の霊視官

今日は長めです。

これ一話だけです。


少し重い話です。






 リクが霊視官補佐から特例を用いて、霊視官になるということを了承したとはいえ、すぐさま霊視官になれるわけではない。


 特例を使う以上面倒くさい手続きが増えるのは逆に普通のことであり、その手続きの間はリクも学校の人々に自分が高位の霊視能力者であるということをばらさなくて済む。


 もっとも、手続きに時間がかかる以上、逆にすぐさま取り掛からなくてはならないのも事実である。


 つまり翌、金曜日である今日。リクは学校を休んで(霊視官に正式になれば、後で公休扱いにできる)ヒカルとともに世界霊視能力者管理組合ヒノモト国キサラギ支部に護衛(候補)のヒカルを伴って向かう予定に(無理やり)なっているのだ。


 リクはまだ自分の家だが、タツヤがヒカルとともにリクの家に来て、その後組合に行く予定なのである。


 しかし、そんなふうに「自分の意思を無視して」「急遽」決まった「強制的な」予定にリクが乗り気のはずがない。それを証明するかのようにリクは家のチャイムが鳴ってもすぐに動く気になれず、リクが二人を迎えたのは二度目のチャイムが鳴ってからだった。


「おはよう。リク君、少し早いけど迎えに来たよ。準備の方は・・・まだのようだね」


「おはようございます、リクさん」


「おはようございます。タツヤさん、ヒカルさん。まあ、見ての通りなので、リビングにどうぞ。その間に準備しますから」


 リクは着替えてこそいたが、寝ぐせもついたままでいかにも睡眠不足といった顔をしていた。


「ふむ、では上がらせてもらおうか。まだ十分に時間はあるしな」


 おそらくヒカルと、それにシゲルあたりから詳しい昨日の経緯を聞いていたのであろう。もしかしたらそのために早めに来たのかもしれない。


タツヤは特に不機嫌になることもなく、リビングの椅子に腰かけた。


「どうぞ、粗茶ですが」


 リクはそう言って二人にアニスヒップのハーブティーを差し出した。リクはお茶が好きでベランダでハーブを数種類プランター栽培しているぐらいで、「普通は」客には自分でブレンドしたお茶をふるまっている。あくまで昨日の件は例外である。


 しかし、ヒカルは昨日自分にお茶は無かったことを思い出したのか、一瞬顔をしかめた。しかしすぐに漂う甘い香りにつられたのか、一口飲むとすぐにご機嫌になった。


 数分後、準備を終えたリクだったがまだ時間があるので、二人ともう少しお茶を飲みながら今日の予定についての確認を行うことになった。


「さて、今日の予定だが、組合に行ってリク君は霊視能力の検査、および霊視官としての適性検査。ヒカルはリク君の護衛としての申請および審査・・ということだが、まだ確認がまだだったな。リク君。キミはヒカルが護衛で構わないかね?」


「ええ。まあ、他に知り合いもいませんし、ヒカルさんさえよろしければ是非。逆にタツヤさんとヒカルさんに確認を取りたいのですが、護衛の件はよろしいのですか?」


「私は構わない。気功師として生きることになった以上、ヒカルは研究所で調査対象になるか、軍でいいように扱われるか。それぐらいしか職がないからね。今回の一件は渡りに船だと思っているよ。ヒカル、お前はどうだ?」


「私も構いません。リクさんはいちお・・ごほん、魔法が使えなくなった私に気功師としても道を示してくれた恩人ですし・・・もっとも、逆に1つ聞きたいのですが・・」


「なんですか?」


「あなたに護衛なんているんですか?今の世の中それなりに平和ですし、あれだけの戦闘能力を持つリクさんに護衛が必要になるとは・・・」


 ヒカルがそのような発言をしたのは昨日の一件が念頭にあったからであろう。少なくとも現時点ではリクはヒカルより圧倒的に戦闘能力が高い。


「それは違うな。ヒカル。逆に言うと彼は、孤児で霊視能力が高いというだけだったのにもかかわらず、高い戦闘能力を身に付けざるを得なかった。そういうことだね」


 タツヤはヒカルの言葉を遮って言った。最後の一言はリクに向けて話されたものだった。


「ええ、まあ。高いかどうかは別として、危険を感じて訓練に励んだからある程度戦える。というのが大きな理由ではありますが」


「なるほど・・・」


 ヒカルは気を引き締めたようである。


「そういうわけで、私が言うのもあれですが、あまり安全な職場とは言えません。研究所ではモルモット扱いされるよりマシかもしれませんが、そちらの方が危険は私の護衛より低いでしょう。それでも私の護衛になりますか?」


「やります」


「そうですか・・・では、ヒカルさんも組合では気を付けていてくださいね?」


「はい?」


 なぜ安全なはずの霊視官を保護する目的で作られた組合で気を付けなくてはならないのか不思議。ヒカルの顔にはそう書いていたが、リクは重ねてさらに驚くべきことを言った。


「私が一番襲われる可能性が高いのは組合ですから。護衛役をお願いしますね?」


「?」


 本当に意味が分からない。ヒカルはそんな顔である。


「ふむ、その話を聞くに、あの噂は本当だったのか」


「どういうことでしょう。パ・・父さん」


「組合では、幼少のころから子供たちに戦闘訓練をかしているという噂だ」


「えっ?」


「一応言っておくと、戦闘訓練なんて大したものではないですけどね。単純に先輩の霊視官の方々が後輩を気遣って、奇襲をかけたりしてくるだけです」


「え?組合って霊視能力者を保護するところじゃ・・・そもそも気遣って襲撃するって・・・」


 ヒカルの疑問がついに口からこぼれた。


「そうですよ?だからそうするんです」


「えっ?意味が分からないんですけど・・・」


「ふむ、リク君。ヒカルに少し説明してくれないかね?私も内部の人が、その件についてどう思っているのか知りたいのでね」


 タツヤの方も詳細までは知らないらしい。リクはそう思ってそこそこ詳しい話をすることにした。


「かまいませんが・・・まあ、時間の方も少ないので手短に・・・」





 かつて、霊視官の社会的立場が低く、魔法師が幅を利かせていた時。霊視官という世界資格がなかった時代です。一般的に放出能力の低いとされている、高位の霊視能力者は成すすべなく戦争に利用されました。


偵察、斥候にこれほど向いた人材はいませんから・・・


また戦争用の魔道具の開発が高位霊視能力者の戦時利用に拍車をかけました。各国はこぞって霊視官を合法的に、そして霊視官の人権を完全に無視して、監禁し研究に利用したのです。


 戦後になり、戦争の責任問題の話になると、真っ先に戦争を激化させた原因の1つとして高位の霊視能力者たちが、一斉に生贄にされました。


 単純に戦闘能力が低く、また戦争を激化させた要因として責任を取らせやすかった戦闘能力の低い高位の霊視能力者たちは、文字通りの意味で人柱にされたのです。


 弾劾裁判が行われ、幾人もの著名な高位の霊視能力者たちが死刑になっていく中、1人の高位霊視能力者の男が立ち上がります。


 オニ。本当の名前は未だに不明ですが、文字通り後世でもオニと呼ばれるに相応しいだけのことをした彼は、世界の高位の霊視能力者たちに決起を促します。


 我々がなにか悪いことをしたのか。無理やり研究に従属させられていたのになぜ、我々が弾圧されなくてはならないのか、と。


 実のところオニの活動家としての活動期間は3か月ほどです。様々な場所で活動していた彼はすぐさま秘密警察に捕まり文字通り拷問されたのです。


 しかしオニは折れませんでした。拷問され、家族や友人全てを殺された彼でしたが、それでも彼の心は折れなかった。むしろその怒りが彼を奮い立たせたのでしょう。


 彼が生かされ続け、家族が先に殺された原因はおそらく見せしめであると言われています。当時の政府はこれ以上の混乱が広まらないように、綿密に情報統制を行い、彼の思想が広まらないようにあらゆる策を講じたのです。


 彼の仲間を全員捕縛し、オニが残された人々の聖者、あるいは希望とならないように先に彼の周囲から抹殺して言ったのです。


 そしてオニの処刑当日。様々な拷問の後を刻まれたオニは、これ以上市民へよからぬ感情を抱かさないためにという政府の判断もあったのでしょう。人柱として市民の前へと引きずり出されました。


 政府の役人が言うがままに、そして、敗戦の怒りをぶつける相手として、すでに拷問でボロボロの体をしていたオニに数多の魔法が撃ち込まれました。


 しかし、オニはそれでも笑って見せた。それは憎悪だったのか、なんだったのか、今となってはわかりません。しかしオニは周囲が気味悪がって戸惑い、魔法が止まった瞬間に魔法を2つ発動させました。


「このくそったれな社会の中!、唯一私の友である、高位の霊視能力者たち!霊視官たちよ!私に続け!私達の死が!後世の無垢な子供たちの希望となるだろう!」


 1つはこの文言で知られるオニが最後に残した言葉。それを周囲の人々にできるだけ伝えるための『拡声魔法』。


 ちなみに余談ですが、霊視官という言葉はこの時初めて使用された言葉とされています。ええ、意外にも彼や彼に慕う霊視能力者たちに折れる形で、当時の政府は『霊視官』という彼が残した言葉をそのまま使用したのです。


 そして、もう1つが・・・







「『自爆魔法』・・・ね。有名な話だもの。私も知っているわ。周囲を囲んでいた数百人の市民や役人ごとまとめて自爆したって・・・」


 ヒカルが後を引き継いだ。


「ええ、まあ。魔封じの首輪をしていたのにどうして魔法を発動できたのか?魔法を使えるのになぜ逃げなかったのか?それはわかりません。


それを解くカギとなるかはわかりませんが、画質は悪いものの、記録の魔道具で彼の死の瞬間を記録したものが組合にあります。おそらく逃げ延びていた彼を慕う人が残していたものでしょう。当時の新聞もあります。


私の護衛として正式に登録していただければ、ヒカルさんでも見られますよ」


「貴重な資料はもちろん後で見させてもらうわ。けど、なおのことわからないわ。それが何故、先輩霊視官が後輩を襲撃する理由になるの?下手したら能力が不安定な子供の内に精神的な傷を負えば霊視能力が低下するんでしょ?」


「だからですよ」


「はい?だから!・・・・ってまさか!!!霊視官を保護するはずの立場であるはずの組合が霊視能力者を減らすために襲撃しているっていうの!!!」


「ええ。そうです。1つ訂正というか、補足させていただくと、組合の理念は『高位の霊視能力が悪用されることを防ぐこと』であり、『霊視官の保護』は目的ではありません」


「そんな!・・・でも霊視能力が低下した子供たちは!」


「よかったじゃないですか。普通の子供として残りの人生をすごせるようになって」


「なっ!!」


 リクのあっさりとした返答に、ヒカルはまさに絶句というのにふさわしい反応をした。昔から事情を知っていたであろう、タツヤでさえ若干顔をしかめているのだ。リクと同い年16歳の彼女にとっては、当然の反応かもしれない。


「我々霊視官は、霊視能力の悪用を許さない。


『霊視官規則 第一条 霊視能力の悪用はこれを防ぐべし。そこに手段は問わない。どんな手段をもってしても悪用を阻止せよ』


子供を悪用するなんて誰でも思いつくことですしね。そもそも、世界霊視能力者管理組合は民間企業の1つであり、それも最大の軍事機関だ。


組合に所属せず、軍事利用に加担している霊視能力者を抹消することも私たちの仕事です。だからあえて子供の霊視能力者に護衛は付けないんですよ。囮として彼らを利用し、その過程で彼らに現実を知らしめ、戦力として実施で育てるために。


そして子供たちを狙ったクズどもを抹殺する。その過程で生き残り、ドロップアウトせず、戦闘に巻き込まれても霊視能力を発揮できる人材のみを『霊視官』として登用する。それが組合のもともとの仕事です。


もっとも最近は名前を売りすぎたのか、組合に所属した時点で子供たちが誘拐されることは減ったので、仕方なく自作自演していますがね


 何故、戦時中のR指定されるべき資料を子供たちに開示しているのか。あなたのように護衛につくことになった未成年者にも見せるのか?それは・・・」


「・・・洗脳のため」


 ヒカルはリクの求める答えを正確に導き出した。それに対しリクは苦笑しながら言った。


「さすがに現代ではそこまではいきませんがね。まあ、似たようなものでしょう。組合というのはヒカルさんが思っているほど崇高な理念なんて持ち合わせていないし、それ以上に厳しいところです。


まあ、私たち高位霊視能力者たちからすれば世界が私たちに厳しいんですけどね・・・


それでは最後に、もう一度問います。それでもあなたは私の護衛を行いますか?」


「・・・・やるわ。そんなことを言われて、過去の歴史を知って、霊視官だけに義務を、責務を押し付けるほど、私は自分勝手な人間じゃないつもりよ」


 リクはタツヤにも回答を促した。


「娘が了承したのなら、私は止める気はないよ。ただ、可能ならば私もその資料を見せてもらっても構わないかね」


「ええ、かまいませんよ。普通に大人の方には一般公開していますから。というかそうしないと精神干渉魔法を用いて洗脳しているとか反組合の団体がうるさいんですよね」


「そうかね・・・それでは、さすがに時間が来たようだし、行こうか」


 そう言ったタツヤに促され、どことなく心にしこりを残しながら、リクたちは魔道車で組合へと向かうのであった。






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